703 ハーレム
(アゼリア)
「コ〜ラッ。サイモン、そういう物騒な言葉で遊んではいけないよ。
ましてや純粋無垢なレオンで遊ばない!
レオンと仲良くなりたいなら優しく、きちんと真実を教えてあげようね。」
「え〜……真実なのにぃ〜。」
しょんぼり〜と、しおらしい様子────に見せかけて、リーフ様に見えない様に笑っているサイモンに、一切反省などしていない事はまるわかりであった。
それに大きな不快感を感じて睨む私と、大きなため息をつくソフィア様だったが、後ろから「ほほほ〜う?」と興味津々な様子で呟く声が聞こえ、意識はそちらへ。
ソフィア様と揃って後ろを向くと、そこにはキラキラと宝石の様に輝く目が2つ。
人の恋路が大好き、自称愛のキューピットのヨセフ司教の目であった。
「リーフ君は随分オモテになるんですねぇ。あの歳でハーレムとは末恐ろしい!
男の憧れ、この世の愛の楽園────それがハーレムです。
良いですね良いですね〜!流石は家食いアリをなんなく退治してしまう救世主様!!」
キャーキャー騒ぐヨセフ司教の言葉は周りにも当然聞こえ、ハッ!と正気に戻った街の人たちは、また騒ぎ出す。
「家食いアリ討伐なんて初めて見たぜ!流石は救世主様!」
「そりゃ〜ハーレム10個くらいあっても不思議じゃないぜ!」
「カッコいいぞ〜!よっ!ハーレム王!」
そんな下品な野次まで飛ばしだした。
それにリーフ様は汗を掻きながら「いや……これはサイモンの遊びで────。」と言おうとしたが、すかさずその前に破廉恥エルフが飛び出し、言葉を遮る様に大声で叫ぶ。
「ハーレムの可愛い枠担当のさっちゃんで〜す♡よろしくお願いしま〜す。」
バチンッ!とウィンクつきでそう宣言をすると、おおおおお〜!!と更に野次は増える。
「あんな可愛い女の子が側室たぁ〜救世主様やるな!」
「守護影様はそのハーレムの正妻だったのか〜。……女??……女か……。すげぇな……流石は救世主様……。」
「あら〜、私もあと20年若ければねぇ?ハーレムに入れてもらったのに。」
頭が痛くなる様な悪ノリに顔を覆って天を仰ぐと、その隙にまたしてもリーフ様の近くにピトッとくっついてくる輩が現れた。
そいつは、けしからん肉体をこれでもかとリーフ様の腕にくっつけ、ニッコリ笑う。
「同じくハーレムセクシー枠担当、リリアで〜す。よろしくお願いしま〜す。」
サイモンとはまた系統が違う美少女の出現に、街の者達はまたもや「「「おおおおおっ!!」」」と沸いた。
げんなりしながら、教会で騒がしくする不届き者達を本来注意すべきヨセフ司教に視線を向ければ────……。
「ハーレム!!二人目!!なんとすんばらしぃぃ────!!」……と一番騒いでいるため、全く役に立たない。
「…………フッ。」
私はそんな興奮するヨセフ司教に期待するのを一切やめ、その騒がしくしている集団へ足を一歩前に踏み出した。
「おいっ!そこの破廉恥エルフども!
リーフ様がお優しいのを良いことにベラベラ、ペタペタするんじゃない!この不届き者どもめっ!」
本気の怒りを込めた説教だというのに、破廉恥エルフ共はお互い顔を見合わせニヤッと笑う。
それに対し再度文句を言ってやろうと口を開きかけたが、それより先にサイモンが喋りだす。
「んっも〜う!大丈夫だよ〜。アゼリアちゃんを仲間はずれになんてしないから!
ん〜?何の枠にしようかな〜?兵士枠、前衛枠……あ、ゴリラ枠にするぅ?」
そんな巫山戯た事を言い出したサイモンを殺気を込めた目で睨みつけてやると、「こわぁ〜い!」と言いながら、キャッキャ!ウフフ〜と余裕そうな様子を見せる。
イラァァ〜!!
怒りに身体を震わせながらリーフ様を見ると、ショックを受けて動かなくなったレオンの体をサスサスと擦っている!
こういう時こそしっかりしろ!奴隷め!!
怒りは飛散し、こうなったら……と、『実力行使』という言葉が頭を過ぎったその時────……。
「はぁ〜い。ハーレム犬枠担当のレイドでぇ〜す。」
「……ハーレム……ペンギン枠のメル……。」
そう言いながら集団の中から、ザッザッとこちらに歩いてくるのは獣人のレイドとメルだ。
そんな新たな二人の登場に、周囲の者達はゴクリと唾を飲み込んだ。
「お、男!?獣人!?……すげぇ……ホントにすげぇよ、救世主様は……。」
「幼女までハーレム入りとは……こいつはたまげた……。」
ざわざわ!ひそひそ……と、街の人々は大げさに驚き、囁き始める。
また面倒なのが……。
忌々しさに歯ぎしりしていると、更にそんな二人の後ろからトウっ!!と飛び出してくる人物が2人。
「同じく!ハーレム取り巻き枠担当!モルト!」
「同じく!ハーレム取り巻き枠担当!ニールっす!」
二人はシュタッ!着地した後、左右対称に片手を上に挙げ更に片足を上げるという妙なポーズを取りながら宣言し、そのせいで囁き声は、「おおおお!!??」という大きな驚きの声に変わる。
次から次へと……!
怒りは呆れに変わり、思わず遠い目をしていると、固まってしまったレオンに正面から飛び乗り、そのままあやすようにユラユラ〜と揺れ始めたリーフ様が不思議そうな顔で言った。
「そういえば、何で皆ここに?」
すると各々はキョトンとした顔をして、さも当たり前の様に答える。
『心配したから』────と。




