46 英雄お助け作戦 そのいち
(リーフ)
漫画でよく見る悪役の様に、腰に片手を当てもう片手でビシッ!とレオンハルトらしき子供を指差す。
すると俺の声を聞いたその子は、ビクっ!!!と大きく体を震わせた後、慌てて顔に被せている布を深く被り直した。
「??……っ??」
そして、その小さな体をキュッと丸めて、布の隙間からチラチラとこちらを伺うように見てくる。
多分、状況を探ろうとしている様だったので、俺はニヤ〜っと悪者に相応しいと思われる笑みを見せつけてやった。
「君を今から、このリーフ・フォン・メルンブルクの下僕にしてやろう!!有り難く思うといい!!」
そうして悪役の親玉らしく、わーっはははは〜!と高笑い!
すると、目の前のレオンハルトは固まり、後ろの方で様子を伺っているモルトとニールも白目を剥いて固まり、イザベルからは、ヒュッ!と息を飲む声が聞こえた。
……こんな感じで合ってる??
内心ドキドキと緊張しながら、レオンハルトを見下ろすと、何だかブルブルと震えて恐怖に慄いている様だ。
それに確かな手応えを感じて喜ぶ気持ちと、今直ぐ『怖くないでちゅよ〜!』と抱っこしたい気持ちとで、心の中がグッラグラ!
しかし直ぐに俺は自分が全うすべき大役を思い出し、余計な感情はペイッ!と頭の外へ放り出した。
ただの通行人役しか適さない俺にとって、悪役という主人公に次ぐ大役は未知の役。
これが本当に正解かが分からない。
そのためとりあえず前世で見た漫画などに出てくる悪役を真似てみたのだが……思った以上に様になっているかもしれない。
俺って意外と悪役向いてる?────やっほい!
思ってもなかった自分の才能に対し歓喜し、心の中で拳を握った。
<レオンハルトお助け作戦:その1>
レオンハルトをリーフの下僕にする。
リーフがレオンハルトを虐めること、これを避けて通ることはできないが、他の人達までその虐めに加担させる必要はない。
リーフは、貴族の中ではトップに君臨する大貴族。
物語の中ではそれに取り入りたい同級生達が、これまた過剰にレオンハルトを攻撃する。
『自分たちはリーフ様と志が同じ仲間ですよ〜。見て見て〜!』──ってな感じで、自分をアピールする最大のチャンスとして、レオンハルトを利用したのだ。
「……フッ。」
それがちゃんちゃらおかしくて、思わず鼻で笑ってしまった。
もっと良いアピール方法など、無限にある!
大人ぶっていても所詮は子供……それしか考えつかなかったのかもしれない。
イメージ貧困だな〜!全く〜……!
心の中で、悪いことをしようとした悪ガキ達にオジさんチョップ!
すると、全員ピーピー泣きながら逃げていった。
そんな迷走真っ只中の子供達には、『レオンハルトは俺の下僕、舎弟的立場である』と宣言しておけば、俺の許可なく下の爵位の者達は下手に手出しできなくなる。
それはこの街の人達も同様にだ。
さらにさらに〜下僕にするという屈辱を与えることで、既にレオンハルトに相当な心的負荷を与える事ができ、一番近くで堂々と嫌がらせすることもできる。
まさに一石二鳥……いや十鳥くらいの素晴らしい作戦だ。
ニンマリ笑う俺に、正気に返ったらしいモルトが後ろで叫んだ。
「リ・リ・リ……リーフ様っ!!!一体何を仰っているのですか!?
そんな化け物に声を掛けてはなりません!!早くここから離れましょう!!」
モルトの大きな声に、ニールとイザベルも、はっと我に返ると直ぐにその場から立ち去ろうと手招きをするが、俺はそれを鼻で笑って返す。
「ほほぉ〜〜? さては君たち怖いんだな?」
煽るような物言いに3人はピタリと動きを止める。
それを見て更に不敵に笑った俺は、続けてレオンハルトに向けていた手を引っ込め、立てた親指を自分の胸元に叩きつけた。
「だいたい呪いだのなんだのと、そんな不確かなものにこの俺が臆するわけないだろう!
俺は世界一強い<リーフ・フォン・メルンブルク>!
こいつより、俺の方が何億倍も強──い!!」
俺の宣言を聞いて、またしてもポカーンと固まってしまった3人。
更にその中のイザベルは明らかに顔色が悪く、汗もびっしょり掻いている様だったので、大丈夫かなと見ていたらバケットを持つ手が震えている事に気づいた。
実はイザベルがずっと持ってくれていたこのランチバケット、尋常じゃないくらい重い。
なんか装飾品がゴテゴテつけられていて、もう本来のお弁当入れがメインじゃなくなっているこのランチバケット……その装飾品一つ一つがべらぼうに重いのだ。
金に銀、宝石に特殊な鉱石……と、そんなモノがこれでもかとついているのだから重いのは当たり前。
貴族は、基本従者の人達に荷物を持ってもらう為、見た目を重視したものが多く、大体はこんな感じの持ち物が多いそうだ。
つまり従者さん達は、筋トレが必須!
もっと軽くして労ってあげよ〜?大変だから!
「効率重視……低コスト……。」
ブツブツと不満を口にしながら、俺はイザベルに直ぐに駆け寄った。
「今まで持ってくれてありがとう。今から俺が持つね。」
そう言いながら、イザベルの手からダンベルのような重さのランチバケットを奪う。
「あ……。」
「……り、り……ふっ……さ……。」
息も絶え絶えで何かを呟くイザベルに『任せて任せて〜♬』と大きく頷き、再度レオンハルトの目の前に立った。




