62 レオン初出勤
(リーフ)
お目当てのものも無事見つかり、ホッとしながら時間を確認すれば、既に7時5分前!
そろそろレオンが来る時間だと、俺は正門の方へと慌てて走っていった。
そしてなんとか約束の時間ギリギリだが、正門が見えるところまで来れて、間に合った〜と安心したのも束の間、そこには剣を構え険しい顔で威嚇するイザベルと、既に到着しているレオンが遠目に見える。
イザベルがさっそくレオンを威嚇しているぞ〜!
急がなければ!
シュバ!とスピードを上げて駆け寄っていく内に、レオンの姿はどんどんとはっきり見える様になっていく。
服は、昨日と同じくツギハギだらけの麻袋。
しかし、左側の手足に布は巻き付けておらず、顔にも布は被っていないお肌がむき出しなスタイルだったので、思わず目を見開いた。
どうやらレオンは、一度脱いでしまえば気にならないタイプとみた!
良かった良かった〜!と心から喜んだが、他のことにふと気づく。
「あれ?なんか目、合ってない??」
かなり遠くの距離にいるのに、ずっとレオンと目が合っている。
視認が難しいくらいの距離からだったので、こちらに顔が向いている事に違和感があったが……ある事を思い出し『あぁ〜』と納得した。
くるりと後ろを振り向けば、そこには俺が住んでいる大豪邸がドド──ン!
恐らくレオンは俺ではなく、俺の背後にあるこの大豪邸を見ているに違いない。
「これかぁ〜……。確かに凄いもんね、この家。」
お城の様な外観をしている我が家。
元々はメルンブルク家全員で住むメインの家として建てられたらしいので、とにかく大きい。
「公爵家にふさわしい従者や侍女さんの人数も考えると、このくらいが妥当らしいけど、尋常じゃないこだわりも感じるんだよねぇ……。」
改めてその凄い大豪邸を眺め、物語で語られていたリーフの両親について思い出す。
物語の中で彼らは自分たち一家を神の祝福を一身に受けた愛し子であると心の底から思い込んでいた。
『美しさ』に絶対的な価値観を置く彼らにとって、絶世の美しさを誇るイシュル神と、それを崇拝する美しい自分たちの姿はたまらなく魅力的であったようだ。
「家族と同じ思想を持ったリーフが、必要以上に英雄レオンハルトを気に入らなかったのはそのせいもあったんだろうね。
自分こそが神様に選ばれた者だ!……的な?
だから最後の決闘では、自分が英雄であることを認めろと、アーサーに条件を出したのかな? 」
そんな神物語にでてくるメルンブルク家のお屋敷は、教会と同様白を基調とした外観に白銀を主とした装飾品がこれでもかと周りを飾るキンキラリンの大豪邸。
恐らく神様がいる家みたいなのを想像して作ったに違いないという出来で、現在俺の背後にある屋敷も全くそれと同じモノが建てられている。
ただ物語の中と違うのは庭園に咲いているのが、メルンブルク家の象徴とも呼べる真っ赤なバラではなく、優秀な庭師のクランが選び抜いた色とりどりのお花達であるという点だけだ。
そんなこだわりの物件を離れるのは、パパさんとママさんにとって苦渋の決断だっただろう。
ほんの少しの申し訳無さを感じたが、そこで、ふっ……と疑問がよぎった。
なぜメルンブルク家は、このレガーノに住むことに決めたんだろう?
「……あれ?」
一度浮かんだ疑問は、瞬く間に俺の中で大きくなっていく。
王都はこことは比べ物にならないほど広く、流行の最先端をいく発展大都市。
流行に敏感で派手好きな彼らにとって、平和がトレードマークのレガーノに、住み着くほどの魅力が果たしてあったのだろうか?
「うーん……?そのあたりの記述はなかったなぁ。
寧ろ都会について称賛するような発言ばかりだった様な?」
色々考えてみたが、結局は分からなかった。
まぁモルトのところのバラをそばで見たかったとか、ニールのところの牛乳が美味しかったとか割と単純な理由だったのかもしれないな。
考えても分からなそうなので、とりあえずはそう思うことにして、疑問は一度頭の外へポポーンと放り出しておく事にする。
結局豪邸に釘付けであろうレオンの目線は、(多分)近づくにつれて俺へと移っていき────イザベルが俺に気づいた頃にはバッチリと俺を見つめたままのレオンは、突然地面に片膝をついた。
「おはようございます。リーフ様。あなたの下僕のレオンがご命令どおりに参りました。」




