242 グリモア到着!
( リーフ )
グリモアは大都会である王都よりは小さいとはいえ、それに次ぐ広さと防衛力を誇る巨大要塞街のような作りをしている。
元々がダンジョン多き樹海のような森に同化する形で建てられている街のため、防壁がまず段違いでご立派。
まさにそびえ立つ壁という表現が相応しい高く頑丈な防壁は街全体をぐるりと覆っており、更にその上からモンスターよけの結界がこれでもかと掛けられている。
その中にある街は、レガーノが何個入るかな?と言うくらいの広さがあり、区域ごとに分けられているのだが、その一つ一つが巨大な街と言えるほどの広さを持つのだから、その広さは圧巻の一言だ。
まず街のど真ん中にドドーンと塔の様に建っているのが< イシュル教会 >で、そこを中心に円形に存在している区域が【 イシュル教会区域 】
そして、俺達が今いる正面外門を中心とした区域は、街を守護する< 守備隊 >の区域で【 守備隊区域 】
東門を中心とした区域は、この街の< 冒険者ギルド >が担当している【 冒険者区域 】で、西門を中心とするのは< 傭兵ギルド >が担当している【 傭兵区域 】
そして、その間を埋めるように、人が住んだり、色々なお店が立ち並ぶ【 居住区域 】と【 商業区域 】が存在している。
ちなみに、俺達がこれから向かう< ライトノア学院 >は、その正面外門から正反対にある南門区域を担当しており【 教育機関区域 】と呼ばれているのだ。
もしも何かしらの有事の際は、その中心となっているそれぞれの機関が最寄りの門を守る手はずになっているらしい。
「 おおお〜……。」
俺は目の前にドド──ン!!と建つ巨大な正面門を前に、その大きさに圧倒され、思わずお上りさん状態でそれを見上げた。
門は左右に開くタイプのごつくて分厚い鉄の扉で、そのセンターに上半身だけのイシュル神様の彫刻、そしてその周りを剣の彫刻が取り囲んでいる装飾が施されている。
その門に向かって、既に沢山の人や馬車の行列が出来ていて、何だろう?と思ってジーッと観察していると、どうやらその正門にて< 守備隊 >による検問みたいなモノが行われている様だ。
それを突破した者のみが、中に入れてもらえるのか……。
無事それを終えた人達が門の中に入っていくのを見て、自分も並ぶか〜と思いきや、高級馬車に乗っている俺達とソフィアちゃん達はなんと顔パスで先に通過してしまった。
詳しい原理はよく分からないが、なんとこの高級馬車は乗る前に乗車する人の個人認証が記憶されていて、それが合っていれば何の取り調べもなく中へ入れるのだという。
異世界式リムジンがスゴすぎる!
そのハイパー性能に驚きながら街の中に入ると、俺達は更に驚かさせる事となる。
まず初めに驚いたのは活気あふれる街中の様子と歩く人々の多さ、そして────……。
「 あ!あれ、獣人族っす!! 」
「 うむ、あっちにはエルフ族に……ドワーフ族までいるぞ!
教科書で見たとおりだ! 」
ニールに続き、いつもは割と静かなモルトまで騒ぎ出す。
ここ< グリモア >はモンスターの多さ、そして街の広さからも人族だけではなく他種族も仕事の関係上ここに暮している人が多くいる。
更にはここアルバード王国の中学院は、他の国の中学院に比べて学ぶことに多様性があり、べらぼうに人気が高いため、意欲が高い他種族の若者達がこぞって受験しにくるのだ。
その結果、勿論街中で他種族の人達の姿も沢山見られるという事だ。
俺もモルトとニールに続き、キョロキョロと辺りを見回しながら、初めて見る他種族にとても感動した。
異文化コミュニケーションだ!
俺ジェスチャー得意〜!任せて任せて!
ワクワクしながらジェスチャーの練習をする俺を、上機嫌のレオンが見守る。
そうしてそのまま、あっという間に目的地【 ライトノア学院 】にたどり着くと、学院のあまりの大きさに、俺とモルトと二ールの三人はめちゃくちゃビビる。
「 ……これ街なんじゃ? 」
「 ……なんと、随分と広い敷地ですね。 」
「 真ん中に立っているのが、メインの建物っすかね? 」
とにかく信じられない程の広〜い敷地に、真ん中には宮殿のような白い建物が建っている。
恐らくは、あれが学院の学び舎の様だ。
圧倒される俺とモルト、ニールをよそに、正門と思われる門から馬車は入っていき、その宮殿のような建物近くで、俺とレオンはあげ玉から、そしてモルト、ニール、そしてソフィアちゃんとアゼリアちゃんはそれぞれの馬車から降りた。
馬は専用の馬シッターさんなる人が試験終了まで見てくれるらしく、御者さんと聖兵士さんたちは待機室にて試験終了まで過ごすそうだ。
問題はあげ玉だが、流石はプロ……直ぐに座布団くらいの大きさのさやえんどうを持ってきて馬をジロジロ睨みつけているあげ玉に見せると、あげ玉は「 クピャ────!!! 」と奇声を発し、そのシッターさんに上機嫌でついていった。
「 ……シッターさん、あげ玉をどうぞよろしくお願いします。」
両手を合わせてお願いした後は、俺は馬車から出てきたソフィアちゃんとアゼリアちゃんに駆け寄った。
「 無事につけて何よりだよ。二人共大丈夫だった? 」
「 はい。お陰様で無事ここまでたどり着く事が出来ました。
改めてお礼を言わせてください。
皆様ありがとうございます。 」
俺やレオン、そしてモルトとニールにもしっかりと視線を向けながらお礼を告げるソフィアちゃんに、俺はおぉ〜ととても感心していた。
背筋を伸ばし凛としたその姿はとても凛々しく、まさに人の上に立つ王族!というオーラがビンビンと伝わる。
しかし、爵位などにこだわらずキチンと相手にお礼を言ってくれるし、先ほどはしっかりとアゼリアちゃんを窘め自身の意見をしっかりと伝えたりと、そんな姿は人として尊敬できる姿だと思う。
────が……?
「 ……う〜ん…………? 」
俺の心には、なんともモヤモヤとしたものが残る。
ソフィアちゃんの性格が云々ではなく、どうしても今目の前にいる彼女と物語の中の彼女が一致しないからだ。
物語の中のソフィアちゃんは、全く相反する兄二人に囲まれ自身の意見を出すのが苦手な女の子であった。
そのためレオンハルトとの旅の中でもその性格は顕著に出ていて、話しかけたくても出来ない、駄目だと思ってもそれを人に言えない……と、常に悶々と心の中で葛藤し続け、最後までそれは変わる事はなかった。
俺はそういう姿にやきもきしながら ” 頑張れー!頑張れー! ” と応援しながら見ていたわけだが、今、目の前にいるソフィアちゃんは、それとは真逆。
確固たる自身の意見を持ち、それをしっかり人に伝えているし、おどおどした感じは皆無だ。
「 ???? 」
頭をグィ〜と傾け、その不思議について考えたが、さっぱり何故かが分からない。
それどころか、更にもう一つ。
同じ年ということを知って浮かび上がった1つの違和感────……。
” 物語の中でそもそも同じ高学院にソフィアちゃんは通っていたのか? ”
俺はポケ〜と突っ立っているレオンを、チラッと見た。
高学院は現在、王都にある【 セントレイス高学院 】のみ。
つまりこの国の第一王女である彼女は当然ここに通うはずだが、そんな一国の王女が同じ学院に通っているのに、権力大好き!美しいもの大好き〜なリーフが全くの無視……などありえるのだろうか?
なんだかおかしい気がするなぁ……?
考えれば考えるほど腑に落ちなくて、大きく首を傾げた。
そしてレオンから視線を逸らしてソフィアちゃんを見ると、突然ピンっ!とレオンのセクハラセンサーの気配を察知して、直ぐにレオンの方へ視線をを戻す。
そしてムッとしているレオンを見て思い出すのは、レオンと初めて出会った日の事だ。
────あ、もしかしてソフィアちゃんもデビューしちゃった?
高学院デビュー的なやつ。
下僕デビュー、更には奴隷デビューまで果たし、最終的には狂った神になったレオンを見て、とりあえずは納得した。




