44 イシュルの教会
(リーフ)
◇◇◇◇
「うわ〜……大きいな。」
教会の中に入るとまず目に入るのは、大きなイシュル神像で、中々の大きさに目を見開く。
10mはあるかなという大きさのイシュル像。
白銀の長い髪を持つ美しい女性が、簡素な白いドレスを身に纏い、天に祈るようなポーズをとっている。
そして恐らくは、何かの行事ごとの時に鳴らすのだろうか?
像の上には大きな鐘が設置されており、それを支える銀細工の支えには、ガラスの花が所々に飾られ像全体を輝かせていた。
「これがイシュル神様か〜。」
へぇ〜と感動しながらイシュル像を見た後、今度は周りをキョロキョロ見回す。
イシュル神像が立っているのは、広くて綺麗な聖堂で、沢山の礼拝者達がイシュル神像に向かって祈りを捧げては、そのまま帰っていく姿が目に入った。
「リーフ様、どうぞコチラへ。」
「祈りましょう。」
モルトとニールは、勝手知ったるとばかりに慣れた様子で、イシュル神様の像の前まで俺を連れて行くと、他の礼拝者同様祈りを捧げ始めたので、俺もすぐにそれを真似て祈る。
真剣に祈り続けるモルトとニール、そしてその他の人達を見て、元日本人であった自分としては馴染みがないが、この国の人達にとってイシュル神が、本当に大切な存在であるということを理解した。
だからこそ彼らにとって、レオンハルトの存在は受け入れ難いものだったんだろうな……。
祈りのポーズのまま、こんにゃろ〜!と恨んでしまう気持ちが湧くが……でも、同時にそんなレオンハルトの命を救ってくれたのもイシュル教だった事も思い出す。
きっとイシュル神様の『子供は神のお使い様』という教えがなかったら多分生まれた瞬間に────……。
しゅしゅ〜ん……。
恨めしい気持ちはあっという間に萎んでいき、目の前のイシュル像に向かって、今度は心から感謝のお祈りを捧げる。
『イシュル神様、レオンハルトを助けてくれて本当にありがとうございます!これから俺、頑張りますので!』
心の中でお礼を告げると……。
────ゴローン!ゴローン!!
突如イシュル神像の上に設置されている鐘が、大きな音を立てて鳴り出したのだ。
「────なっ!なんだ?!」
突然教会内に響いた音に驚き、慌てて鐘の方を見ると、鐘がひとりでに鳴っているのが見えた。
「??もしかして、 目覚まし時計みたいな機能が────……。」
────ないのは、周囲の人々のざわめきと、俺の両隣にいるモルトとニールの狼狽えっぷりを見れば分かる。
神官さん達も、慌てて鐘の方に駆け寄り『何事か!?』と、その周囲を調べていた。
「……風か何か?」
そう勝手に納得していると、隣にいるモルトが不安そうにボソッと呟く。
「ありえない……。」
「?何があり得ないんだい?」
そう尋ねると、反対隣にいるニールがそれに答えてくれた。
「教会の鐘は、イベントの時や何らかの緊急時に神官さま達によって鳴らされるんです。
それ以外では鳴らさないですし、更にその際は2〜3人掛かりで鳴らすんですよ。
勝手に鳴るなんて……ありえないっす。」
「おいっ……言葉遣い……!」
モルトが咄嗟に注意したが、内容的にはその通りらしく、う〜む……と考え込んでしまう。
俺は、『じゃあ、普段聞けない鐘の音が聞けてラッキーラッキー』程度に思いながら、難しい顔をして考え込む2人の首に手を回しぐいっと自身に引き寄せた。
「じゃあ俺たち今日はスーパーラッキーだ。
きっと日頃頑張ってる君たちを褒めてくれたんだよ。
だからとりあえず、神様にありがとうしてから帰ろうか。」
その言葉に2人は顔を見合わせ嬉しそうな様子を見せ、3人揃って「ありがとうございました!」とお辞儀したところで本日の行事は無事終了。
そのまま踵を返して、その場を後にした。




