66 違和感だらけ
(リーフ)
◇◇◇◇
痒みのせいで地面をゴロゴロと転げ回ったイザベルは、全身泥だらけになる頃に、やっと落ち着いたらしい。
今は、はぁはぁと息を乱しながら大人しく横たわってる。
いや、凄かった……。
痒みって、あんなに人を狂わせるのかと恐怖を感じちゃったもん。
なんだかグットタイミングで天罰が下っちゃったため、これ以上怒る事が出来ずに口を閉ざしたままイザベルの服の泥を叩いて落としてあげた。
それに、例え良くない構い方でも『レオンと接触したい』という気持ちを持ってくれたわけなので余計に怒れない。
しかし────……。
────ギンッ!!!
痛い目を見ても尚、イザベルはレオンを睨んでいるので、どうしたらベストなのかを必死に考えてみた。
イザベルもカルパス達同様、物語では描かれていない人物だ。
つまり、レオンの未来には深く関わらない人物であるため、多少積極的に接点を持っても影響が少ない貴重な人物である。
「う〜む……。どうしようかな。」
俺の虐めによる辛い下積み時代、そういったちょっとした繋がりに助けられる事もあるかもしれないし、これは是非とも仲良しになって欲しいのだが……。
俺はチラチラッと、レオンとイザベルに視線を滑らせる。
今だ睨みつけるように俺を見ているレオンと、親の仇を見るかの様な目でレオンを睨み続けるイザベル……。
そんな二人を見れば、直ぐに仲良し小好し〜♬────になれないことは、嫌でも分かる。
大きなため息をついた後、俺は二人の注目を集める為パンパンと手を叩く。
「レオンもイザベルも戯れ合うのはここまでにして、そろそろ朝ごはんを食べに行こう!イザベルも一緒に食べないかい?」
「!!戯れっ……!?いえっ!あのっ!リーフ様!」
イザベルは盛大に照れているのか、顔を真っ赤にしてプルプル震えていたが、それとは対照的にレオンはお腹が空いているのか、嬉しそうな様子で必死にこくこくと頷いた。
それによろしいと頷き返した後、俺はふんぞり返って腕を組み、それはそれは偉そうにレオンに命じる。
「じゃあ、食堂まで、また『馬』になってもらおうか!」
そんな非道な命令に、レオンは怒りと羞恥に震えながら顔を赤らめながらも、物凄いスピードで俺に背を向け跪いた。
ここから食堂へは、まさに山あり谷あり、結構な距離がある。
昨日のレオンのおんぶ記録は2歩、はたして今日はその2歩を超えられるかな〜?
クックック〜!と悪役に相応しい意地悪な笑いを漏らしながら、レオンの小さな背中を見下ろす。
なんてったって俺は重い。それこそ肥料袋に、ちょっとオプションをつけるくらいには……。
これは流石に体力だけでは誤魔化せないぞ!
『1日1瀕死』
これがレオンの当分の目標なのだと心の中で宣言しながら、昨日同様レオンに、どっこいしょとおぶさる。
そして『さぁいざ行かん、新記録!』と、食堂までの道を指差ししようとした時、イザベルは絶句し地面に塞ぎ込んでいる事に気づいた。
「……?お〜い。イザベル、行くよ〜。」
そう声を掛けたがイザベルは非常に疲れている様子で「……私は……後で食べますので……。」と静かに答える。
これはゆっくり一人にしてあげた方が良さそうだと、俺は判断して頷いた。
「うん、分かった!ゆっくり休むんだよ〜。」
それだけ伝え、レオンに進むよう指示を出せば、そのまま一歩目〜、ニ歩目〜……。
「?」
三歩目、四歩目、五歩目、六歩目〜〜……────???
「?????」
順調に塗り替えられていく昨日の記録に、俺の頭の中はハテナマークで埋められていった。
あれ?ちょっとおかしくないか?
昨日はニ歩でもいっぱいいっぱいだったのに……??
俺を乗せ、平然とスタスタ歩き続けるレオンのつむじを見下ろしながら『何故?』と首を傾げた。
そして疑問で一杯のトリ頭をフル活動して考えた結果────『もしかして昨日はただ単に調子が悪かっただけで、レオンって元々ステータスが普通より高いのかも?』という答えが浮かぶ。
小さくたってレオンは<英雄>様!
レーニャちゃん曰く、<英雄>は世界を変えうる可能性を秘めた才能と言っていたし、そうであっても可笑しくはない。
「ほ〜う?なるほど、なるほど。よし!その調子だぞ!ファイトファイト〜!」
「!……っはい。」
帰ってくる返事は元気いっぱいで、まだまだ余裕が見えたから間違いない!と確信を得た。
そもそも<英雄>に限らず、生まれつき持っている【資質】によって、元々持っているステータス、さらにその伸び率などは大きく違うらしい。
例えば、物理系の戦士系資質なら<体力、筋力、守備力>が高めに、魔法使いなら<知力、魔力>が高めに……などなど、基本はそれぞれに適したステータスを持って生まれてくる。
そのため<英雄>というスーパーレア資質なら、全ステータスが高くても不思議ではない。
つまりつまりは────……。
<レオンハルトお助け作戦:その4>
筋力を鍛えよう!
これは、かなりイージーモードになるという事だ!
「ラッキーラッキー!」
思わずガッツポーズをとった瞬間、突然ある事に気づき、はっ!!と気づいた。
あれ?これって、レオンより俺が鍛えなきゃダメなのでは……?
だって、こんな力の差がある状態でレオンに将来ボコボコにされたら、俺が弱すぎてうっかり死ぬ可能性が高いんじゃない……?
サーっと、俺の顔から血の気が引いていく。




