(レイド)283 大人になるということ
(レイド)
「……おい、お前大丈夫かよ。あんな目で……見られて……。」
あんな恐ろしい目で見られて、更に先ほどなど暴力……というほどではないが、何やら揉めていたみたいに見えたので、心配で声をかけたのだが……リーフは随分とケロッとした様子で答える。
「うん!なんか俺、それが楽しくなってきた感すらあるね!
これは期待に添えなければと思ってるから!任せて任せて〜。」
楽しい?期待??何が???
メルと二人で「?」で一杯になった頭を傾けていると、スッと横から肩に回る手が現れた。
「はぁ〜……。昔の俺達と同じ目をしているっすね。
大人の俺としては、そんなお前たちをほっとけねえっすわ。」
「これから君たちは知るはずだ。人の順応力の凄さを……。
そして人間関係において『流す』事こそが最も大事な事であるということを────。ようこそ。大人の世界へ。」
リーフの仲間のモルトとニール。
二人からも楽しそうな雰囲気がビンビンと感じるし、更に俺達は互いに夢を語った仲でもあるため、俺とメル的にはもう二人もリーフ共々親友の立ち位置にいる存在である。
「お、おぅ……?」
「……大人……?」
俺とメルの戸惑う声も何のその。
モルトとニールは俺とメルを巻き込み円陣を組むと、ボソボソと小さな声で話始める。
「いいか?レオンは人間ではない。ちょっと誤作動が多いリーフ様の便利な魔道具。その認識で間違いはない。」
「レオンは基本リーフ様に危険がなければ襲ってこないっす。
子供を守る家畜と同じっすね!」
「……でもさっきリーフ暴力受けてた……。……暴力良くない。
……会話になってなかった……。」
モルト、ニールのアドバイスを受け、なるほど〜と頷きながらも、メルは先ほどのやり取りを見て不安であることを伝える。
獣人は聴力も人族より非常に優れており、リーフとレオンの会話も全て聞こえているのだが、確かに今の今までの二人の会話を思い出してもまともな会話になっていなかった様に思えた。
レオンの言いたい事が分からないのは言わずもがな、それに答えるリーフの言葉もほぼ分からない。
さっきなんて『太陽欲しい』とか言ってたし……。
それに対して『届くといいね』とか返してたきいってし?
またしてもハテナで埋め尽くされていく頭をメル共々傾けていると、モルトとニールは、フフッ……と控えめな笑みを浮かべた。
「レオンとリーフ様の会話は9割以上意味が不明なものだ。
きっと常人には理解できない広い世界の話をしておられるのだろう。
俺は多次元の世界の話だと思っている。」
「とにかくレオンがゴネ始めたらリーフ様の元に放置。
これが最低限のルールっすね。
不思議な事に全く会話にならなくても最終地点は同じみたいでいつの間にか解決してるっすから。」
頭の中で、今までのリーフとレオンの会話を理解しようとカシャカシャ回転していた脳みその活動が、ピタリと止まる。
『会話分からないOK。』
『放置で問題なし。』
そんな答えがストンと入ってくると、俺もメルもスッキリした顔でコクリと頷いた。
「そうだな!リーフは強いし大丈夫だろう!」
「……リーフは強い戦士……心配は野暮……。」
「その通り。しかし、俺達は絶対にその余波に巻き込まれる事になる!
つまり、この学院で青春を謳歌するには……。」
「仲間たち全員の協力が不可欠って事っすね。被害を最小限に、常に回避の姿勢を忘れずに!」
俺とメル、そしてモルト、ニールはお互いに目を見合うとコクリッと頷きあった。
「「「「獣人組〜っ!!ファイッオーファイッオー!!」」」」
<獣人組→モルト、ニール、レイド、メル>
その掛け声が聞こえたのか、リーフが目を輝かせて、俺たちが作る円陣の真ん中にスポッ!と入ってくる。
「なんか楽しそうなの発見!俺もま〜ぜ〜て〜!」
見上げてくるリーフを笑顔で迎え入れた俺達4人は、大声で叫んだ。
「人族のハーレムほしい!!」
「……人族のお嫁さん欲しい……。」
「女の子とお話したいっす!」
「お茶と花が好きな女性との幸せな一時を……!」
俺、メル、ニール、モルトの順でそんな願望を叫ぶと、リーフは真ん中で、ハイハイ!と手を挙げる。
「俺、俺!むっちんむっちん謳歌したい!!」
続いて叫んだリーフがデレデレな締まりのない顔を見せると、突然横から────……。
「えぇ〜、ぺったんぺったんは駄目ですか?」────という声が聞こえ、あのサイモンとかいう女……いや男が胸に手を当てながら、いつの間にかリーフの隣にちょこんとしゃがみこんでいた。
その出現に驚いた俺達は、ババッ!!!と仰け反りそいつから離れたが、リーフはキュルルン♡とした気味の悪い目を受けながらもしっかりと答える。
「駄目〜。俺、むっちん派〜。」
「えぇ〜……。そんなぁ〜。」
むっちんがないサイモンは、ブーブー言いながら直ぐ近くにいるリリアとかいうボインボイン女の胸をまた掴み上げ「これかぁ〜……。」と言ってため息をついた。
「兄さん、やめて?」
胸を鷲掴みにされているリリアは、静かに怒りを滲ませている。
何をやってるんだか……。
こちらもため息をついてリーフへと視線を戻せば、そのすぐ後ろにいた。
一切の感情を感じない無表情のレオンが。
「「────……っ……っ!!??」」
メルと俺がヒュッ!!!と息を吐き固まっていると、レオンはブツブツと呟きながら、リーフを猫の子の様に持ち上げる。
「……俺が一番……むっちんも一番……。」
そして、後半に至っては下ネタ??と疑問に感じる言葉を呟きながらリーフを……力いっぱい締め上げた。
────ギチギチギチ〜ッ!!!!
獣人でも全身の骨が折れるほどの攻撃!
それに耐えているリーフを青ざめながら見つめていると、リーフは息も絶え絶えな様子で、「レオン〜……優しくして〜……。」と小さく囁く。
するとレオンはサッサッと頭を撫でる仕草をするが、かなりの力だったたらしく、リーフの頭皮からは、ジャリッジャリッと不気味な音が聞こえた。
「ヒェッ……!」
「ヒヒぃ〜……ッ!」
その音が上がるたびにリーフが変な悲鳴をあげるので、それに耐えられなくなった俺とメルがブブーっ!!と吹き出すと、周りにいる奴らまで笑い出す。
それにムッとしたらしいレオンは、まるで手にある宝物を誰にも取られないように、ギュムッとリーフを抱きしめたまま、さっさとその場を去って行った。
すると一瞬で空から降り注ぐ花達は消え去り、元の日常が一気に戻ってくると、呆然と立ち尽くしていた学院長は正気に戻り、ゴホンッと咳払いをする。
「じゅ、受験生達は次の試験会場へ向かってくれ……。」
力なくそう言うと、他の教員たちと共にその場を去っていった。
「「「「…………。」」」」
教員達が移動してしまい、やっとこの夢の様な出来事から現実へと戻ってきた俺達受験生達は、お互い顔を見合わせる。
そして一人、また一人と動き出し、教員達に続いて次の会場へと向かい始めた。




