713 種族限界値
(リーフ)
【種族限界値】の突破。
そしてあげ玉のスキル<ハッピー・バースディ>にもあり、更に今回黒みつのスキルにも出現した謎の言葉。
【共通魔素進化】
この2つが、どうにも俺にモヤッとした不安を与えてくる。
まず【共通魔素進化】の方、これは完全に何か不明。
とりあえず、何かしら強化してくれるものだと思われるが、さっぱり分からない。
そして【種族限界値】の突破の方だが────これも『突破』は聞いたことがないが、とりあえず【種族限界値】が何であるかは知っている。
生物には本来その種族別にステータスの限界値というものがあって、それを【種族限界値】と言う。
その値がMAXになってしまえば、その先どんなに努力してもそのステータスは上がらずそこで打ち止め。
そして、その限界値があるからこそ種族によってステータスの伸び代が違うのだ。
例えば人族は全てのステータスが平均的に上がりやすく、その上がり方も様々なのに対して獣人族は体力、力、守備力、スピードなどなど前衛職に特化しているものが上がりやすい。
そしてそれに伴って【種族限界値】もそのステータスは高いが、その代わり魔力と魔力操作については上がりにくく【種族限界値】も低い。
一方、水と油の関係性にあるエルフ族は、その全てが逆という両極端の才能をもっている。
つまりこの三種族に限定して言えば、それぞれがその限界値MAXまでステータスが達し同じ土俵に立った時、前衛職で圧倒的に有利なのは獣人族。
そして魔法などの後方で有利なのは、エルフ族だ。
そんなそれぞれの特技に特化している二種族に対し、人族はその両方を使い分け戦闘の柔軟性とその場の順応力、特異性でその差を埋めるわけだが、もしも【種族限界値】が突破されてしまった場合は────……その力関係が、あっという間にバラバラになってしまうというわけだ。
つまり『種族限界値が突破する』ということは、今は上手く保たれている種族間のパワーバランスを崩し、争いのきっかけになるかもしれない可能性を秘めているということ。
それこそ獣人の力、エルフの魔力、人族の平均的な順応力が合わさればまさに無敵の新種族の誕生である。
「うむむ〜……。」
あげ玉のしっとりとしているお毛々と黒みつの湯田んぼプルプルボディー、そして後ろの岩の様なレオンボディーを堪能しながら、『ウチの子に限って……っ!』と思い直し、不安な気持ちを払拭した。
そもそもステータスを伸ばすにはかなりの努力が必要だし〜?
実質不可能だし〜?
そう考えながら、ハハハ〜と笑い飛ばす。
それにもしも【種族限界値】とやらを越えても【生物】としての限界値は必ずあるので、そう考えなくても大丈夫だろう。
それこそ【生物】本来の限界値を越えたら【神様】だもんね〜。
俺はドボンッ!と下に潜り、油断して緩くなったレオンの腕からまたもや脱出!
そのままスイ〜スイ〜とリーフ像の周りを自由に泳ぎ回った後、もういいだろうと判断したレオンにあっさり捕まり、そのままお風呂は強制終了される。
「二人共出るよ〜!」
その後は麦袋スタイルで運ばれながら、うっすらピンクになり始めたあげ玉とベチョペチョスライムになりかけの黒みつに声を掛けた。
レオンの手によってタオルで優しく拭かれた俺は、出てきたあげ玉と黒みつを軽く拭き、最後はレオンの風魔法によってヒュオッ!と一瞬で乾かしてもらう。
そして俺は骨付き肉が描かれたボクサーパンツを取ろうと脱衣所に置いてあった籠を覗き込み〜……ピタリと動きを止めた。
入る前は確かに入れていた、灰色のお揃いのパジャマ。
それが俺の分だけなくなっていて、代わりに何故かレオンが先程購入した白いドレスが入っている。
「 …………? 」
頭を傾げながら俺はツィ……とそれを持ち上げレオンの方へ視線を向けると、レオンはこちらをめちゃくちゃ気にしながら『気にしてないよ!』風を装っていた。
そして、非常に不自然な動きで、ちゃっかり自分だけいつも通りのパジャマに着替えている姿を見て、レオンの考えの全てを悟る。
────あ、これ、俺に着せるつもりだ。
思わず目を細めてレオンを見つめると、次に頭に浮かぶのは一緒にドレスを買いに付き合ってくれたリーンちゃんとナッツちゃんの会話だ。
『か、か、可愛い〜!やっぱりウエディングドレスいいな〜!』
『ウエディングワンピコーデ!!凄いよね!これでお人形遊びしたいね!』
お店のウインドウに飾られていたウエディングドレスの様な白い服を見て、二人はうっとりしていた。
「お人形遊びか……。」
なるほどね!と納得しながら、その白いドレスを改めて見つめる。
まぁ、確かにレオンが着れそうにない大きさだし……着せ替えごっこ的に遊ぶことしかできないか……。
レオンが着るなら、オーダーメイド一択しかなさそうだ。




