表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第一章(転生後、レオンハルトと出会うまで)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/831

(レオン)53 唯一の大切なもの

(レオン)


「────うぅっ!!」


「っうわっ!!」


「ひっ……っ!!」


その瞬間、リーフ様の後ろの方で悲鳴が上がる。


当然だ。こんな恐ろしい姿を見せられて、平常心を保てるはずがない。

これで目が冷めただろうと、俺は下に下げていた視線を徐々に上げていった。


これで俺は、俺のいるべき『世界』……変わることのないあの白い世界へ帰る。

それが正しくて当然の事なのだ。

自分に言い聞かせる様にそう考え、リーフ様に視線を向けたが────なんと予想していた『当たり前』のはずの視線は、リーフ様から向けられていなかった。

そこにあったのは、俺の『世界』に存在しないはずの感情が乗った視線で、それに俺は驚かされる。


何だこれは?何だこれは?

     

何なんだ?()()は?


頭が馬鹿になるくらい『不思議』が頭の中を占め、それが一体何なのか、俺には何もかもが理解できない。


「??……???」


そのまま混乱していると、リーフ様は満足そうに頷き、あっさりと予想外の言葉を言い放った。


「なんだ、大したことないじゃないか。

ちょっといい感じの特徴を持っているからといって、自分をかっこいいなどと勘違いしては駄目だ。

俺の方がかっこいい。分かったかい?」


「??……あ……はぁ……。」


『大したことない』?この姿が??


衝撃的な言葉に思考が停止しそうになったが、直ぐに我に返ってそれを否定する。


そんな事あるわけ無いではない。  

だって、この醜悪な姿のせいで、俺は()()にいる。

誰にも存在を認めてなど貰えない、受け入れて貰えないのはこの姿のせいなのに!

なのに……どうしてリーフ様だけはそんな事を言うのだろう?


その答えを、スキル<叡智>は教えてくれないため、俺はバカみたいにひたすらリーフ様を見ていた。

      


理解を越えた()()をなそうとする存在の姿を。


「うむ。そのへんの認識は後々ゆっくりしていくといいよ。

とにかく君は俺の下僕、それだけは今日きちんと理解したね?

そうと決まれば、下僕と呼ぶのは言いにくい。

なんて呼ばれたい?」


リーフ様の中で勝手に『下僕』というモノになった俺。

更に呼ばれたい名を聞かれたが、俺には元々名前はない。

今いる『一人きりの世界』には、必要のないものだからだ。


『名前』は、この世に生を受けた時、『誰か』から受け取る初めての贈り物。

それを贈られる事は、自分がこの世界に望まれて生まれた事の何よりの証拠となる。


「…………っ。」


────ドクンッ……ドクンッ……。


苦しいくらいに、心臓が高鳴った。


自分を『個』として認識してもらう証。

『誰か』にとっても自分にとっても、『自分』という存在を認めるのに、名前は必要不可欠なものだ。

きっとそれは、ふわふわとただ浮かんでいるだけの存在の足を、しっかりと『世界』に根付かせてくれるはず。


「はっ、はいっ……おっ、俺はリーフ様の……下僕です……。

……そっ……その……名前は……ありませんので、お好きにお呼びください……。」


期待に全身を震わせながら、やっとの思いでそう返せば、リーフ様は少し考える素振りを見せてこう言った。


「よし、じゃあ今日から君の名前は<レオン>だ。」


『レオン』


たかが三つの単語が並んでいるだけの言葉であったが、それが俺の『名前』

俺に贈られた俺の為だけの、この世で唯一のもの……。


     

────俺が()()に存在する証だ。



「……レオン……レオン……。」


狂いそうになるくらい歓喜する心を必死に押さえつけ、口の中で何度も何度もその言葉を呟いた。

初めて貰ったソレを舌で転がし、噛みしめる様に味わう。

そのたびに喜びの感情が溢れ出し、それをどうやって止めて良いのか分からない。


「……〜っ。」


初めて感じるその感覚に体はグラグラと揺さぶられ、やっとの思いでそれに耐えていると、リーフ様は大きなランチバケットを掲げ注目せよと命じてきた。

そこから漂う芳しい匂いに、体の飢えを思い出し反射的にゴクリと喉をならすと、リーフ様は目の前でそれを食べ始める。

その様をぼんやりと見つめながら、嬉しそうにそれを口にする彼の姿に、今度はほっこりと胸が暖かくなった。


美味しそう。

自分は食べれないけど、リーフ様は嬉しそうだ。

────『嬉しい』。


「…………?」


突然湧いた『喜び』に、今度は不思議な気持ちになった。


なぜリーフ様が幸せそうだと、関係ない俺が『嬉しい』のだろう?


そんな疑問が頭を過ったが、突然バケットを渡され、意識はそれに移ってしまった。


「────うわっ……!」


ズシッと重いバケットにより、思わず膝をついてしまい、俺は小さな叫び声をあげる。


い、一体これをどうすれば??


オロオロする俺を前に、リーフ様はニヤリと笑った。


「俺の食べ残しの残飯を食べること!それが今日から君の大事な仕事だよ。 

さあ!早く食べるんだ!豚さんの様に!むしゃむしゃと!しっかり噛んで、だよ!」


────そう言われた瞬間、俺の脳裏には絶対に叶うはずもないと思っていた光景が、またしても蘇った。


テーブルに所狭しと並べられた豪華な食事、テーブルの周りを囲み笑顔で笑い合う人々の姿……。


『喜びの共有』


それは『誰か』がいなければ得る事のできない感覚だ。


「あ……あの……本当に……」

     

本当に俺に()()を与えてくれるの?


ゴクリと喉を鳴らしながら、俺は心の中で必死にリーフ様に問う。


決して交わることのない世界から、俺に触れてくれるの?

あの『白い』世界で漂うだけの俺の『誰か』に……俺に存在する証を与えてくれる『何か』になってくれる?


────そんな意味を込めた言葉も……リーフ様はあっさりと肯定した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ