235 戦闘後にて
( リーフ )
「 ……な……な……なななっ……。 」
「 ……はっ……?……へ……へっ?? 」
顎が外れそうなくらい口を開け言葉もでない兵士達を尻目に、座布団みたいなピンクハート型の花びら?と、野球ボールくらいのダイヤモンドみたいな固まりを持ったレオンがその首の上にスタッと着地した。
そして俺の姿を確認すると直ぐにこちらへと降りて来て、ダイヤモンドみたいな塊を花びらの上にチョンっと乗せ差し出してきた。
どうやらそれは、この首だけになったノーフェイス・ネオウルフの瘴核らしい。
そしてピンクの花びらは、きっとそこらへんに生えていた花から毟ってきたにちがいない。
キラキラと眩い光を放つそれと、ご機嫌なレオンを交互に見つめながら密かにため息をついた。
レオンはちょっと珍しい物を発見し俺に渡す時、基本はニールから貰った金ピカのお皿を使う。
しかし、それが手元に無い時はこうしてそこらへんに生えているきれいな花びらや葉っぱの上にそれを置き、俺に献上しようとしてくるのだ。
気分はまるで、いたいけな子供にカツアゲしている悪い大人。
だから、程々にして受け取らない事にしたのだが……それはそれはレオンはしつこかった。
” なぜ? ”
” どうして受け取ってくれないの?? ”
” もっと良いものじゃないと……?? ”
これが、受け取るまで続く。
「 ありがとう! 」
毎度お馴染みゴネりがはじまるのは分かっていたので、俺は素直にお礼を告げてその大きな瘴核をその花びらごと受け取った。
そしてその花びらを風呂敷代わりに使い瘴核を包んでいると、レオンはあげ玉の上に乗っている俺の腰をソッと掴んで下へと下ろす。
その動きはとても優しく、前世でお世話になった電動ベッドを思い出した。
『 全自動!起き上がる時のご負担を減らします! 』
そんなキャッチフレーズを思い出しながら、これ近い将来完全介護にならない?とゾッと背筋を凍らせていた、その時────……。
「 おいっ!そこの者達! 」
凛とした女性の声が聞こえたため、そちらに視線を向けた。
声を掛けていたのは、さきほどの戦闘時に他の兵士さん達に指示を出していた子だ。
改めて彼女をまじまじと見ると、背はそれなりに高いが、顔の幼さから恐らく俺たちと同世代くらいである事に気づき目を見張った。
藍色の長いポニーテールに、キリッとした表情。
まさにクールビューティーを具現化したといってもいいような美しいお嬢さんで、姿勢、仕草ともに洗練されたものを感じるし、カリスマ的オーラもビンビンと放つ彼女は、恐らく貴族でこの兵団のリーダー。
腰には刀のようなものを刺している事から、恐らくは前衛職。
この歳でリーダーを任されるくらいだから、かなりの強さを持っているに違いない。
この時代の子供達の人生は、スーパーハードモードだ!
なんとなく心の中でナムム〜と祈っておいたが、やはり前世の記憶があるため、こんな年若い子供が戦うということに抵抗が凄くある。
しかし、国が違えば……どころか、世界が違えば常識も違う。
ごにゃごにゃ言っては失礼な事だと思ったので、リスペクトしつつここは " おじさんの余計なお世話 " を発動!
ちょっと見かけたら助太刀しちゃうよ!をして、その場を去る。
これが俺流、若者に嫌われない良きおじさん────通称 ” のっぽおじさん ” になるための心得!
キラっ!と目を輝かせた後、俺は満面の笑みを浮かべた。
「 ────さっ、のっぽおじさん、のっぽおじさん。 」
レオンとあげ玉にヒソヒソし、その心得に従ってその場を去ろうとしたのだが、クールビューティーお嬢さんは、それに待ったをかけるように大声で話しかけてきた。
「 おいっ!聞いているのか!
お前たち、見たところ平民の冒険者か何かか?
……まぁ良くやったと多少は褒めてやってもいいが、勘違いするなよ?
あれしきの事、我々だけで十分であった。
今後もあまり調子に乗らない事だ。
分かったらさっさと去れ。今見たものは全て忘れろ。
命が欲しいならな! 」
腕を組み、顎を上げながらそう言い放つ彼女に、なんだか激しいデジャヴを感じた。
モワモワっと浮かび上がるは、圧倒的なカリスマを誇る我らが同級生、いたずらな妖精を具現化したような、レオンに日々憎悪を向けるツンツン子猫ちゃん。
────あ、マリオン?
ようはこれ、あれでしょ?
” 助けてくれてありがとう!
でも君たちに危険が及ぶんじゃないかって心配になっちゃった……。
これからも気を付けて戦ってね。
これ以上迷惑を掛けられないから、今見たことはどうか忘れて欲しいな! ”
────って事でしょ?
精一杯爪を伸ばして威嚇するにゃんにゃんマリオン────の隣で、同じく爪を懸命に出しているニューフェイスにゃんにゃん。
可愛いでちゅね〜可愛いでちゅね〜!
ビシビシと顔に当たる、まん丸爪とぷにぷに肉球。
その感触を、ポワワ〜ンと思い出し和む。
それとは対照的に、周りの兵士さん達はツンツ〜ンとそっぽを向くお嬢さんを見て、青ざめオロオロし出した。
「 アゼリア様っ!! 」
「 恩人にいけませんよっ!! 」
口々にそう言うが、どうやら彼女の方が立場は上の様で、強くは言えない様子。
いいんです、いいんです。
はいはい、のっぽおじさんは大人しくシッシするからね〜。
心の中でそう言いながら、よいしょっとあげ玉に乗ろうとした、その時────……。
「 お待ち下さい!! 」
馬車の中から幼い少女の声が聞こえたため、ピタリと止まって馬車の方を見ると、扉がゆっくり開かれていった。
その瞬間、兵士さん達が一斉にザッ!!と一膝をつき頭を垂れる。
まさか中にはよっぽど偉い人が────?
兵士さん達の様子からしてそれは間違いない様だ。
ワクワクしながら開いた扉を見つめていたが、中からゆっくりと出てくる少女の姿を見て────俺は驚きのあまりビシリッ!と固まってしまった。
見事な金の髪色をもつ長いサラサラヘアーに、瞳の色は稀少で神秘的なアメジスト色。
髪を飾るのは左右に付けている白い花の髪飾りに、透き通った白い肌、ぱっちりしたお目々に長いまつ毛、ちょっと見たことないレベルの可愛らしさを持ったお嬢さんであったが、それに驚いたのではない。
────間違いない。
彼女は、このアルバード王国第一王女にして、イシュル教会最高責任者、かつ今世紀の ” 聖女 ” の名を持つ……。
< ソフィア・ランジェ・アルバード >
物語の中で、最後までレオンハルトの側にいて支え続けた、正真正銘の正統派ヒロインだ。




