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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第二章(リーフ邸の皆とレオン、ドノバンとの出会い、モルトとニールの想い)

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65 小さな違和感

(リーフ)


────1時間後。


「────はぁ、はぁ、はぁ、ゼィっゼィっ……。」


呼吸を大きく乱し、池が出来る程の大量の汗を垂れ流しているのは、レオン────ではなく俺だ。


んんんん???あれ?あれれれ???

おかしい……おかしいぞ〜!

なんで俺の方が瀕死になっているんだ?!


心の中でそんな疑問を叫びながら、相変わらず涼しい顔でチラチラとこちらを気にしてくるレオンに目を向ける。


こちらは疲労困憊で、足もガクガクと限界を迎えているのにレオンは汗一つかいていない。

コレでも一応、全力疾走に近いスピードで追い回していた。

前世でも体力に自信があったし、今現在も変わらずいける!と走ってみて確信したのに……!


「……ハァ!……っ……ハァ……ハァっ……っ。」


次々と地面に落ちていく汗を見下ろしたあと、グワッ!と目を見開き、涼しい顔のレオンを睨みつけた。


あんなにガリガリなレオンに一度も追いつけないなんて、一体どうなっているんだ??!

5分持てばいい方だと思っていたが、もしかして体力値だけずば抜けているのだろうか……??


昨日おんぶで2歩しか歩けなかった事を思い出し、頭の中はハテナマークで埋め尽くされる。


てっきり体力も力も低いと思ってたが、そこは英雄様仕様の様。

『リーフ』のハードな虐めに耐えられてたのは、もしかして生まれつき耐久値が高かったからだったのかもしれない。


そんな事をつらつら考えながら走ってたのだが────多分それが不味かった。

大きく踏み出そうとした右足は力を失い左足に絡まり、あっ!言う暇もなく気づけば体は前へと傾いていく。


こっ、転ぶ〜!!


近づいてくる地面の映像に、俺は予想される衝撃に備えてぎゅむっと目をつぶったが────……待てども待てどもその衝撃が来ない。


「……あれ??」


そろ〜と目を開くと、直ぐ目の前には地面が。

そして横にはいつの間に移動したのか、レオンがいた。


なんとレオンは右手を俺のお腹辺りに添え、そのまま体を持ち上げてくれている様で、その証拠に俺の足はつま先程しかついて居ないし、長時間の走り込みで疲労した体は、これ幸いとレオンの手の上でおやすみモードになっている。


お?おおおお???

あれ??もしかしてレオンって意外と手の力ある?


「ありがとう、レオン……じゃなくて、良くやった!下僕のレオンよ!」


「……はい……。」


レオンは無表情のままそう答えた後、ゆっくり俺を地面に下ろしてくれる。

そうすると自然と俺は一回り以上小さなレオンを見上げる形になるわけだが、ちらりと見上げたレオンの顔が薄っすらと赤みを帯びているのに気づいた。


────はは〜ん?実はレオン……結構疲れているね?


どうやら下僕デビューしたクールな自分を演じるため、やせ我慢していたご様子。

確かに男は格好つけ気味なところがあるし、異性を意識し始める小学生くらいの子供にはそれが顕著に始まる時期ではある。

レオンは現在8歳で、まさにそんな年頃ど真ん中。

今のところは一応、正常な情緒の成長はしているとみた!


良いではないか〜良いではないか〜。


ふざけて時代劇のエチチなセリフを心の中で吐きだしたが、すぐに気分は大きく沈む。


そう考えると、やはりそれを全て台無しにしてしまったのはレオンの唯一とも言える大事な人────母親に捨てられてしまったことが最大の原因なのだろうなと思ったからだ。


なんとか回避させてあげたいが……さて、どうしようか。


つらつらと考え込む俺を、レオンは黙って穴が空くほど見つめてくる。

その視線に気づき、チラリともう一度レオンの方を見ると赤みは完全に消え、そして表情筋も薄弱そうな無表情で、なおも俺をジト〜と見下ろす。


人を下僕と呼んでおいてこの情けない姿……。(目が語るレオンの心の声)


ガガ────ン!!!

大きなショックを受けて、俺はヒュッ!と息を吸い込んだ。


これはまずいぞ!悪役とは、主人公を凌駕する実力あってのもの。

このままでは────……。


『悪役?あ〜あの弱い平凡ザコ男か!あんなのモブだよ、モブ〜。

あ〜!あんなのが立ちふさがったってフッ!と息一つで飛んでっちゃうよ!やる気出ないなぁ〜。』


ダルそうにため息をつくレオンの姿が浮かび、更にダブルショックを受けた。


このままでは、レオンのやる気スイッチを押すことが出来ない!


ガクガク、ブルブルと震えながら『た、体力を……早急に体力を付けねば……っ!』と心のなかで決意した、その時────……。


「リーフ様から離れろ!この化け物めっ!!」


そう叫びながら、剣を構えたイザベルが茂みの奥から飛び出してきた。

その顔は青ざめているが、目はギラギラとレオンを睨みつけている。


「やはりこんな呪われたものを見過ごすなど……私には出来ません!!

私はリーフ様の専属護衛!主人の安全を守る義務があるのです!

────お許しを……っ!!」


イザベルは大声でそう叫び、グッと足に力を入れるとレオンに向かって飛びかかる。


そのあまりのスピードに、俺の目は一切その動きを捉えることはできず、瞬きするか否かのその瞬間────……レオンは足元に転がっていた木刀を蹴り飛ばし、宙に浮いたそれを右手でキャッチ。

そして勢いよく切りかかってきたイザベルの剣を、そのまま軽く横に受け流した。


────ガキィィンッ!!!


まさに電光石火!

一瞬の出来事で……俺が瞬きしてパチリと目を開けば、驚愕の表情で慌てて距離をとったイザベルと、俺を背にして木刀を持っているレオンがいた。


────お??おおおお????

何?何?ちょっとよく分からなかったぞ??何があった??


汗を流しジリジリと距離を取るイザベルと、無表情で木刀をダランと持っているレオンを見て俺は、はは〜ん?と呟きニンマリと笑う。


これはあれだ、イザベルがレオンに意地をつつきに来た。


見つめ合う二人を見て、笑みを深めていく。


呪いを恐れているイザベルは多分呪いが伝染らないものだと分かり、彼女なりに複雑な思いを持ってレオンを構いに来た。

しかし、さっき意地悪した手前、素直に『い〜れ〜て!』が出来ない恥ずかしがり屋のイザベルは、レオンに斬りかかるふりをして自身の実力を俺たちに見せつけたのだ。

木刀を持っている俺を見て、剣が得意な自分が教えてあげるよ!とアピールをしたかったに違いない。


俺は前に立つレオンの横から顔を出し、レオンを睨みつけているイザベルに向かってホタホタ〜と暖かく見守る様な笑みを浮かべた。


これは、友達づくりが苦手な子供がよくやってしまう悪手。

自分はこんなに凄いのだと見せびらかし注目を集めようとするが、周りの子の目はそんな自分に向いてはくれない。

現に今現在、レオンは驚いて思わず木刀を持ってしまう程怖がってしまっている。


木刀を握ったままのレオンを見上げ、その心情を想像し『Oh……。』と横に振った。


『怖くて木刀を反射的に握って離せないよ。いきなり走ってきて、この女の人怖い……。』


そりゃ〜そうだ!

イザベルは戦闘のプロ、剣を触った事すら皆無のレオンにとって例え振りでも斬りかかられては怖いに決まっている。


これはイザベルを少し叱らねばならないと『こらっ!』と言おうとした、その時だった。


レオンが現在握っている木刀、その先に先程までちょこんと乗っていたカユジ虫はどうやら宙に投げ飛ばされていた様で、お空のお散歩へ。

そして当然、そのまま弧を描きながら落下してきて────────なんとイザベルの頭の上に『ただいま』をしたのだ。


「ギャアアア────!!!」


その瞬間、イザベルの大絶叫が屋敷中に響き渡った。


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