261 大人の事情と子供達
( リーフ )
「ジュワンっ!!!!貴様いい加減にしろっ!!!!」
フラン学院長の、思わず震え上がってしまうほどの怒号が鳴り響き、空気がビリビリと震えたが……それを受けたジュワンはどこ吹く風。
全く堪えている様子には見えず、それどころかハンカチで口元を押さえ不快であるというパフォーマンスまでしている。
普通の人族の子供なら、即死するほどの攻撃を受けたレイド。
俺は一旦怒りを抑え、直ぐにレイドの場所まで飛んだ。
「レイド、大丈夫?」
慌てて声をかけたが、流石は獣人。
満身創痍ながらもちゃんと意識はあるようで、顎を押さえながらヨロヨロと立ち上がる。
「発動。」
レイドがボソッと呟くと、耳に取り付けていたピアス型の< 仮想幻石 >は砕け散り、全くの無傷な状態のレイドが姿を現した。
< 仮想幻石 >の使い方は2つ。
1つは致命傷を受け、死後自動発動させるやり方と、もう1つは今レイドがやったように『発動』というキーワードで、強制的に発動させるやり方の2つだ。
「くっそ〜、負けちまった!俺、悔しい!!」
その場で地団駄を踏み怒りを表現するレイドに、俺は、おぉっ!と素直に感心した。
流石は戦闘種族、負けて悔しいが先にでるとは……。
身体だけではなくメンタルも強〜い!
レイドは全然大丈夫そうなので、次に俺は青いフードのお嬢さんの方へ視線を移す。
その子の事は近くにいたソフィアちゃんがいち早く駆けつけ回復魔法を掛けていたようだったので、こっちも大丈夫そう。
あくまで外見はだが……。
とりあえず今は普通に立てるようになっているけど、ちょっとビックリしてショックを受けているかも!
オロオロと心配する俺の横で、レイドはギッ!!とジュワンを睨みつけた後、俺の背中を軽く叩く。
「心配してくれてサンキュー!
あの野郎、次は負けねぇからな!」
そう俺に告げ、レイドはそのお嬢さんの方へと走っていった。
俺も一緒に……と足を踏み出そうとすると────……。
「ん〜……あの青いフードの女の子はぁ〜……<メル>っていう名前で、身分は平民の【ペンギン】の獣人ちゃんですね〜。
ペンギンってぇ〜戦闘系の獣人じゃないので、もしかして心折れちゃったんじゃないかな〜?
ジュワン先生は、こうやって毎年、平民や他種族の受験生達を勝手にふるいにかけているみたいでーす。」
「…………。」
また出た…………。
俺は、顎に手を当て隣でチョコンとしゃがみ込んでいるサイモンを見下ろす。
……瞬間移動のスキルでも持ってる??
そんな事を考えながらも、俺はその得た情報で全てに納得がいった。
ジュワンは爵位が貴族の子には正当に試験を受けさせ、爵位が平民の者や他種族の子にはわざと評価を下げるような戦いをさせていた様だ。
未来ある若者になんてことをするんだ!とプンスカ怒っていると、俺の怒りを代弁するかの様に、フラン学院長は更にジュワンを激しく怒鳴りつける。
「貴様がやっている事は才能に溢れる若者の未来を潰す行為であると理解しておるのかっ!!
試験官はこの場で交代だ。
下がれ。愚か者がっ!!」
それに対し、ジュワンは面白くない様子でチッと舌打ちし、「…………風情が……。」と何らかの悪口?らしきものを言った後、わざとらしく大きなため息を吐いた。
「はいはい。 ” 学院長様 ” のご命令とあらば従わないわけにはいきませんね〜。
……ですが、私は何も間違ったことはしておりません。
この【 ライトノア学院 】は才能があり、かつそれに相応しい立場を持つ者達のみ学ぶことが許される神聖な学び舎です。
私は教員を任された者として正当にそのジャッチをしているだけですよ。
────それとフラン様、私が第一王子< エドワード >様のご指示の元、ここにいる事をどうかお忘れなく……。」
最後はニヤッと嫌な笑みを浮かべ、下がったジュワン。
正直ぶん殴ってやりたかったが、とりあえずはこれで皆安心して試験を受けれる様になったようなので、その怒りを一旦収める。
そして、今度こそ俺はレイドを追いかけ、【ペンギン】の獣人<メル>ちゃんのところへ向かった。
「お〜い。大丈夫だったかい?」
声をかけながら駆け寄ると、そこにはピンピンした様子の<メル>ちゃんの姿がある。
表情は乏しくその心情は分からないが、とりあえず頷いてくれたので大丈夫な様だ。
ホッと胸を撫で下ろしていると、レイドはハハッ〜と笑いながら、心配になるくらいの強さでメルちゃんの背中を叩いた。
「メルは丈夫だから大丈夫だぜ〜!」
あっけらかんとそう言ったレイドの言葉を聞き、メルちゃんは視線を下に下げたので、もしかしてまだ攻撃されたところが痛いのかな?と思ったが……。
「……次は負けない……悔しい……ぶっ倒す……。」
そう言い放ち、退場していくジュワンをジロッ!と睨んだ。
全然めげてな〜い!
【ペンギン】の獣人さんは戦闘向きではないとの事だったので、ショックを受けているのでは?と一瞬でも思った自分を恥じる。
この子は小さくたって立派な戦士!
これから俺達は共に切磋琢磨する仲間兼、競い合うライバルだ!
「君は強いね。俺、リーフ、これからよろしく。
俺もめちゃくちゃ強いから、君には負けないよ〜。
これから学院生活楽しみだね。」
そう言った瞬間、メルちゃんは勢いよく頭を上げて、まんまるお目々で俺をジッと見上げてきた。




