720 似てないのにね
(リーフ)
ぐぐっ!と顔を近づけ、真剣な顔で見つめてくるレオンを見つめ返し────俺は『はて?』と投げかけられた質問について考える。
結婚……婚約……その中でのキスのタイミングと場所……。
────あ〜!『誓いのキス』ね!
ピンっ!と答えを思いついた俺は、顔を近づけてくるレオンのおでこに自分のおでこをつけて押し返した。
「教会でするもんだね!」
「────えっ!……そ、そうなのですか!?
それは、絶対そこでしないと駄目なんでしょうか……?」
焦った様に質問してくるレオンを見つめながら、また新たに投げられた質問について考える。
『結婚式は絶対に教会で〜』は、貴族なら絶対ルール。
だが、平民さんは思い出深い場所であげることも多いようで、要はプロポーズしたレストランを貸し切りで〜とか、お互い大好きな某ネズミさんの国であげたりとか、そんなラフな感じの結婚式も全然OKらしい。
「教会で結婚式しない場合は、そこでキスはしないみたいだね。
例えばどっかのレストランとか、野外パーティーならお外でもするけど……。」
「────!!な、なるほど……。
つまりキスは、結婚式の時……という事ですね。
すみません、俺はまた間違えてしまうところでした。結婚式は、本当に凄い儀式なんですね。」
悩ましげな顔でレオンはゆっくり俺からおでこを離し、俺の唇をあげ玉を叱咤する時と同じ様にムニムニと揉み込む。
そうそう、結婚って凄いんだよ。俺、したことないけど。
ムニってくるレオンの手をいやいや〜と首を振って外すと、ムッとしたらしいレオンはまた自分のおでこを俺のおでこにくっつけ押してきたので、そのまま押し合いが始まる。
────で結局俺が負けポテッとベッドに倒されると、勝った事が嬉しかったのか、レオンが嬉しそうに笑った。
レオンもいつか、こうやって誰かと笑い合うのかな……?
また何かがモヤっと襲ってきそうになったので、慌ててレオンに返事を返す。
「そうだね!俺も結婚って凄いと思う。きっと凄く幸せなんだろうな。」
好きな人とずっと一緒にいられるんだもんね〜。
そりゃ〜幸せですとも!
自信を持って頷いたが、レオンは悩む雰囲気を出しながらポフッと俺の身体に覆いかぶさってきた。
「幸せすぎて死んでしまうかもしれませんね。
…………?
もしや、結婚まで段階を踏むのはショック死を防ぐため……?」
真剣に悩みながらブツブツと呟くレオンが面白くて吹き出すと、またムッ!としたのか、今度は俺の頭中の匂いを嗅いでくる!
やめてやめてぇ〜!
擽ったくて身をよじると、手にある耳かきの存在を思い出した。
そうだそうだ、ご所望の耳かき耳かき〜!
俺はレオンの拘束から緩く脱出しベッドの端に座ると、ポンポンっと自分の膝を叩く。
「ほら、レオ〜ン。耳かきしてあげようね〜。今なら『ほりほり耳かき戦車』のお歌つきだよ〜。」
自作の歌を歌いながら耳かきの毛玉部分をフリフリ〜と振ると、レオンは嬉しそうな顔ですぐ俺の膝に頭を乗せた。
「真っ暗闇〜の中掘り進めぇぇ〜♬耳かき戦車!♬」
約束通り、ノリノリでその自作の歌を歌い出したその時────突然ドアの方からジ〜ッ……と見つめてくる視線を感じ顔を上げると、ドアの隙間からこちらを覗いているあげ玉と黒みつと目があった。
『喧嘩終わった?』
そう言いたげな視線を投げつけてくる2人に「あ、ごめんごめん!喧嘩終わったよ。」と伝えるとモソモソと部屋の中に入ってくる。
基本2人はレオンがゴネだすと『機嫌が治るまで遊んでよ〜♬』と庭か早い時間なら空のお散歩に行ってしまうので、どうやら今はずっと庭で遊んでいた様だ。
その証拠にあげ玉は庭に生えていたらしい綺麗なお花達をモシャっと咥えているし、黒みつに至っては自分で作ったらしい花かんむりを持って入ってきた。
ちなみにその花達は、物凄く凶暴化している植物モンスターからむしり取って来たものだ。
ピンピン無傷の二人にニッコリしていると、あげ玉はベッドの周りに花をペッ!ペッ!と投げつけていき、黒みつは俺に『あげる〜』と花かんむりを差し出してきた。
花かんむりを受け取った俺は「ありがとう!」とお礼を告げながらそれを頭にポンッと乗せる。
するとレオンが突然上を向き俺と視線を合わせて────……眩しそうに目を細めてフワッと笑った。
『俺、まきが好き。大好き!
だからこの先の人生ずっと一緒にいて下さい!』
恥ずかしいくらい激しく鳴る心臓を必死に押さえながら言った、プロポーズの言葉。
手には一生懸命花言葉を調べて買ってきたジャスミンの花束。
『一緒にいたい』
それを精一杯伝える俺を見て、まきはそれをキョトンとした顔で目にした後────眩しそうに目を細めてフワッと笑ってくれた。
俺はそれを見て『可愛い』『この先の人生、この人とずっとずっと一緒にいたい』、そう思ったのだ。
ま、叶わなかったけどね〜!
昔の甘じょっぱい思い出が急に頭を過ぎって苦笑いをしながら首を振る。
何で急に思い出しちゃったのかな?
レオンとまきって似ているところ全然ないのに。
何だか可笑しくなって笑うと、レオンは不思議そうな顔で俺を見つめてくるので俺は「何でもな〜い。」と言いながら、レオンの首をクルッと回し耳を上にすると、そのまま耳かきに没頭し始めた。




