254 人は見かけで判断してはいけない
( リーフ )
「 も────!!!この牛パイ女!!
僕の出会いの演出邪魔しないでよっ!!!
せっかく玉の輿ゲットイベントが発生しそうだったのにっ……どぉしてくれるんだ!!
バカっ────!!! 」
その勢いと変わりように、レオン以外の俺、モルト、ニールが固まると、ハッ!!とした彼女は顎に手を当て、キュルルン♡と涙で光る瞳をこちらに向けた。
「 ……っていうぅ〜セリフの演劇を最近見たんですぅ〜。
どうでした〜?いい雰囲気でてましたかぁ?
将来は、舞台もできるアイドルを目指したいなって思ってるんですけどぉ〜。 」
そういってキャピピ〜ッ☆と笑う姿に、直ぐに立ち直ったモルトとニールが素早くレオンの後ろから出てきて跪く。
「「 アイドルになったら、是非応援させてください。 」」
キリッとした表情で言い放ち、それを聞いた彼女は重ねた両手を頬につけ首を横に傾けた。
「 や〜ん♡ありがとうございますぅ〜♡ 」
そして輝く様な可愛い笑顔を見せた彼女だったが、またしてもセクシー少女はその頭をパシーン!!と叩く。
「 これ以上身内の恥を晒さないで。
” 兄さん ” 」
その瞬間デレデレだったモルトとニールが、石のように固まった。
「 に……兄さん??? 」
再び頭にクエスチョンマークが浮かんだ俺と固まったモルトとニールに対し、そのセクシー少女はペコッと頭を下げる。
・
「 兄が御迷惑をお掛けして申し訳有りません。
私は< リリア >
そして兄さんは< サイモン >と申します。
双子の兄妹で、共に【 エルフ族 】です。
初めてこんなにも沢山の【 人族 】を見てつい気分が高揚してしまった様で……どうかお許しを。 」
神妙な顔で謝るリリアちゃんに、むぅ〜とムクれている少女……ではなく少年のサイモン。
なんと彼らはエルフ族!
確かによく見るとお耳が長く、その顕著な特徴を持っている。
「 全く気にしてないよ〜。」
俺がそう伝えると、リリアちゃんはホッと息を吐き出したが、元凶のサイモンは頬を大きく膨らませた。
「 玉の輿チャンスがぁぁ〜。 」
「 最初の大事な出会いイベントなのにぃ〜! 」
ひたすらブチブチ文句を言うサイモンを見て、リリアちゃんは大きなため息をつくと、全く動こうとしないサイモンの首根っこを掴む。
「 ────では、失礼します。 」
「 なにすんのぉ!は〜な〜し〜てぇぇ! 」
そしてそのままギャーギャーと喚くサイモンを、無理やり引きずってその場を離れていった。
「 ……なんだか嵐の様な出会いだったな。 」
小さくなっていく二人を見送りながら、何だか初めて接触したエルフ族の印象が濃すぎて、" うさちゃんのお耳〜 ! " とか " 見た目が麗し〜☆ " とか、そういった世間一般的に言われている特徴に全く目がいかなくて、少し残念な気持ちになってしまった。
その後直ぐに俺は、突然の人との接触に驚いてムッとしているレオンの頬を両手で撫でて落ち着かせ、立ったまま気絶しているモルトとニールをくすぐって起こす。
そうして、試験が始まるまでここで待機する事にしたのだが、集まり始めた受験生達の中に、ソフィアちゃんとアゼリアちゃんの姿が見えたので視線を向けた。
「 二人も着替えてきたのか。
────ん?後ろの二人は……確か……。 」
ソフィアちゃんとアゼリアちゃんの後から続いてやってきたのは、あの大司教の娘さんであるというジェニファーちゃんと、後ろで控えていた男の子だ。
ソフィアちゃん達が、ザ・貴族的なヒラヒラフリルの白いシャツに下が黒いズボンという、動きやすい服装に変わっていたのと比べ、ジェニファーちゃんは、先程と変わらぬ真っ赤なドレスにキンキラキンの装飾品をつけてのご登場だった。
後ろで控えている男の子もジェニファーちゃん同様、カッコいい装飾品や刺繍が入ったワイン色のジャケットにところどころフリルという、貴族のお出かけスタイルで、とにかくこの二人が目立つ目立つ。
「 ────ほほ〜ぅ?さてはこの二人、戦闘に相当の自信があるとみた! 」
ワクワクした気持ちでジェニファーちゃん達の方を見ていると、男の子の方がフッと殺気のこもった目をソフィアちゃん……ではなく、アゼリアちゃんの方へ一瞬向けたのが見えた。
先ほどもそうであったが、あの男の子はアゼリアちゃんに対し何やら思う所がある様に思える。
「 う、う〜ん……?? 」
その事を疑問に思いながら、男の子とアゼリアちゃんを交互に見ていると、更に、あれ?とある事に気づいた。
その男の子とアゼリアちゃん、何だか似ている気がする。
マリオンみたいに性格や雰囲気が、というわけではなく、単純に外見がと言う意味で。
そう思いながら二人の横顔を見比べ、やっぱり似てる!と確信する。
もしかしたら親戚とか……?
後で聞いてみよう。
男の子の睨む様な視線はその一瞬だけで、その後は完全にアゼリアちゃんから視線を逸らし離れた場所へ行ってしまったので、その事は一旦頭の隅に置いておいた。
その直後────……。
────リンゴ〜ン!!ゴロンゴロ〜ン。
筆記の試験時にも聞いた低い鐘の音が闘技場に鳴り響き、それと同時に入り口のほうから、ゾロゾロと20人程ほどの教員らしき男女が続いて入って来るのが見えた。
「 お?沢山入ってきた!
もしかして学院の先生達かな? 」
そう予想したのだが……先頭を歩く人物はどう見ても成人前の小さな女の子だったので、頭の上に大きなハテナマークが浮かぶ。
薄いピンク色の長い髪を一本の三編みにしているその女の子は、くりっとした丸いお目々と小さい背丈から、外見だけ見れば可愛らしいテディベアをイメージさせた。
しかし────背筋がヒヤッとするような威厳を感じる子で、” 可愛い ” というイメージが見事に吹き飛ぶ。
「 ?あの子は誰なんだろう?? 」
俺だけではなく、周りも ” 誰だろう? ” と困惑している中、その小さな女の子をセンターに全員がズラリと横並びに並び、教員らしき者達全員が一糸乱れぬ動きで休めの体制をとる。
するとその直後、センターの女の子が一歩前に進み出て、俺達に向かって話し始めた。
「 受験生たちよ、私はこの【 ライトノア学院 】の学院長 < フラン >。
これより午後の第一実技試験、< 剣体術 >の試験を開始する。 」
おおおおお??!!
あの小さな女の子が学院長!
「 ほ、ほぇ〜……。 」
その事実に非常に驚いたが、周りにちらほらいる多種族達を見て、もしかして……とある可能性を考える。
あの女の子、もしかしたら【 ドワーフ族 】?
そう考え込んでいる間にも、フランさんの話は続き、この試験についての説明が始まった。
「 これより5つのリングを使って、後ろにいる教員達と同時に一対一の模擬戦を行ってもらう。
制限時間は5分間。
剣または体術で戦い、スキルは使用禁止。
純粋な身体強化のみ使用可とし、諸君らの戦いを、私を含めた5人の審査員が一人20点として合計100点満点として点数をつける。
なお、< 仮想幻石 >レベル1の装用を許可するので、安心して試験に挑むが良い。 」
フランさんの説明が終わった後、他の教員達が、最初に試験を受ける受験生の名前を読み上げようとしたその時────……。
「 その前に、1つ申し上げたい事がございます。 」
ある人物が静かに挙手し、フラン学院長に発言の許可を申請した。




