289 英雄< レオンハルト >
( リーフ )
「 よ〜し!レオン、それにしよう!
< 着火 >を使うだけで80点もらえるから、指定された場所に立ってそれを使うんだよ。 」
俺が指定されている立ち位置を指差しそう言うと、レオンは、う〜んと考え込む様子を見せる。
「 直線上に山がありますがどうしますか? 」
「 えっ?山?? 」
何々〜?
” この後、山にピクニックに行きませんか? ” って?
こんな試験のタイミングで?と思うかもしれないが、なんてったってレオンは、俺が崖からツルッと滑って落ちた時もスイ〜と空中で寄ってきて、拾ったキラキラ石を渡してきた事だってある。
この程度の事は日常茶飯事!
「 行く行く〜!お弁当もってこうね! 」
「 ……なるほど、分かりました。
これくらいならコントロールできそうです。 」
俺が普通にお誘いに乗ると、レオンはブツブツと呟きながら、所定の位置へと立つ。
周りで漂う緊張した空気は、レオンが大人しくフラン学院長の提案を飲んだ事でいくらか緩和され、教員達もあからさまにほっと胸を撫で下ろしている様だ。
これでレオンが< 着火 >を使い指にポポンッと火を灯せば試験は無事終了。
モルトとニールはこれから泊まる宿のご飯について話し始めたし、他の面々も定期的に出発している馬車の時間について話している。
そんな日常的な雰囲気が戻ってきたところで、フラン学院長の────「 始めっ! 」という合図が上がった。
その瞬間────……
────ピッ……!
" 的 " に向けたレオンの人差し指から、見えないくらいの細い糸??のようなものが一瞬見えたと思ったら、それからだいぶ遅れて、ドドドドンッ!!!!という凄まじい轟音と共に ” 的 ” に向かって────大きな ” 道 ” が出来た。
「 ────……は……??? 」
ポカーン……としながら、突然目の前にできた " 道 " をただ見つめる。
真っ黒に焼け焦げ、ところどころから火が上がっている道。
勿論 ” 的 ” などは跡形もなく消し去り、更にこの魔法術場など軽く越え学院の敷地外、森の遥か遠くまで続いている様子。
パチパチとその爆発?の余波か、細かい火の粉が空から雨の様に降り注ぎ、誰も彼もが言葉を失い立ち尽くす中、炎の道を前に平然な様子で立つレオンを見て……俺は改めて思い知らされた。
これが英雄レオンハルト……世界を裁定する者かと。
本来攻撃性皆無、ましてや ” 飛ぶ ” という概念を持たないはずの< 着火 >で ” 道 ” ができてしまった事。
それを遅れて理解したその場の人達は揃って顔色を失い、フラン学院長も顔色は真っ白。
そのままその光景を凝視しながらヘナヘナ……と尻もちをつき、他の教員や受験生達も「 ヒッ......! 」と悲鳴を上げ膝から崩れ落ちていった。
俺も油断していたところに度肝を抜かれ、その場にしゃがみ込もうとしたが、いつの間に移動したのか、直ぐ目の前にいたレオンに腰を掴まれそのままヒョイッと抱っこされてしまう。
「 ……??疲れたのですか? 」
そう言いながら、スッスッと猿の毛づくろいの様に背中を撫でる……いや、やっぱり削るが正しい表現であろう激しい上下運動をしながらそう尋ねてきた。
「 だ ……大丈夫、大丈夫〜。 」
全然疲れてなかったため、首を振って答えると、またしてもゴリッゴリと頭皮を揉み込んでくる!
頭皮はやめて〜!!
すぐそこに見える恐ろしい未来に怯えながら、俺は確信した。
レオンは早急に手加減というものを学ぶ必要がある。
この魔法しかり、何より俺の髪の毛の未来のために!
「 うん、うん。心配してくれてありがとう。
────で、それは置いておいて……レオン少年よ。
俺は強い、一番は俺、レオンは二番……それは分かっているかな〜? 」
「 ?はい。勿論です。
俺は一番になれない。リーフ様が一番、俺が二番。
だからはずっと傍に置いてくれる……そういう事ですよね? 」
そうそう。俺は一番。
そして自分より下の人を奴隷として傍に置く暴君である。
正しい認識で何一つ間違いないので、俺は満足気にうんうんと頷いた。
「 そうそう、その通り!
しか〜し!俺はあんな魔法は使わない。何故か分かるかな〜? 」
ピッ!と俺はまっ黒焦げな道を指差しそう言うと、レオンはうう〜ん??と考え込む様子を見せる。
「 ……火がお気に召さないから……ですか? 」
「 ぶっぶ────!!レオン、不正解!
俺ほどの実力者は手加減しないと、ああやって自然破壊をおこしてしまうからだよ。
あれでは山にピクニックに来た人達が悲しい思いをするし、美味しいキノコや木の実も焼けてしまって食べられない。
あれは駄目だね。景色台無し。 」
レオンはガガ〜ン!!とショックを受けた顔をした後、慌てて俺に謝罪を述べる。
「 申し訳ありませんでした。
確かにピクニックの際の景色の事まで考えが及びませんでした。
極限まで威力を弱めたのですが……。
俺はもっと手加減を学ばなければいけません。
リーフ様がピクニックを謳歌するために……! 」
「 そうそう、俺がピクニックを最大限に楽しむために……え?手加減してたの?
極限まで?? 」
一応手加減はしていたらしい、しかも極限に。
” 着火 ” でかつ極限まで手加減してこれか……。
焼かれて丸ハゲになってしまった黒い道を見つめる俺に、レオンは続けて言った。
「 はい。リーフ様がお弁当を持っていくから山を残せとおっしゃったので、それだけは何とか……。
……手加減は難しいですね。 」
心底困った……という様子を見せるレオン。
黒き道の先、目を細め、じ〜っと見つめれば確かにその道は遠く離れた場所にある、大きめな山の前で止まっている様であった。
お弁当?ピクニック??
……あ、俺言った。行く行く〜とかノリノリで。




