68 虐めは計画的に……
(リーフ)
「う〜……とにかく強く……最強に〜……。」
悶々と考えているうちに、ハッ!気がつけば目の前には食堂の扉が。
なんと一度も止まる事なく、山あり谷あり……ってほどではないが、それなりに距離があったはずの食堂へと到着してしまった様だ。
な、なんと!俺を背負ったまま、あっさり着いちゃったぞ!
「え、えぇぇぇぇ〜……?」
レオンは最後まで、汗一つ掻かずに平然としたままスタスタと歩いていた。
ただわずかに耳が赤いところを見れば多少の無理はしていそうだが……それでも8歳の子供がするには十分過ぎる重労働に、本気で驚かされる。
「??う、うむ......!レオン、ご苦労だったね……?……えっと、ここが食堂だから一回下ろしてくれる?」
とりあえず偉そうに命令すると、レオンは俺の足を持つ手に一瞬ぎゅっと力を入れた後、恐る恐る俺を下ろしてくれた。
その時の顔は、なんとなく悲しみで満ち溢れている様に見える。
朝早くから、カユジ虫をくっつけるぞと脅され強制マラソン。
更には恥ずかしがり屋のイザベルに剣を突きつけられて怖い思いまでさせられ、やっと解放されたかと思えば『人』としての尊厳を折る『馬』にされてしまった。
それでも我慢して重たい俺を背負って歩いていると、なんとこ〜んな遠いところまで歩かされちゃったよ!……と、まさに踏んだり蹴ったりだ。
どんなに優しい人でも、そりゃ悲しいとも!
痛む頭を労わるように目元を揉み込んだが、この後もがっつり虐めようと考えているので、痛みは和らぐことはない。
ここはグッと堪えて、次の虐めに取り掛かる。
「さぁさぁ!これから楽しい楽しい残飯の時間だよ〜!」
炎上待ったなし。
そんな酷い暴言を吐きながら、俺は食堂のドアをババーンと開けた。
すると目に入ってきたのは、涼しい顔で部屋の中に佇むカルパスと、その後ろに隠れガタガタ震えているジェーン、そしてテーブルの上にズラリと並ぶ二人分の豪華な食事の数々だ。
「う……うわぁ〜……!」
昨日に引き続き凄く美味しそうなアントンの料理!
目を輝かせ、思わず駆け寄りそうになったが……慌ててその場に思いとどまった。
いけない、いけない。食事の前に、1虐め!
実はこの部屋の中に、昨日俺が考えたちょっとした虐めアイテムが存在していて、それが俺の座る席の近くに設置されている。
俺の視線はこれから座る予定の席の方へと移り、ちゃんとそのアイテムがそこにある事を確認すると、ニヤッと笑みを浮かべた。
俺の座る予定の椅子は、この部屋のゴージャスな内装に相応しい、椅子の存在定義を思わず見失うほどの派手派手しいご立派なモノ。
対して、その隣に置かれたレオン用の椅子は、その正反対と言えるボロボロの破棄予定であった木の椅子だ。
────と言っても、前世の俺なら……『捨てるなんて勿体な〜い、使っていい?』と聞いちゃうレベル。
でも明らかにお高いキラキラの椅子の横に置かれては、レオンは嫌な思いをする筈!
ダークチックな笑みを浮かべ、心の中で叫んだ。
これはズバリ、虐めの定番<格差を見せつける>事!
これも漫画で見た知識なのだが────ある少女漫画にて、貧乏な主人公の女の子がやっとの思いで買ったドレスを、お金持ちの女の子達に馬鹿にされた時の事だ。
お金持ちの女の子達は、物凄いお高いキラキラドレスを身に纏い、それより遥かに安いドレスを着てきた主人公を一斉に笑った。
「あら〜、貴方にはお似合いのドレスね!」
その言葉に主人公は打ちのめされ、泣きながらその場を去る。
これは、要は自分の持っているモノより遥かに良いモノを見せれば、人は傷つくという事で、それを椅子で再現してみたのだが……。
────まぁ、正直俺には、この虐め内容は刺さらないんだよねぇ〜。
頭の中に浮かぶ少女達のドレス姿を見ながら、スゥ……と目を細めた。
俺はドレスよりも、中身のおっぱいの方が遥かに重要だと思っている。
着ている服については『服がピカピカ光っていたような?』や『色はこんな色だったっけ?』程度しか見てない。
高いドレスだろうが安いドレスだろうが、いかに乳がむっちりしてるかが大事で、肉体が主役、ドレスはモブだ。
どうせなら乳比べで戦っておくれよ。あと二十歳くらい歳を取ったら!
────これが本音だから、ドレスの格差で悲しむ気持ちはサッパリ分からない。
とりあえず、油が乗りに乗った、前世の片思い相手のみち子さんのむっちりおっぱいが恋しくて、グスン……と鼻を啜ってしまった。
しかし────泣いている暇など悪役にはない!
直ぐに涙が滲み始めていた目元を乱暴に擦ると、レオン専用のオンボロ椅子を親の仇の様にキッ!と睨みつけた。
結局何が言いたいかというと、要は虐められ方も刺さるものはそれぞれってこと。
その試行錯誤の内の一つが、コレ。
椅子で格差をつけてみようと、それを実行してみたのだ。
もしかしてレオンには、この虐め方は刺さるかもしれないし……ねっ!
チラチラとオンボロ椅子の表面を念入りに見回し、指やお尻に刺さりそうな釘とかは出てない事を最終チェック。
一応ちゃんと座る部分は、昨日の夜に念入りに拭いておいたが、油断はできない。
チラチラチラ〜!
隅々までチェックした後は、側面についている泥もキチンと確認し、ふぅ……と安心した。
ボロボロな上、うっかり側面を触れば手にドロ汚れが付くという、びっくりポンコツ椅子仕立てにしてみました♬
そんなポンコツ椅子相手にレオンはどんな反応を示すのか……ここはそれを観察しながら、俺の華麗な嫌味でトドメを刺す!
俺は素早く俺が座る予定のキラキラ椅子へと移動し、大袈裟に驚いた振りをした。
「おや?おやや〜??これはなんと素晴らしい椅子なんだろう!キラキラで、横には沢山の宝石まで付いているよ〜?
まさに俺のためにある様な椅子だ!そうは思わないかい?」
そう問いただせば、レオンは真剣な顔でコクリと頷く。
俺は次に隣にある木の椅子を、たった今気づいたと言わんばかりの驚きの表情で見ながら続けて言った。
「あれ?あれれ〜?!この薄汚れた木の塊は一体何かな〜?
こんな汚れた塊に相応しいのは一体誰かな〜?────んん〜???」
そして手をおでこに付け、さも『何か探してます!』というジェスチャーをすると、カルパスは目をスッとつぶり、ジェーンは手に持っていた丸いお盆で顔を隠す。
こんな醜悪な姿を見せてごめん。
でもコレは絶対に必要な事なんだ。
きっと親の様に育ててくれた彼らにとって、今の俺の姿はとても悲しいに違いないが、これはどうしても避けられない。
ズズ〜ン……。
凹みながらボロボロの椅子を指差すと、レオンは指の先にある椅子をジーッと見つめているので、一応この虐めに興味は惹かれている様だ。
よしよし!
ここで最後の仕上げに────……。
意地悪な笑みを浮かべたまま移動すると、ボンヤリしているレオンの左手をギュッと握った。
────ビクッ!!!
大きく震えたレオンに構わず、そのまま引っ張りボロボロ椅子の上に座らせると……思考が停止したように呆けているレオンに、俺はビシッと指を差す。
「これに似合う人み〜つけた!今日からコレはレオン専用椅子にし〜よおっと!
君は毎日この貧相な椅子に座って俺の残飯を食べるんだ。分かったかな〜?」
「……俺の……?毎日……。」
レオンは下を向き、震えながら俺の言葉に必死にコクコクと何度も頷いた。
そしてどうやら涙も出てしまったらしく、目元を乱暴に拭いている姿も見せてくる。
子供のそんな姿をみてしまったおじさんの罪悪感は、勿論MAX。
お胸痛い……。もう、ごめーん!!って泣きながら飛びつきたい。
「い、いただきまーす!!」
罪悪感を振り払う様に、直ぐにゴテゴテしている自分の椅子に座ると、そのままご飯にむしゃぶりついた。
そして、一口齧っては残飯と称して隣のレオンに食べさせ、自分が食べて、レオンに食べさせてを繰り返す。
そのまま交互にご飯を食べ進めていくと、レオンはそのガリガリな見た目からは想像もできない様な食べっぷりで、朝ごはんを平らげていった。




