700 よろしくお願いしま〜す!
(アゼリア)
茶色い髪に緑の瞳、パッと印象に残るのは鼻辺りにちょろっと散らばるそばかすだけ。
道ですれ違っても、正直記憶には残らないと思われる外見を持つ人物。
<リーフ・フォン・メルンブルク>
先程ソフィア様と、散々話題にしていたお方だ。
「「…………。」」
私とソフィア様が驚いてポカ〜ンとしていると、その大きな声で振り返った街の者達がわっ!と一斉に声を上げる。
「あっ!救世主様だ!」
「本当だ!救世主様〜。」
口々にそう言いながら、全員がリーフ様がいる入り口の方へワラワラと集まっていった。
「きゅ、救世主様???」
ハテナを頭上に飛ばしながら、その様を見ていると、街の人達はリーフ様へ口々に御礼を告げていく。
「ウチの飲食店を助けてくれてありがとう!」
「あんたのお陰で、何とかお店を続けられてるよ。本当にありがとう!」
キラキラと目を輝かせて、更にお祈りまで始めてしまったので、リーフ様は慌てて両手を横に振った。
「どういたしましてー!で、でも別に俺大したことしてないし、レオンとかあげ玉とか黒みつとかも大活躍でね────……。」
リーフ様は必死に説明しているが、全員が目を閉じてブツブツと祈っているため聞こえていない様子だ。
「…………。」
リーフ様はそれに気づいて、割り切ったのか……腰を痛めた老人の様に後ろへ手を回し、フッと、イシュル神の様な慈愛の微笑みを浮かべながら黙る。
そして、そんなリーフ様の後ろには当然の様に、黒マントと黒フードを深く被った非常に怪しい男レオンがいて、いつも通りの我関せずな様子でポケ〜と立っていた。
「────チィッ!!!」
不快な気持ちから、思わず大きな舌打ちしてしまったが、周りにいる街の人達は、逆に喜びに満ち溢れた目をレオンにも向ける。
「守護影様もありがとうございます〜。」
「守護影様!」
「こんにちは!守護影様!」
そうしてまた祈り始めた者達に、レオンは挨拶を返す────……わけもなく無視。
完全無視!
『挨拶くらいせんか!この無礼な奴隷めがっ!』
そんな文句をたらふく心の中で言ってやったが、街の人々は全く気にした様子はなく「守護影様は相変わらず無口ですな〜。」「クールな所が素敵〜♡」「こっち向いて〜♡ 」とキャイキャイと騒ぎだす。
そして目の前で風に揺れる猫じゃらしの様に動く女達と、それに全く動じないレオンを見ながら周りは笑い、そしてそのウチの一人が慈愛の微笑みを浮かべているリーフ様に話しかけた。
「そういえば、今日は教会にお祈りですかい?」
「ううん。今日はギルドの依頼で来たんだよ。教会の<家食いアリ>の討伐さ。
だから申し訳ないんだけど、皆一旦お外に出ていてくれないかな?」
リーフ様は首を振ってそれを否定しながら、目的とお願いを口にする。
すると全員の目がキランッ!と光った。
「なんと!<家食いアリ>の討伐とな!?」
「じゃあ教会は燃やさないで済むかもしれないねぇ!ありがたやありがたや〜。」
まるでお祭りの様にイヤッホー!と騒ぎ出してしまった街の人達を見て、リーフ様は穏やかな笑みを浮かべたまま、レオンは無言で反応を返した。
そしてその直後、全員が非常に素早い動きで教会の外に出ていき、外から興味津々な様子で教会の中へ視線を投げつけてくる。
その場に残されたのは、リーフ様とレオンのみ。
そこでやっとリーフ様は、ソフィア様と私の存在に気づいた様で、こちらに向かってテッテッテ〜と近づいてきた。
「ソフィアちゃんとアゼリアちゃんじゃないか〜!さっきぶりだね。
ソフィアちゃん、体調はもう大丈夫?」
「えっ?────え、えぇ、もうすっかり大丈夫です。ご心配ありがとうございます。
あの……リーフ様はいつの間に冒険者になられていたのですか?しかも<救世主様>と呼ばれていて、本当に驚きました。」
のんびりと話しかけられ、多少動揺しながらソフィア様がそう返事を返すと、リーフ様は、『そういえば……?』と、今更気づいたかの様にハッ!とする。
「そういえば言った事なかったね。学院が始まって直ぐに、ギルドに行って冒険者になったんだ。
一応、真面目に依頼をこなしているだけなんだけど……いつの間にかなんだか凄いニックネームがついちゃったみたいで、俺も凄く驚いた〜。」
びっくりびっくり〜!
そう呟きながら笑うリーフ様からは、その名に対するプレッシャーや傲る気持ちは全く感じられず、それに少々驚いた。
本来<救世主>などという言葉は、結構なプレッシャーになると思うが……?
やはり凄いお方だと、改めて尊敬の眼差しでリーフ様に向けていると、リーフ様の視線は私達の後ろにいるヨセフ司教へと注がれる。
「こんにちは!冒険者ギルドから来たリーフとレオンです!今日はよろしくお願いしま〜す。」
元気よく挨拶をしたのだが、ヨセフ司教は返事を返さず、何故か酷く不思議そうな様子でリーフ様とレオンを交互に見ていた。
「ヨセフ司教?」
ソフィア様が、訝しげに名を呼んだ事からハッ!とした様子で慌てて話し出す。




