265 ジュワンと騎士について
( リーフ )
「 この程度で震えて剣も握れないなんて新人以下……いえ、受験生以下ですよ〜?
まぁ、実際受験生に負けるような恥ずかしい低能もいましたが?
恥ってものを知らないんでしょうね、流石は底辺民! 」
その声の主は先ほど騒ぎを起こしたジュワンであった。
彼は心底嘆かわしいと言わんばかりにため息をつきながらそう言い放ち、教員達は全員そんなジュワンを睨みつける。
「 ……口が過ぎるぞ、ジュワン。 」
フラン学院長もギロッとジュワンを睨みながら、その発言を窘めたが、言われた本人はどこ吹く風でそのまま話を続ける。
「 アーサー様がいくら ” 実力があれば〜 ” などと言っても平民や貴族の末端に引っかかっている者の実力など所詮この程度。
ここにいる教員達が身体を張ってそれを証明してくれているわけです。
受験生の皆さん、良かったですね〜?
この世の真実を早めに学ぶことが出来て! 」
ジュワンはパチパチと拍手をしながら周りにいる受験生達を見回し、もう一度、はぁ〜……とため息を吐く。
「 現実が見えていない愚か者が多いこと、多いこと…………
生まれた瞬間から決定的な差があるのに、” 努力すれば〜 ” とか? ” いつかきっと〜 ” とか?
そういう希望を見せて最後はそこから容赦なく叩き落とすーーー全国の中学院でしている " 教育 " は正にそれですよ。
最初からその生まれに、才能に相応しい教育をすれば未来は明るいというのに……
そう思いませんか? 」
「 ジュワンっ!!貴様っ……!! 」
フラン学院長や他の教員達の表情は一気に険しいものとなり、周囲にはピリピリした雰囲気が漂ったがーーーーフラン学院長は直ぐにそれを引っ込めた。
恐らくは個人の怒りより、今は試験に集中するべきと考えたのだろう。
そしてフラン学院長は、怯えや恐怖を精一杯隠しながらレオンに視線を向けると、そのまま口を開く。
「 待たせてしまい大変申し訳なかった。
レオン殿についての剣体術の試験だが、どうか追加の座学の試験とさせてもらえないだろうか?
その際、どんなに点数が低くとも50点は補償点として与えよう。
どうだろうか? 」
つまりテストの点が例え0点でも50点を加点してもらえると……
これは平均点が20点と考えるなら破格の待遇と言えよう。
本当はレオンの凄いところを見せて皆に好印象を与えたかったが、教員さん達に無理をさせてまでそれをするつもりはない。
俺はその事を納得してもらおうと、一切話を聞いていないレオンにもう一度イチから説明しようとしたその瞬間ーーーー
「 …………は? 」
というジュワンの声にその行動を止められた。
「 いやいや、何を仰ってるのですか?
奴隷、しかもそんな化け物にいつまで試験を受けさせるつもりなんですか? 」
ジュワンは隠す事なく侮蔑的な目でレオンをギロリと睨み、続けて青ざめているフラン学院長を鼻で笑う。
「 そういう事態を防ぐためにエドワード様は私のような真の実力と正しい知識をもつ者達を、全国の中学院に教員として派遣されているわけです。
……全く嫌になりますよ。
右を見ても左を見ても低能の臆病者ばかり、回るのは口だけですか〜?
ーーーーおいっ、そこの化け物!! 」
ジュワンは突如レオンに向かって指をさした。
「 貴様の剣体術の試験は私自ら担当してやろう。
ただし、特別ルールだ。
どちらかが死ぬまで勝負はつかない。
更に私が勝ったらその時点で試験は不合格〜。
はい、さ〜よ〜う〜な〜ら〜。 」
完全に見下したような表情、更に手をヒラヒラしながらそう言い放つジュワンに完全に頭にきた俺は、ズイズイッと3歩くらい前に出る。
「 君っ!さっきから黙って聞いていれば、その言い方はなんなんだい!
うちのレオンはお前なんかには負けないぞ!!
レオンが勝ったら100点にしろっ!!それなら受けてたつ!! 」
怒りを全身で表現しながらそう伝えれば、ジュワンはまるで駄々をこねる子供を叱りつけるように俺に言った。
「 これはこれはリーフ様。
そのような醜い化け物を奴隷として連れ回すなどカール様やマリナ様に対して失礼だとは思わないのですか?
それを少しでも悔いる気持ちがあるなら直ぐに見た目麗しい奴隷に変えるべきです。
ーーーまぁ・・どうせこの後、直ぐに…………。 」
最後は何やら含みのある言葉をボソボソと言ってクックックッと笑っていたが、そんなことはどうでもいい。
とにかくレオンの試験の事が今は一番大事!
俺は更に怒りを隠さずジュワンに食いついた。
「 答えになってないよ!
レオンが勝ったら100点だ!いいね!? 」
「 あ〜……はいはい。いいですよ、それで。
どうせその化け物が勝つなど絶対にありえない事ですので〜。 」
固唾を飲んでその展開を見守っている受験生達と教員達の中、俺は、よ〜し!言質を取ったぞ!とガッツポーズをする。
しかし、そんな俺に待ったをかけたのはフラン学院長であった。
「 リーフ殿、それは辞めておいたほうがいい。
そのジュワンは性格こそ難しかないような男だが、剣術の実力だけならA級騎士に匹敵する。
正直ここにいる教員達総出で掛かったところで剣のみの純粋な勝負では勝てん。
ここは怒りを飲み込み、座学の追加試験を受けたほうが良いだろう。 」
この国の最高戦力【 アルバード騎士団 】
第一、第二と隊が別れているこの騎士団だが、その階級は一律で決められていて、その昇格試験はその所属する隊に関係なく行われる。
その階級は4つ。
高い準に【 S級、A級、B級、C級 】と決められていて、
S級はそれこそA級のモンスターでもソロで倒してしまうほどの化け物級の実力者。
A級は部隊長レベルの実力者で、B級は一般団員レベル。
そしてC級は騎士の見習いレベルとされている。
勿論まずこの騎士に受かること自体が凄い事なので、たとえ見習いとはいえ騎士というだけで一般兵士とは比べ物にならない実力をもっているのを考えると、そんな猛者達をまとめ上げる部隊長レベルのA級は、間違いなく化け物級の強さのはず。
これは流石のレオンも苦戦するかもしれないな……。




