722 反教会組織の正体
(リーフ)
ピンッと立った耳に、燃える様な真っ赤な髪。
若干キツめに見えるツリ目の奥にある瞳の奥には────灰黒いドロッとした憎しみと怒りが溢れている。
すっかり元の面影をなくしてしまっているが、間違いない。
「レ、レイド……?」
黒いフルフェイスの人物は、学院でいつも気さくに話しかけてくる犬の獣人少年、レイドであった。
驚きに固まる俺を余所に、アゼリアちゃんはレイド同様、頭に被っていた兜を脱ぎ捨て自身の刀をグッと構えると、覚悟を決めた目でレイドを睨みつける。
「……そうだな。昔の顔なじみとてソフィア様に危害を加えるつもりなら遠慮はしない。全力でこい。レイド。」
何らかのスキルを発動したらしいアゼリアちゃんの刀が青白い光を放ち始め、二人は睨み合った。
それを後方で見ながら、聖兵士達がコソッと動こうとした、その時────……。
「こ〜ら。後ろでコソコソ邪魔したらだめでしょ〜?」
音もなくその聖兵士達の後ろに一人の人物が現れ、あっという間に数人の聖兵士達の首をタガーで掻っ切る。
するとその者達の血が、まるでシャワーの様に吹き出した。
その原因を作った人物はフッと消えたと思えば、次の瞬間レイドの隣にまた軽快な動きで姿を現すとニコリと笑う。
「久しぶりだねぇ〜アゼリアちゃん。僕の事、覚えているかな?
お前たちが犠牲にした人たちの一人、リリアの兄のサイモンだよ。」
今よりやや長い髪を一つに縛り、女の子にしか見えない非常に可愛らしい顔に尖った耳。
花が咲くような笑顔は、レイド同様灰黒く染まった瞳によって霧がかった様に霞んでしまっている。
「サイモンっ!?」
まさかの二人目の人物を目にし、体は震える。
何故レイドに引き続きサイモンまで……反教会組織にいるんだ!?
目の前で起こっている事が中々受け入れられず目をパチパチしていると、アゼリアちゃんは悲しみと怒りと様々な感情を乗せた目をサイモンに向けた。
「勿論覚えているさ。お前のせいで随分と沢山の聖兵士達が犠牲になった。……小賢しい猫め。」
「あ、ごめんね〜。だってちょ〜っと情報いじっただけで、簡単にトラップに引っかかるんだも〜ん。
『死にたくない』って皆うるさくてさ、本当にうっとおしかった。
自分たちは平気で人の命を犠牲にしたくせに、自分は死ぬのが嫌なんだもんね?
────ははっ!ざま〜みろ!リリアの敵め!
レイド、周りの奴らは全員僕がやる。お前はアゼリアを頼む。」
「言われなくてもやってやるよ。
これが最後の戦いだ。
────メル、お前の無念は必ず果たすからな。」
………………。
────プツッ。
────……ザァ〜……ザァ〜……。
まるで突然TVが消えた様に、周りは一瞬暗くなり砂嵐の様なものが現れると、また突然パッ!!と景色は変わり、真っ暗な空間の中にまるで舞台の様に上から一筋のスポットライトの様なものが照らした。
そのスポットの真ん中には、キラキラ輝く王座と……そこに足を組みながら偉そうに座っている一人の青年の姿、そしてその後ろに立っている一人の男性がいた。
王座に座っている青年からは、離れているのに威圧するような攻撃的なオーラがムンムンと漂ってきて、どうにも嫌な感じがしてならない。
そんな彼は、会った事はないが酷く見覚えのある顔をしていて、輝く様な金髪とギラギラと野心に満ちた蒼い目を持って余裕そうな笑みを浮かべていた。
レオンハルトに立ち塞がる第二の壁────悪逆非道の暴君、第一王子<エドワード>だ。
「……エドワード?じゃあ、後ろに立っている奴は……?」
後ろに控える男性へ視線を移すと、そいつはエドワードと同じく輝く様な金髪の癖のある髪に、百人中百人が美しいと思うほどの美しい容姿をしているのが見える。
その顔は、物語に出てきたリーフにそっくりで、多分年齢からしてそのお父さん────つまりメルンブルク家当主<カール>であろう事が分かった。
初めて出会ったリーフの『父親』は、物語の本の小さな挿絵でしか見たことがなかったので、こうしてしっかり見たのは初めてだ。
俺は思わずまじまじと見つめ、確かに美しいと思ったが────何だか随分とやつれているというか、ドロッとした黒いオーラが出ているというか……?
とりあえず物語に記載されていた、キラキラした感じには見えなくて首を傾げる。
何故?と考えようとしても、先程のレイドとサイモンの件があまりに衝撃的過ぎて、意識が上手く切り替えられない。
必死に頭を振って、これは夢だと必死に目を覚まそうとしていると、王座に座っているエドワードが突然笑い出した。
「────くっくっくっ。反教会組織は、本当に上手く踊ってくれた。
ソフィアが思った以上に抵抗を続けているが、まもなく落ちるだろう。
もう少ししたら、事故に見せかけて消せばいい。
『神罰が下ったのだ』と一言囁やけば、愚かな平民共はこぞって喜び叫ぶだろうよ。
『悪は滅び、正義はエドワードにある』とな。」
楽しくて仕方がないと言わんばかりに大笑いするエドワードを見て、後ろにいるカールも釣られてクスッ笑う。
「本当に、まさかここまで上手くいくとは思いませんでしたよ。
教会はもはや、我が派閥と渡り合える力は残っていない。
アーサー派閥も、元々大司教との間に結んでおいた貴族達との契約に基づき、教会のほとんどの権限はこちらのエドワード派閥にあるので手の出しようもないでしょう。
あとは民間のギルドですが……これも予定通り。」
カールがパチンッと指を弾くと、宙に大きなアルバード王国の国内図が現れた。




