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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第十八章

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705 完全勝利

(アゼリア)


「────っ?!……っ!!」



レイドが、汗をドバッ!!と掻いて固まると、サイモンはレイドを冷静に見つめる。



「あ〜……そろそろ限界かぁ〜。────じゃっ!僕たちはそろそろ帰りま〜す♡」



そう言い放ち、何故かメルを抱きかかえそのままリリアと共に去っていった。



まるで嵐の様なエルフ共だ……。



ソフィア様と共に去っていった方向をジ──と見つめている間も、レイドはガタガタと震えながら、両手を上に上げて降参のポーズをとっている。


「えっ?何で??」


「なんで俺だけ??」


涙目で呟くレイド。



「ねんね〜ん♬コロリ〜よ〜♬」



レオンの背中には、いつの間にか飛び乗ったらしいリーフ様がいて、左右にユラユラ〜と揺れて子守唄えを歌っていた。


モルトとニールは随分と落ち着いた様子のまま、うう〜ん……とお互い顔を見合わせて考え込む。



「もしかして、同じくらいの体格なのが嫌なのかもしれないな。同体格嫌悪ってやつか……。高身長の代償だな、諦めろ。」


「レイドの滲み出た、いやらしオーラが気に入らないんじゃないんすか?」



身も蓋もない事を言って息を吐き出す2人に、レイドは泣きながら「お前ら獣人組の仲間だろ〜!助けてくれよ!」ときゃんきゃん泣き叫んでいたが、二人は薄ら笑いを浮かべて止めようとしなかった。


しかしリーフ様の子守唄の効果か、レオンの腕が一瞬緩んだ瞬間、レイドはそのチャンスを逃さずシュワッ!とその場から脱出する。



「────じゃっ!明日学院でな!」



そのまま、薄ら笑いを浮かべたままのモルトとニールを両脇に抱え、脱兎の如く去っていった。



「…………チッ。」



視界からレイドや他の者達の姿が消えた事で、やっと落ち着いたらしいレオンは、舌打ちをした後レイピアを収める。


そして同じくそれを見届けたリーフ様は、その背から降りてレオンの前に向き合った。



「レオン!何であんなにレイドに意地悪するんだい?怖がっていたじゃない───……。」



レオンは、叱りつけようと喋り始めたリーフ様の口を片手で塞ぐ。


深くフードを被っているため表情は見せないが……結構物騒な雰囲気を滲ませている事から、まだ機嫌は悪い様だ。



「沢山我慢した……。」


「俺はいい子……いい子……。」


「器の広い男……。」




「────どうしようか……?」



そんな理解不能な言葉をブツブツと呟くレオンは、ひたすら怖くて気持ち悪い。


突然始まりそうな修羅場に周りはざわざわと騒ぎ出すが、リーフ様に任せておけば大丈夫だと知っている私とソフィア様は、とりあえず黙って見守った。



レオンに出会った当初は、その呪いそのものの様な外見に心底恐怖したものだが、今はそんな外見など子猫に見えるほど中身に恐怖感がある。


一言でいえば『狂人』。


その事を、少しでもレオンと接点をもった者なら誰でも知っている。



つまり、そんな『狂人』が、そもそも日常に溶け込む事自体が奇跡。


しかもとびきり強い狂人であるため、止められるのはリーフ様だけだ。


だからこそ『見守る』、この対応しかできない。



「モガッ!……モガモガ〜……ッ!!!」



リーフ様は顔を動かし、必死に口を塞ぐ手を外したが、今度は正面から体を抱きしめられてしまいモゾモゾ、ジタバタ暴れた。


すると、ミチミチ〜……!という、強く締め付けられる不穏な音がして、街の者達の顔は青ざめる。



「……はい、レオンはいい子〜いい子〜世界一いい子〜。」



ヒィヒィと息を乱しながら、リーフ様がレオンの背中を擦ると、レオンはお返しか?リーフ様の背中を撫で撫でと丁寧に撫で上げた。



「……帰ったら抱っこと撫で撫でしてくれますか?」


「うんうん、良いよ〜。約束したもんね。」



ニコニコするリーフ様。レオンは撫でる手をピタリと止めた。



「あと膝枕も……。」


「────えっ!……あ、うんうん。いいよー。」


「耳かきも……。」


「ええっ!?それ何処で覚えたんだい??良いけど、耳かきないから帰りに買って帰らないとね〜。」



次々とレオンの口から飛び出す図々しいお願いの数々に、奴隷の分際でぇぇ〜!と言いたかったが、グッと堪える。


そんな私の怒りなどいつも通り一切気にする事もなく、レオンはパッと嬉しそうな雰囲気を醸し出すと、腕の力を弱めて大人しくなった。


それに街の者達は、ハハハッ!と大笑いする。 



「ハーレム対決は正妻の完全勝利か〜!」


「男は尻に敷くくらいがちょうどいいさね!頑張って捕まえておくんだよ!守護影様!」


「皆仲良しなんだねぇ。聖女様も楽しそうで良かったよ。」



茶化す様な事を言いながら、一斉にゾロゾロと帰っていく。



あんな恐ろしいヤツを、正妻などと良く言えるな……!



遠い目をしながらそれを見送った後、やっと静かになった周囲を見渡し息をついたら……今度は後ろにヨセフ司教がいない事に気がついた。



「?」


「???」



ソフィア様も同時にそれに気づいたらしく、二人でキョロキョロと周囲をもう一度見回し、その姿を探すと────いた。



少し離れた木の影から、半分ほどはみ出して覗く顔。


その目は大きく見開かれ、口元は両手で押さえられている。



嫌な予感に表情を失ったが、ヨセフ司教は全くコチラの心情など構いもせず、自身の頬をパアァァ────ン!!と思い切り叩くと、真剣な表情でゆっくり歩いてきた。


そして、後ろにべったりとレオンをくっつけたリーフ様の前に立ち、胡散臭い笑顔でニッコリと笑う。



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