240 いいんだ、いいんだ
( リーフ )
「 …………。 」
そうしてそのままギュムギュムと締め上げてくるレオンと、それを無の表情で迎え撃つ俺……。
そんな俺達に対し、アゼリアちゃんが突然怒号をあげた。
「 おいっ!!貴様いい加減にしろっ!!
先ほどから見ておれば、奴隷ごときが公爵家ご子息になんたる仕打ちっ…………到底看過できるものではないぞ!! 」
アゼリアちゃんはビシッ!とレオンを指差し睨みつけると、そのまま怒鳴り続ける。
「 リーフ様、その様な無礼千万な奴隷は、即刻首を撥ねるべきです!!
先ほどは運良くノーフェイス・ネオウルフを討ち取ったようですが、それも本当かどうか……。
大方、元より弱っていたところを卑怯な手段で打ち取ったのでしょう!
そもそも妙な気配に、そのような顔が隠れるようなフードを被って怪しいことこの上ない。」
キャンキャンとレオンに噛みつくその姿は、必死に周りを警戒しているチワワを思い出させる。
なんだろう……。
子猫のマリオン、そしてマルチーズにそっくりのイザベルといい、レオンにじゃれついてくるのは、皆そういうワンワン属性を持った人たちなの??
不思議だな〜と痛みに耐えながら呑気に思っていると、そこで、はっ!!とした。
じゃれつくのは良いが、今この場にはヒロイン……かつ未来のレオンのお嫁さん最有力候補のソフィアちゃんがいる!
こんなDVすれすれの場面を見てしまえば、将来の幸せな家庭像は浮かばず、レオンの好感度はだだ下がりだ!
し、し、しまった〜!!
俺は慌てながら、今すぐレオンのイメージ回復を図るため俺は行動を起こす。
「 ふっふっふっ……落ち着くんだアゼリアちゃん。
君は、この俺の ” 忠実なる奴隷のレオン ” が俺を締め上げ暴力を振るっていると思っている。
……そうだね? 」
俺はレオンに締め上げられた状態のまま、そう尋ねた。
すると、アゼリアちゃんは自信満々に大きく頷く。
「 はいっ!!どこからどう見ても、それに間違いはございません!!
宜しければ、私が今すぐにでもそれを片付けましょう。 」
チャキリと刀に手を掛けるアゼリアちゃんに、俺は待ったを掛け、ソフィアちゃんにもちゃんと聞こえるような大声で叫んだ。
「 それは大いなる誤解だ!
何故なら主人であるこのリーフ様が、忠実なる我が奴隷レオンにこの行為を命じているからなのだよ!
俺はこうされるのが大好き、だからなんの問題もありはしない!
心配してくれてどうもありがとう。 」
そう宣言した瞬間、ソフィアちゃん、アゼリアちゃん、その他聖兵士の皆さん達は目を見開いて固まり、モルトとニールからは生暖かい目が送られる。
そしてそれと反比例する形でレオンはパァァァ────!!!と、それはそれは嬉しそうな顔をして俺をより一層締め付ける。
いいんだ、いいんだ。
俺は憧れのヒーローの世間体が無事ならそれでいいんだ。
たとえ俺が奴隷に命じて痛いことをしてもらうのが大好きな変態だと思われようとも、レオンの幸せの為なら本望。
" 人知れず人助け " は、のっぽおじさんの大事な使命だからどうか気にしないでほしい。
そうしてすっかり大人しくなったアゼリアちゃんと、慈愛の微笑みを向けてくるソフィアちゃんは自前の馬車へ。
モルトとニールは引き続きキラキラ馬車に。
そして聖兵士さん達は自身の乗ってきた馬に乗り護衛をしながら目的地< グリモア >に向かう事になった。
俺とレオンは、まぁ、何かあった時に動きやすいし……とあげ玉に乗る事にしたのだが、先ほどのあげ玉の戦いっぷりを見ていた聖兵士さん達は、訝しげにあげ玉を見つめてくる。
「 ……これは本当にポッポ鳥なんですか?? 」
「 乗れるやつですか? 」
そして口々に質問してきたため、俺はきっぱりと「 ポッポ鳥です。乗れます。 」と答えると、顎が外れるくらいに驚いていた。
うんうん、分かる分かる〜。
俺もこんな好戦的なポッポ鳥見たことないよ。
そう思いながらあげ玉に目を向けると、今度はソフィアちゃん達が乗る馬車の馬2頭に対し、「 クペェ〜?? 」とガンをつけながら逃げる馬の顔を追いかけ回す姿が……。
もうため息しかでない!
俺はそんなあげ玉のクチバシを掴み、再度モニモニと揉み込んでやれば、今度はレオンがあげ玉の前に顔を出そうとするしで、俺はもう一度、はぁ……とため息をつき、レオンと共にあげ玉に乗りこんだ。




