48 君の名前は……
(リーフ)
「────うぅっ!!」
「っうわっ!!」
「ひっ……っ!!」
取った布が地面にポトリと落ち、レオンハルトの顔が目の前に現れると、後ろからはモルトとニールの短い悲鳴と、イザベルからは恐怖と驚きの入り混じった声が聞こえた。
そこに現れたのは、この世界の禁忌とされている黒を余すことなく使った髪と瞳。
焼けただれたように黒ずんでいる左半分の顔に、さらにその皮膚の上には判別不能の文字がぎっしり刻まれていたレオンハルトの顔であった。
【アルバード英雄記】で何度も何度も見てきたその姿。
呪われし英雄、レオンハルトの実物が……手が届く距離に!
それを目の前で見てしまった俺は、ドドンと大砲で撃ち抜かれたような感動に打ちひしがれる。
……ありがとう。ただそれだけ……。
────ジ〜ン……。
目をキラキラと輝かせ感動に打ちひしがれていると、なぜかレオンハルトはぼんやりとした様子で俺を見ている事に気づいた。
「……?」
さっきまで怖がってオロオロしていたのに……?
突然変わった様子に首を傾げたが、もしかして、服を脱ぐ前は恥ずかしがっていたけど、いざ脱いでしまえば全く気にならなくなる現象かな?と思い当たる。
ちなみに俺は恥ずかしくない。
即座に全裸になってタオルをぺちーんと肩に掛けて堂々と入る。
でもやっぱり学生の頃とかは、恥ずかしがって中々温泉に入れなかった時があった気がするので、多分レオンハルトの心境はそれかもしれない。
若き頃の良き思い出にムズムズしながらも、レオンの潔い脱ぎっぷり的な態度はとても良い傾向だと思った。
気にならないなら、これからは思いっきり日光浴をして欲しいな!
「なんだ、大したことないじゃないか。
ちょっといい感じの特徴を持っているからといって、自分をかっこいいなどと勘違いしては駄目だ。
俺の方がかっこいい。分かったかい?」
「??……あ……はぁ……。」
しっかりと釘をビシバシと打ってやったが、分かっているのか分かっていないのか……やはりぼんやりとしたままブチブチと口ごもるレオンハルト。
いくら<叡智>という頭脳系の最強スキルをもっていても、人間相手のコミュニケーションは、それだけで上手くいくほど甘くはない。
理屈に合わぬことをするのが人間だから。
こればっかりは、沢山の経験を経て、実力を磨いてもらうしかない。
「うむ。そのへんの認識は後々ゆっくりしていくといいよ。
とにかく君は俺の下僕、それだけは今日きちんと理解したね?
そうと決まれば、下僕と呼ぶのは言いにくい。
なんて呼ばれたい?」
「はっ、はいっ……おっ、俺はリーフ様の……下僕です……。
……そっ……その……名前は……ありませんので、お好きにお呼びください……。」
レオンハルトは息も絶え絶えにそう告げながら顔を下げ、そのまま黙り込んでしまった。
それ以上言う事ないな〜い!になってしまったレオンハルトに、俺は腕を組んでう〜ん……と考え込む。
レオンハルトは神託が降りた15歳になるイシュル神の日まで名前がない。
流石にそれは不便なので、その日までの仮の名を彼に決めてもらおうと思ったのだが、特に希望の名はないらしい。
こいつは困った事になったぞ。
俺にはセンスが壊滅的にない。
俺のミジンコ並のセンスで、現在頭に浮かんでいるのは『クロ』
しかし、それではワンちゃんやネコちゃんの名前になってしまうと必死に頭をフル回転した結果────結局最後は<レオンハルト>という名前になるのだからそれに移行しやすい名前にするべきと考えた。
「よし、じゃあ今日から君の名前は<レオン>だ。」




