715 完敗
(リーフ)
ちょっと言われた言葉の内容が分からな過ぎて、意識が一瞬昨日食べたアヒルの肉サンドに飛ぶと、お腹がキュキュ〜と可愛らしい音を立てる。
そして、そのままクリスマスの豪華メニューにまで意識がスキップしていきそうになったので────首をブンブン!と振ってアヒルのお肉から現実へ意識を戻した。
『ちょっと触っただけなのにビビっちゃって情けない。
マッサージを受けてデロデロになっちゃって駄目駄目過ぎ〜。
そんな弱くて満足しちゃ駄目だよね?
努力しないでどうせ現実逃避するんでしょ?
少しくらいは見逃してもいいけどね〜ヤレヤレ。
────あ、何かアヒルの事を思い出したから言っておこう。』
ガガ────ン!!!
あまりの酷い言われように、今度はぐわんぐわんと視界が回り、足元が生まれたての子鹿の様におぼつく。
心を抉る様な暴言の数々に、確実にクリティカルヒットしてくる言葉選び!
これは、親にとっての地獄の試練、反抗期!!
ショックで真っ白になった頭の中では、純粋で可愛かったレオンがアヒル達と戯れている映像が流れ、「リ〜フ様〜!」と無邪気な様子で俺に手を振っている。
「レオ〜ン!一緒に遊ぼ〜!」
そんな可愛いレオンに手を振り返した後、ダッ!と走りながら中剣を抜き、晩ごはん用にレオンの周りにいるアヒル達を狩り────……。
────と、まさにご指摘の通りに現実逃避しかけていたのに気づき、もう一度ブンブンと首を振ると、負けるもんか!とレオンに反撃を開始する。
「何を言っているんだい!俺だって頑張っているんだよ!
確かに気持ちいいのに負けちゃうちょっと駄目なおじ……じゃなくてご主人だけど、心はそう簡単に負けやしないさ。
レオンには、俺の頑丈なハートを評価してもらいたい。」
「……そうですか。確かにそうでしたね。体は簡単でしたから。
それを手に入れたら全てを手に入れた様な気がして……確かに傲慢そのものでしたね。
体や魂が同じものでも、俺の心は動きませんでした。
そう考えるとやはり全てを手にする事がとても重要なものだと、俺は気づきましたよ。
あの気味の悪いヤツのせいで。」
『あれだけグズグズデロデロの状態を見ちゃうとね〜……チョロすぎてお話にならないから勝ったと思っては駄目だったね!
そんなんじゃ、俺の心は動かないよ!この雑魚助!
そりゃ〜体も心も全部が強い方が良いに決まっているでしょ?
全然頑丈でもなんでもないハートを持った、気味の悪いリーフ様のせいで気づきましたよ!』
────クリティカルヒット!!!
俺は胸を押さえてフラフラフラ〜と後ろに倒れそうになったが、お相撲の四股を踏むかの様に、力強くその場に踏ん張る!
そして無表情でこちらを見下ろすレオンの目を、真っ直ぐにキッ!と睨みつけた。
「そっ、そもそも俺は逃げたりしないよ!ちゃんと向き合っているさ!
見ている範囲なら許すって……そんなドッグ・ランみたいな言い方は良くない!」
「リーフ様はすぐいなくなります。スルッと……気がつけば腕の中にいない。
────でも別にいいんです。直して欲しいなど思っていませんので。
だから、俺は俺の見える範囲なら許す事にしました。
代価もきっちり頂くので構いませんよ。ある程度なら。
どうせ逃げられないのだから、箱庭の中でくらい自由にさせないと可哀想だし……何より自由に無邪気に遊ぶ姿は好ましいと思ってますので。
アヒルもそこから逃さず、自由にしてから食べるでしょう?」
ズギャギャ────ッン!!!!
凄まじい衝撃が体を襲い、とうとう踏ん張っていられずゆっくりと後ろに倒れていったが、レオンに二の腕を掴まれているので倒れずにすみ、ブランッと宙ぶらりんになる。
そんな力を失った俺を見て『勝った!!』と思ったのか、レオンは嬉しそうに笑った。
「どんなに嫌がっても無駄ですので、少しづつ受け入れていきましょうね。
離れる選択肢なんてないのだから。
いつまでも待ってますのでごゆっくりどうぞ。」
『直ぐに脱走する家畜アヒルと同じなんだから諦めなよ。
自由にさせて最後は食事になるという代価を払う、それは仕方がない。
どんなに嫌でもそれが事実なんだから、真実を受け入れたらどう?
それから離れる事はできないんだから、ゆっくり受け入れていけば〜?』
フィニッシュ!!
最後は見事にトドメを刺され、俺は真っ白な灰になって心はサラサラと砂の様に風に飛ばされていった。
完敗……。
俺、今日から家畜アヒルの仲間入り……。
レオンは、黙ったまま意気消沈している俺をニコニコとしながら見下ろし、そのまま片手で持ち上げ抱っこする。
「本当にキレイだ……。」
「凄いな、ただの白い布なのに……。」
そして、なにやら白いドレスに対する感想を次々と述べ、同時にサスサスと手や背中を擦ってきた。
多分、慰める様な動きは多少の罪悪感を感じているからだと思われるが……メンタルがボロボロの俺は無言を貫く。
するとそんな無言の俺を、レオンは勝ち誇ったような顔で見下ろしながら、ベッドルームまで俺を運んでくれた。




