(レオン)218 勝つために必要な
(レオン)
何故かというと、一回戦を終えた後、相手がことごとく試合を辞退してしまったから。
そのせいで俺はリーフ様に応援される事なく決勝戦を迎え、気分は沈んだままその時を迎えた。
ズ────ン……。
暗い気持ちのまま決勝戦の相手を見ると、そこに立っているのはやたらデカい髭面男の様だ。
そいつは試合が始まる前にニヤニヤしながら、突然俺に向かって近づいてきた。
「────まぁ、お互い頑張りましょーうや。」
そう言って俺に右手を差し出し握手を求めてきたため、俺はその手をジッと見つめる。
するとその差し出された右手からは、鼻をつくような血の匂いと……更に何かしらのスキルを使った気配、そして大量の毒成分の匂いが漂ってきた。
なるほど……<腕相撲>とは、スキルも使用可能なのか。
単純な力のみの勝負ではなく、毒などのデバフも駆使し相手を翻弄し、確実に仕留める……まさに本格的な戦争を再現しているといっても過言ではないこの<腕相撲>に感心しながら、その手を握った。
────ニタッ……!
すると髭面男はその瞬間、口元を大きく歪ませる。
恐らく俺が毒に侵されたと確信しての笑みだっただろうが……残念ながら髭面男の針らしきものは、俺の皮膚を貫通できない。
それに、たとえ奇跡的に貫通できたとしても、俺に毒は一切効かないので意味自体がないのだ。
不思議な事に、リーフ様と出会ってから睡眠や食事などを取らなくても大丈夫になったのとプラスして、あらゆる状態異常も全く効かなくなってしまったからだ。
それを最大限に生かした、俺の作戦。
髭面男の策にあえて乗り、相手の意表を突く形で完全なる勝利をリーフ様に捧げる。
髭面男はずっとニタニタと嫌な笑みを浮かべ俺の手を離すと台座へ移動したので、俺もそれに続いて移動した。
そうして台座の前に立った俺がまず一番に気になった事────……それはリーフ様がいつ俺のために作ってくれた旗を振ってくれるのかということだ。
────チラッ。
────チラチラッ!
伺うようにリーフ様の方へ何度も視線を送ると、目の前の髭面男はニヤついた顔を更に歪めた。
「おやおや〜?そろそろ苦しくなってきたんじゃね〜のかぁ?」
ボソボソと何かを呟いてきたが俺の耳には入らない。
視覚はリーフ様の姿を、聴覚はリーフ様の声を。
自分の感覚の全てをリーフ様に集中しながら、ドキドキと彼の行動を見守っていた、その時────……。
「レオーン!!頑張れ────!!」
そんな声援とともにブンブンと振られる応援旗が目に入り、パァァァ〜!!と機嫌は急上昇していく。
書かれているのは『レオン頑張れ』という黒字でかかれた文字と、名前の周りにこれでもかと描かれた交差針であった。
「ちょっ!!wwwマジかよ!戦って死ねってか?お前相当嫌われてんだな!www」
それを見た髭面男は小さくぶっと吹き出したが、それも全く耳に入らず、俺はただひたすら感動に打ちひしがれる。
リーフ様が俺のためだけに作ってくれた旗。
そして俺だけを想って今目の前で必死にその旗を振ってくれている……。
じわりじわりと心に染み渡る『嬉しい』と、それに伴ってついてくる『幸せ』を噛み締めながら、俺はその強いメッセージ性を完全に理解する。
交差針は絶対に勝て、相手を完膚なきまでに叩き潰せというメッセージ……もちろんその布石はすでに打ってある。(髭男を見事に騙したから。)
完全な勝利をリーフ様、あなたに────!!
そう誓いながら試合開始の合図が上がった瞬間────俺は見事に油断していた髭面男の手ごと台座を叩き壊してやった。
勿論手が爆発しない様に、最大限の力加減をして。
どうでしたか!?
直ぐにバッ!!とリーフ様の方へ視線を向けたが、何故かリーフ様は石像のように固まっておりピクリとも動かない。
具合でも悪く……?
心配していると、急に叩き潰してやった髭面男が、大声で怒鳴りだした。
「くそっ!!もうやめだ、やめだ!!!〈力のベルト〉だけは確実に手に入れようとこんなクソ大会に出たが、大番狂せだっ!!チックショーがっ!!
────おいっ!!てめぇ、どんなイカサマしやがったんだ?!なんで俺の猛毒が効かねぇんだよ!!たっぷり刺してやったのによぉ!!」
イカサマ?
猛毒??
何一つ思い当たる節がなく黙っていると、髭面男がイライラした様子で「握手した時だっ!!!」と怒鳴ったためやっとその意味を理解した。
騙してやった俺の作戦勝ち。
そう教えてやろうとしたが、その前に髭面男同様に血の匂いがプンプン漂わせた男たちが、周りで一斉に戦闘態勢になりワラワラと集まってきたため、一旦口を閉じる。
なるほど……これも<腕相撲>の戦略の一部か。
そう思いながらリーフ様へと視線を移すと、楽しそうに遊んでいる様子が目に入り、満足気に頷いた。
リーフ様が楽しいなら、腕相撲はいいモノだ。
「おい、てめぇ随分調子に乗ってくれたなぁ?俺はあの有名な『毒蛇神』と呼ばれている<ゼブ>様だぞ?五体満足で死ねるとおもうなよ?」
ご機嫌で頷いていた所に、何故か髭面男が怒りに歪ませて怒鳴り散らしてきたので首を傾げる。
何故か分からなかったので、とりあえずリーフの方へ視線を戻すと、ソイツの身体中から大量の紫色の液体が溢れ出した。
<毒人の資質>(ノーマルスキル)
< 毒汗アーマー >
体内で生成した毒成分を汗腺を通じて体外に排出させ、全身を覆うアーマーを作り出す防御系スキル
毒の成分が強いほどそのアーマーの防御力はUPし、そのアーマーに触れるだけで相手に毒のデバフを付ける事が可能。
(発現条件)
一定以上の精神汚染度を持つ事
一定回数以上毒の調合に成功し、かつその毒で相手の命を奪う事
一定以上のきようさ、悪意、殺意、凶暴性をもつ事
「────くっくっくっ、これでてめぇは俺を攻撃することはできなくなった。これは俺の生成した猛毒でな〜、触れたら即死は必須!お前はここで死ぬんだよ!!ざまあみろ〜!!」
大声で笑う髭の男と仲間らしき他の男達だったが、俺はリーフ様の遊んでいる様子をゆったりと眺めていたため、特に反応する事はなかった。
それがどうやら怒りの琴線に触れたようで、今度は笑い顔から一変、男たちは激昂する。
「おいっ!!無視すんじゃねぇよっ!!!ふざけやがってっ……!てめぇはじっくりと俺の毒で溶かしながらぶっ殺してやるからな!!生まれてきたことを後悔させてやるよ!!」
そうして男達はそれぞれの配置についたようだが、そこでリーフ様からの言葉が俺に届く。
「レオーン!やっちゃって、やっちゃって〜。」




