(レオン)215 関係ないもの
(レオン)
リーフ様からこの先一生側にいるという言葉をもらい、俺は上機嫌で地上に戻る。
ヒヨコもどきが、目の前でブンブンと首を振って非常に邪魔でも完全に無視できるほどは気分が良かった。
その後は『椅子』になるべくリーフ様を持ち上げ、さっさと馬車の車体へと入る。
そうしてその後は特に変わりなく馬車は進行していったが、途中あのうるさい連中が対して強くもない豚の様なモンスターを倒しリーフ様は拍手を贈ったため、またムッ!として外を睨んだ。
俺の方が強い。
こうなったら、もっと大きいモンスターを仕留めて……。
そう決意し動こうとしたのだが、突然リーフ様が俺の口に食べ物を捩じ込んできた。
「はい、もぐもぐしようね〜。」
……もぐもぐ。
笑顔のリーフ様に命じられたので、ちゃんとそれを聞く。
見て触って、俺に意識が向いているなら何でも嬉しいから。
あっちへフラフラ、こっちへフラフラ……俺の心はどうにも落ち着かない。
感情はとても大きな幸せをくれるが、同時にこんなにも平静を奪われるのかと、思わずゾッとした。
その後は特にモンスターに襲われる事もなくひたすら進み続け、やがて街に着いた時には、まるで何年か分の経験値を積んだような……とにかく不思議な気分のまま、リーフ様の後についていく。
何だか今日一日で、随分と沢山の感情を経験してしまった……。
う〜む……?とそんな感情一つ一つを振り返りながら、前を歩くリーフ様を見つめた。
リーフ様は楽しそう。
だからこの街は、いいモノだ。
そう考えればギラギラ鬱陶しい光だって、リーフ様が好きならあっという間に良いモノへと変わる。
そして良いモノは同時に俺を『幸せにもしてくれるモノ』だから大事にしないといけない。
ご機嫌で食べ物を買っては俺の口へ、食べ物を買っては俺の口へと入れてくれるリーフ様を見て、自然と笑みを浮かべた。
可愛い笑顔でかまってもらえるのはとても嬉しい。
だから、俺は今、『幸せ』。
でも……こんなに沢山の『嬉しい』や『幸せ』を貰って、心は壊れたりしないのだろうか?
袋に水を目一杯入れていけばやがて破裂する。
心はどれだけ感情を入れられるのか、少し心配になった。
「モルトもニールも出たい大会決まったみたいだね。レオンは何か興味があるのあった?」
不安が顔を出し始めたその時、リーフ様が何かがごちゃごちゃと並んでいる場所で突然話しかけてきたので、全ての意識はリーフ様へ。
よく分からないが、何かの大会というモノに出ると、先ほど言っていたが……気がつけば、沢山の物が置かれてる場所を一緒に歩いていて、どうやらその大会に勝てば、この周りの物が貰えるらしい。
何もいらない。
リーフ様がいるなら。
「リーフ様の望むものなら……。」
こんな満たされた心で新たに欲しいものなどない俺が、そう言いかけたその時────1つの品物が目に入った。
透明なガラスケース内に、使い道を見いだせない黒いベルトがあったが、俺の目線はその下。
白いドレスの様なものを着た砂ネズミのぬいぐるみに釘付けになった。
その砂ネズミは、何かが書かれているプレートを持っていて、そこには『きゃー素敵〜!君も今日から女の子にモテモテ!』と書かれている。
その砂ネズミを見た瞬間、以前見た結婚式の情景が頭の中に浮かび、白いドレスを着た女の姿がリーフ様へと切り替わった。
リーフ様は男性なのにそんな事……!
慌ててその映像をかき消そうとしたが、上手くはいかない。
更にそれに続いて、今度は向かい合わせで立つ男の姿が俺の姿に変われば……ゾクッとした感覚が体中を静かに走った。
俺とリーフ様は男同士。
しかもリーフ様の幸せを思って離れる事の出来ない俺の気持ちは────『愛』などというキラキラした感情では無いのに、どうしてこんなに心が乱れるんだろう……?
「…………。」
直ぐに頭を振り、その変な妄想を必死に振り払う。
つまり、そんな『愛』を持って意味を成すその儀式は、俺とリーフ様に全く関係のないものだ。
だからこんな想像をしたところで何の意味もない────はずなのに……。
「これに出たいです。」
気がつけばそう口に出していた。
謎の高揚した気持ちを抱かせる、白ドレスの砂ネズミ。
それを手に入れるため、俺は何かに出ることが決まったわけだが、なんと参加賞として4つの砂ネズミのおもちゃまで貰うことができた。
茶色い毛並みにつぶらな緑色の瞳、本当にリーフ様によく似ている。
可愛いな……。
俺は上機嫌でそれを大事にポケットに入れ、歩きだすリーフ様の後にまた喜んでついていった。
そうして歩き続け、大きく開けた広場の入り口に到着すると、突然リーフ様は何かを発見し、ビシッ!と手のひらをコチラに向けてくる。
「俺、タ〜イム!皆、ちょっとここで待ってて〜!」
それだけ伝え、テテテテ〜と何処かへ行ってしまった。
待てと言われたからには、俺はココを動いてはいけない……が、どうにも体はムズムズしてそれを全力で拒否しようとする。
俺に見られて困る事をこれからするつもりか?
そう考えると更にゾワッと嫌な感覚が湧き上がり、居ても立っても居られなくなった俺は、直ぐにリーフ様の近くに貼り付けた俺の『視覚』を発動する。
リーフ様が何をするつもりかしっかりと『目』でチェック!
すると……そこにはただ何か絵のようなモノ?を書いているだけのリーフ様の姿があった。
『絵を描きたかっただけ。』
その事実を知り安堵していると、細い方と太い方がペラペラと話し始める。
「レイラさんとシュリさん可愛かったっすね〜。」
「またお前はそんな下品なことを……まぁ、悪い印象はなかったな。」
リーフ様に関係ない話であることを理解した俺は、そのまま意識を『目』の方に集中させ、リーフ様が戻ってくるのを黙ってひたすら待った。
「おまたせ〜!ゴメンゴメ〜ン!」
ニコニコと戻ってきたリーフ様の手と顔にはペンキの様なモノがついていたので、俺は直ぐにハンカチでそれを拭き取る。
するとリーフ様が不思議そうな顔で俺を見上げてきて、また可愛いなと思ったその時、広場にある巨大なステージを中心に大騒ぎが始まった。
わっ!!と叫ぶ声に、ピュー!ピュー!という口笛に拍手……とにかく凄い騒ぎっぷりに、首を傾げる。
「…………?」
うるさい。
とりあえず分からないのに加えて、リーフ様も鼻息荒く目を輝かせているので黙ってひたすら待つ。
すると間も無く大きいステージの上で、変わった髪型をしているうるさい男が大きな声で騒ぎ出した。
「さぁさぁ!!!お集まりの野郎ども────!!!飲んでるか────!!?
毎日頭がお祭りの野郎ども!喜べ!!これから〈ファイナル福人祭り〉はっじまるぜ────!!!!」
「「「「うぉぉぉぉぉぉ────!!!!!!!」」」」
……もっとうるさい。
更に大きな声で騒ぐ周りが面倒だなと思ったが、リーフ様もそれに便乗し、「うぉぉぉぉ────!!」と力の限り叫んでいるのを見て、即座にこれは煩くない良いモノであると判断した。
「モルト緊張してるかな〜?俺、ワクワクして来た!こりゃ〜胸が高鳴るね。」
「あいつは見られて興奮するタイプなので大丈夫っすよ。スケコマシ王なので。」
「高鳴り……??」
そうリーフ様が非常に楽しそうなご様子でそう言うと、今度は俺の頭の中は不思議で埋め尽くされる。
『高鳴る。』
『胸がドキドキしている……。』
もしかしてこれは、割とよく起こる現象なのだろうか……?
日に日に酷くなる心臓の鼓動に疑問を感じていたが、これが普通の事であるなら、格別気にすることではないのか……。
そう納得するのと同時に、こんなにも心を動揺させる『普通』に恐怖し、思わず震えてしまう。
ゾゾゾ〜……!
そのままバレないように震えていると、突然リーフ様が何かの絵を広げ、俺と太い方に見せつけてきた。
「俺、モルトの応援旗作ったよ!どう?どう?」
────ムッ!!
震えはピタリと止まり、今度は怒りの感情と嫉妬が混じり合った感情に翻弄される。
その感情のまま、それをジッと睨みつけた。
気に入らない。
ずるい。
俺以外を応援するのが嫌だ。
言いたい言葉とは裏腹に、口から出てきた言葉は「素敵です……。」という言葉だった。
リーフ様の絵は素晴らしいものだから、ここで否定するのはダメ……。
「…………。」
モヤモヤ……。
スッキリしない気持ちから、ついムスッとしてしまったが、リーフ様は全く気にする事なく、その応援旗なるものの振り方を披露してきた。
「よし!分かった────!!じゃあ、モルトの声援は控えめに!
代わりにニールの時にはコレを振るからね!レオンが。
応援は俺たちに任せるんだ!」
……どうやらあの応援旗は、俺が振るモノらしい。
『嫌だ!』という想いが最初前面に出てしまったが、その直後ある事実に気づき、その気持ちはスッと沈んでいく。
『そうか、俺が振ればリーフ様は直接応援したことにならないのか……。』
それに気づいた俺は、心の中でニヤリと笑った。
既に生み出されたモノは、仕方がない。
俺がすべき事はリーフ様に応援させない様、旗を振る事であった。
最終的にその考えに至り、すぐさまその動きを完璧にマスターする。
そしてその動きをしっかりと見せつけ、任せて欲しい旨を伝えたのだが、なんと太った方は応援されることを辞退した。
────ムッ!!!
断られても怒りが湧く。
もう自分でも何に引っかかってるのか分からない。
願ってもない事だというのに……。
俺はジトっとした目で太い方と旗を交互に睨むと、はっ!とある事に気づき、期待という感情に胸を踊らせながらリーフ様にチラチラと視線を送る。
もしかして俺の応援旗もあるのでは?
リーフ様の一番は俺、そして先程など永遠に側にいてくれると約束までしてくれた。
そんな一番の俺をリーフ様は一番に応援してくれるはず、だからきっと俺の旗も……。
ソワソワ……。
────ソワワワ〜!
その存在を今か今かと待っていると、なぜか排泄の心配をされてしまったが、その後指を振りながら俺に言った。
「何をバカな事を言っているんだい?あるに決まってるじゃないか! レオン!俺お手製の応援旗を振るからには全力で優勝をもぎ取ってくるんだ!そしたらあとで遊べるよ〜。」
俺の分はある上に、優勝しろと期待までされている!
嬉しくて嬉しくて、その感情に支配された俺の戦闘スイッチは────完全に入った。
覚悟を決めて大きく頷くと、太い方が汗を掻きながら「程々にしないと出ますよ?……死人が。」と言ってきたが無視。
俺の意識は、リーフ様に釘付けだ。
「その意気だ!レオン!頑張れ〜!ファイッオー!ファイッオー!」
リーフ様は、直ぐに俺のために旗を振る姿まで見せてくれて、嬉しくて顔は自然と笑顔に変わっていった。




