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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第十九章

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716 終わりの時

(リーフ)


そしてしばらくしてハッ!!と正気に戻れば、ベッドの上に座っているレオンのお膝の上で、腹話術人形になっていた俺。


「…………。」


無言で上を見上げると、レオンは酷く幸せそうに微笑んでいて……ずっとドレスをさわさわと触っている。



何だか幸せそうだな……。


レオンが嬉しそうにしていると、何だか俺も嬉しくなってきて『ま、いっか〜家畜でも!』という気持ちになってきた。



レオンが嬉しい。レオンが笑う。

レオンが、レオンが────……。


それがぐるぐると回って────俺は今、凄く『幸せ』だなと思った。


ジ〜ン……。


その心地よい『幸せ』に、しばし身を任せていたが、その後すぐにヒヤッとしたものが心の中に広がり、急速に意識は覚めていく。


俺は幸せ。

でもレオンの幸せは偽物で、俺が楽しい事がイコール、レオンの楽しい事ではない。



「……そうなんだよなぁ。」


今まで見てきたレオンという人間を思い出し、言い聞かせるようにポツリと呟いた。


レオンは『あるがまま』を全て受け入れてしまうから、今の状況を『幸せ』であると受け入れているだけだ。


世の中にはもっと沢山の選べる幸せがあるはずなのに。


そう考えると、レオンの『幸せ』そうな顔を見ていられなくて、スッと目線を下げて視線を逸らす。



────モヤ……。


モヤモヤモヤモヤ〜〜!


嫌なモノが心全体に充満していくのを感じて『おじさんチョップ!』『おじさんチョップ!』と必死にそれを祓おうとしていると、レオンが突然ポツリと呟いた。



「結婚、早くしたいですね。」


「……えっ!」



レオンの発言を聞いた瞬間、モヤモヤした霧の様なものは次第に晴れていき、心の中でおじさんチョップをしていた俺は、ピタリと止まる。


すると、晴れた視界の中から現れたのはレガーノの教会で……扉の前には沢山の人たちが、お花や麦のシャワーを準備して今か今かと教会の扉が開くのを待っている様子だった。


モルトとニール。カルパスやドノバン、リーフ邸の皆にあげ玉、黒みつ────……。


今まで出会ってきた全ての人たちが全員その場にいて、皆幸せそうにニコニコと笑っていた。


そして────……。



リ〜ンゴンリ〜ンゴン!


大きな鐘の音が鳴り響くのと同時に扉が開かれ、皆が一斉に拍手と歓声を上げながら、手に持っている物を空へと投げる。


花が空を舞い、麦のシャワーが降り注ぐ中────それを一身に浴びながら、白いタキシード姿の男性とウエディングドレスを着ている女性がゆっくり中から出てきた。



女性の方は非常に可愛らしいお嬢さんで、息子の嫁に是非!!と言いたくなる様な、優しそうな人。

そして、慈愛に満ちた笑みを、皆と隣にいる花婿さんに向けていた。


そんな花嫁さんを愛おしい目で見つめている花婿は────レオンだった。



「…………。」



それを見てまず浮かんだのは『喜び』。


レオンが幸せで嬉しい。

そんな気持ちが大きく前に出てきて、涙がボロボロと流れていった。



レオンが幸せになって本当によかったぁぁぁ〜。

俺は嬉しい!ホントにホントに良かったよぉぉぉ〜〜。



レオンのご両親がいたらびっくりするくらい、ギャギャン!と大泣きしていると、突然真っ黒で世にも恐ろしい化け物の様な姿をした何かが『外』の世界から入り込んできた。



『寂しい』



そいつは『嬉しい』を次々と食べていってしまい、どんどんどんどんと大きくなっていって、今度はレオンを祝福するために投げられている花や麦シャワーを、そしてとうとう拍手をしている皆まで食べ始めてしまった!!



「や、やめろ!!何してるんだ!!」


直ぐにダッ!!と駆け寄って、その『寂しい』のお尻から生えている尻尾?の様なモノを引っ張り止めようとしたが全く止まってくれない。


そうしてそいつはとうとう教会も、花嫁さんまでパクリと食べてしまい、その場には何もなくなってしまったのだ。


「そ……そんな……。」


あまりの事に膝をつき呆然とうなだれていると、フッと眼の前に男性の靴先が目に映る。



「あ……。」


ゆっくり……ゆっくり視線を上げていくと、次第に白いタキシードが見え、そしてその上にはレオンの顔があった


その顔は────憎悪に歪んでいる。




『何故俺の幸せを邪魔するんですか?────貴方の役目はもう終わりなのに。』




────ハッ!!!


意識は現実に戻り、俺は見下ろしてくるレオンの方へ視線を再度向ける。



幸せそうな顔。

それを見て、俺は心から嬉しいと思っている。

でも────……。



「結婚……嫌だな……。」


それと真逆の答えがボツりと口から飛び出し、直ぐに我に返り口を両手で押さえる。



お、俺は何を……???

レオンが結婚するのが何となく嫌など、まるで幸せになるのに嫉妬しているみたいじゃないか!


そう思い、自分の真っ黒けな心に大ショックを受けた。


とうとう俺は心まで悪役になってしまったらしい。



自分の醜い心におじさんパンチ!おじさんキック!をバシバシと打ちながら、レオンへ再度チラッと目線を向けると────なんと、そこには完全なる『無』を表現したかの様なレオンの顔があった。



「────ヒュオッ!!!??」


喉がひっくり返る様な変な音がしたがそれを気にかける余裕もなく、初めて見たレオンの大激怒の表情に固まる。


無言で固まる俺を見下ろしたまま、レオンは淡々と……そして静かに喋りだした。



「……いやですか……結婚は。……そうですか。」


「あ、ごっごめん。俺……ちょっと変な言葉が滲み出ちゃったっていうか……。」


「俺は────。」



レオンは、真っ直ぐ俺の目を見たまま、言葉をバシッ!と切って言った。



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