701 通じない……
(アゼリア)
「こんにちは!この教会を任されている<ヨセフ>と申します。
この度は、このような困難な依頼を受けてくださり本当にありがとうございます。もし駆除ができずとも、来てくださったという事実が我々の救いとなりました。
教会一同、そんな冒険者様に多大なる感謝を申し上げたいと思います。」
スッと、ヨセフ司教が手を前に組んで祈りのポーズをとると、リーフ様は「頑張ります!」と言って勢いよく鼻息を吹く。
そんなやる気満々な様子のリーフ様を、ヨセフ司教はチラッと見た後、続けて窓の外で大勢の街の人達が騒いでいる方へ視線を移して困った様に頭を掻いた。
「なんだかすみませんね。大騒ぎになってしまって……。教会を早々に閉めるべきでした。これではやりにくいでしょう。」
「えっ??俺、人は沢山いるほうが賑やかで好きだから大丈夫ですよ!皆何だか凄く楽しそうだね〜。」
ニコニコと笑顔で返された言葉にヨセフ司教はううん??と不思議そうな表情を見せる。
「え、ええ〜と……。
その……ほら、君は<救世主様>なんて大層な呼ばれ方をされて、凄く期待されてしまっているだろう?
それがプレッシャーになってしまわないか、少々気になってね。ただでさえ難しい依頼ですから……。」
様子を伺いながら言葉を掛けるヨセフ司教に対し、リーフ様はやっと何が言いたいのか理解したのか?頷いた。
「なるほど。確かに凄く難しそうな依頼だから、失敗する可能性もあるのか。考えてなかった!
でも大丈夫大丈夫〜。歳をとったら全部いい思い出になりますから。
もし何かに失敗したら、ごめ〜んって謝ってもう一回頑張ってみるといいですよ。
何かお手伝いが必要なら、俺も協力するので!」
「???は、はい……?」
リーフ様は朗らかに笑った後、最後はヨセフ司教を元気づける様にグッ!と拳を握る。
そんな姿に……根本的に理解はしていない事を悟った。
「……何だか彼、変わってません?」
心配していたはずが、何故か励まされてしまったヨセフ司教は、とりあえずといった様子で返事を返した後、私とソフィア様にボソボソと囁く。
それに頷き────そうになったが、ぐっと堪えた。
「なんだか聖女として!って気を張る自分が可笑しく思えてきたわ……。」
ソフィア様は、そう言って苦笑いしていたが内心は嬉しそうだ。
すると、なんだか自分の肩の力も自然と抜けてしまい、そのまま三人でリーフ様の行動を静かに見守る事にする。
邪魔にならない様、教会の端に避難すると、リーフ様はう〜む……と考え込みながら、まず教会の中心に立った。
「どうしようか……。────うん、よ〜し!レオン!まずは、落ち葉拾いの時と同じ様にやってみよう!
でも落ち葉の時より、少しだけ強めにやらないと駄目か〜……。えっと……まずは〜……。」
リーフ様は何かのスキルを発動した様で、微細な魔力が体から溢れだす。
そして、その直後ブツブツと何かを呟き出した。
「上に約590万、下に400万、左右には約200万ずつだね。」
ものすごい数の数字に嫌な予感がした私達三人は、顔を引きつらせリーフ様を見つめると、その視線に気づいたリーフ様がペラペラと今の状況の説明を始める。
「俺のスキル<犬の鼻まね>で、モンスターの魔力を感知したんだ。
さっきのは、家食いアリのいる方角とその総数だよ。
凄い数の家くいアリだ……。
これを一匹でも見逃すと直ぐ増えちゃうし、この場で殺したらもっと増えちゃうからね〜。
慎重に慎重に、残らず教会から出さないと……。」
最後は独り言の様にブツブツと呟いた後、リーフ様は腰に差した中剣をゆっくりと抜き、構える。
するとその直後、剣の周りに風がビュンビュンと集まってきて、次第にその風は剣の周りを踊る様に回りだし、その範囲は大きく広がっていった。
<魔術騎士の資質>(ユニーク固有スキル)
< そよ風のかけっこ >
風魔法の操作性を極限まで上げ、自在に操ることができるコントロール強化型スキル。
その範囲と威力は魔力量、操作性は魔力操作、知力に比例する。
(発現条件)
一定回数以上の風魔法を使う事
一定以上の魔力、魔力操作、知力、風魔法の属性魔力値がある事
一定以上の純粋、無邪気を持つこと
「いっくよ──!!」
風の範囲と共に威力も上がり、やがて髪を大きく乱すほどになると、リーフ様はその中剣を大きく後ろに引いて────思い切り横に振り切る!
すると────……。
びゅうううぅぅぅぅ────っ!!!!
一斉に吹いた風同士が、まるで競ってかけっこでもしているかのように、そこら中を駆け巡る。
そして黒いゴミの様なモノを巻き上げては、開け放たれている窓から黒い風となって出ていったので、私達はそれを視線で追って窓の外を見た。
するとそこには丸くて黒い、巨大な風の固まりがグワングワンと回転しながら宙に浮いているのが見えて、ギョッ!とする。
それは、風が教会から出ていく度に巨大化してゆき、次第にうぞうぞとなにやら蠢いている様に見える事に気づくと────ある可能性に辿り着きゾゾッ!と全身に鳥肌が立った。




