213 次から次へと……
( レオン )
そこで待ってましたとばかりにお茶の用意をしていた細い方が、リーフ様にお茶を差し出しながらその経緯を話すと、事情を飲み込んだリーフ様は俺へ視線を向ける。
「 ────あぁ〜……。
うんうん……レオン、ありがとう。 」
感謝で涙が出てしまったのか、リーフ様は目元をグニグニと揉み込みながらお礼を言ってくれたので、その体を下ろしながら「 次回は防音魔法をかけますね。 」と新たな決意を口にした。
そんな穏やかな空気の中────突然甲高い女の声が大きく響き、リーフ様の意識が俺から外れてしまう。
うるさい……。
ムッとしながらリーフ様の視線を追っていけば、そこにはピンクの髪の女がいて、首を撥ねたモンスターを指差し驚いた顔をしていた。
「 こ、こ、こ、これ!!
ちょっとちょっと!ゴブリンキングじゃない!
緊急討伐依頼が出たから、いち早く探しに来たのに……。
ねぇ、君達!コレ誰が倒したか知ってるかな? 」
そんな言葉から始まった話がつらつらと続き、更にどこからかこの女の仲間らしき人間たちまで集まってくる。
「 こらっ!レイラ!勝手に飛び出すなよ!
ゴブリンキングが急に出てきたらどうすんだ────……って、なんじゃこりゃ────!!! 」
もっとうるさくなった……。
更にムムッ!としたが、リーフ様は騒がしいのが好きなので仕方がないと、我慢する事にする。
しかし、ムカムカする気持ちはあるので、とりあえず心底役に立たなかった馬の方を、叱咤する様に睨みつけた。
そもそもコレがちゃんと走り続けていれば……!
ビクビクオドオドしている馬に最終的にはため息をつくと、騒がしい連中が少々興味深い事をし始めたのに気づいた。
────ザックザック!
ホリホリ〜♬
うるさい連中は、モンスターの死骸を切り裂いては、体内にあったらしいキラッと光る石のようなものを取り出していく。
「 ? 」
その石をジッと見つめると、なにやらモンスターの動力源の様な、微量な " 力 " を感じた。
なるほど……?
あんなモノが体内にあったのか。
その取り方を確認しつつ、リーフ様とピンクの髪の女の話に耳を傾けると、どうやらアレは人で言う心臓部、< 瘴核 >というもので、高く売れるらしい事が分かった。
それを理解した上で、カシャカシャ!と頭の中で普段のリーフ様の行動を思い出す。
どうもリーフ様はたまに街にモンスターを持っていっては売っている事から、恐らくお金が好き……。
つまり、今までモンスターは全て首を撥ねて消してきたが、今後はコレも捧げれば多分喜ぶはずだ。
そう予想した俺は、煩い連中達の動きをしっかりコピーしながら、悶々と喜ぶリーフ様の顔を思い出した。
リーフ様がお金が好きな事に気づいた後、俺は率先して光る石などを拾ってはリーフ様に献上している。
すると俺からの捧げ物を貰ったリーフ様は、いつも輝く様な笑顔を見せてくれるので、きっと< 瘴核 >を捧げればもっと喜んでくれるはずだと考えた。
完璧に瘴核とやらの取り方をマスターした俺はニヤリっと笑い、その後はまた馬を睨みつけていたのだが、リーフ様の呼ぶ声で意識はそちらへ向く。
「 レオ〜ン!ちょっとこっちにおいで〜! 」
「 ────! 」
リーフ様が呼んでくれた!嬉しい。
幸せ一杯の気持ちですぐにそちらに向かうと、リーフ様は突然俺の顔に自分の顔をスッと近づけてきた。
ドキドキ……。
ドキドキ……。
こんな事でも心臓は跳ね上がる。
「 これレオンが倒してくれたやつなんだけど、彼らにあげていいかい?
これから護衛として街まで案内してくれるみたいだから。 」
そしてそれに追い打ちをかけるようにボソボソと耳元で囁かれる声と吐息に、内容などとてもではないが耳には入らず、俺はただ必死にコクコクと頷いた。
急な接近はなんだか胸が落ち着かない、でもそれも嬉しい。
ソワソワしながらリーフ様が< 瘴核 >を騒がしい連中達に渡すのを見ていると、いつの間にか大きな黄色いヒヨコの様なモンスターが現れ、騒がしさはより一層増した。
どんどんと増える俺の世界の ” 邪魔者 ” 達……。
正直言えば全て消してしまいたい
またしても気分は急降下していき、その忌々しさに舌打ちしたが────リーフ様の目が輝いているのを見れば、結局俺は傍観するしかない。
仕方なく必死に我慢して見守っていると────……。
” へっ! ”
ヒヨコもどきが無礼にもリーフ様を見下ろし鼻で笑ったのだ!!
「 ……その罪、死を持って償え。 」
その瞬間、俺はレイピアを抜きすぐさまそのヒヨコもどきの首を刎ねようとしたのだが、他ならぬリーフ様にそれを止められてしまった。
「 お腹すいた〜♬お腹すいたーご飯た〜べよ♬ 」
空腹を訴えるリーフ様。
奴隷の俺は、その望みを叶える事が最優先……。
────仕方ない。
小さくため息を吐きながら、ギャーギャーとうるさい連中は放置しレイピアをしまい込んだ。
結局その後は、細い方と太い方が用意していたレジャーシートの上に全員で座り込み、ランチをすることになった様だ。
リーフ様御所坊のご飯の時間。
きっとご機嫌で食事をしてくれるだろうと思いきや────何故かいつもより食が進んでいない。
具合でも悪くなってしまったのだろうか……?
心配になってしまったが、うるさい連中からこれから向かう街の祭りの話を聞くとリーフ様の目がまた輝いたため、大丈夫そうだと安堵の息を吐いた。
「 参加自由だって〜。 」
「 景品豪華だってよ〜? 」
「 せっかくだし思い出作りしようよ〜。 」
そう言ってリーフ様は、細い方と太い方の周りをぐるぐると回り始める。
それを見た俺はというと、詳細はわからないが、とりあえずリーフ様が望むなら何でもすると、レイピアをビュンビュンとふってしっかりアピールしておいた。
「 皆さんとても仲良しなんですね。幼馴染って事は全員同じ爵位なんですか? 」
突然騒がしい連中の一人がそう質問してきたので、細い方と太い方は ” 男爵 ” だと答え、リーフ様もそれに続いて答える。
「 俺、公爵! 」
────バタ────ンッ!!!
リーフ様が答えた直後、何故か騒がしい連中達は泡を吹いて気絶してしまい、慌てて駆け寄るリーフ様。
それを見ながら、ただでさえ邪魔な存在に出発が邪魔され、俺はスッと目を細めた。
「 えぇっ!!皆どうしたんだい??!貧血??? 」
オロオロと慌てるリーフ様をよそに、俺の気分はあまり良くない。
ムスッ!としながら黙っていると、細い方、太い方、馬の手綱を握る奴はハァ……と大きなため息をついた。
「 まぁ、仕方ないな。 」
「 仕方ないっすね〜。 」
細い方と太い方はそう言いながら、冷静にそいつらを馬車に運び込むと、自らは前の運転席へ。
「 俺たちはここに座りますので、リーフ様はレオンに乗って下さい。 」
「 手綱いります? 」
細い方と太い方に交互に質問されたリーフ様は、「 ううん……。 」と答えて、首を横に振る。
これは吉報!
早速 ” 馬 ” になるため喜んで背を向けたが……リーフ様は、何故かあのヒヨコもどきに興味を示してしまったため、またしてもムッと嫌な気持ちが心に漂う。
” 俺の方が、あのヒヨコもどきより……。 ”
そう言おうとしたが、キラキラした目で見上げられては言葉は引っ込んでしまった。
「 そうだ!ねぇ、ねぇ!ポッポ鳥乗ってみようよ!
乗ったことないけど俺、いける気がする! 」
リーフ様の望みは全て叶える……リーフ様のやりたいことは邪魔しない……。
諦める以外の選択肢はないと諦めた瞬間────俺は先ほどの無礼な態度をとったヒヨコもどきの存在を思い出した。
リーフ様はお優しいから無用な殺生に心を痛める……しかし、あのような態度────次はない。
「 では、少々お待ち下さい。 」
俺はリーフ様にそれだけ伝え、あの不届きなヒヨコもどきに近づいた。
そいつは腹を出し「 ク……クピィ……。 」と降参の意を唱えたが、問答無用でその首を鷲掴む。
「 リーフ様は美しい、リーフ様は女神を遥かに凌駕する慈愛のお心の持ち主……リーフ様は────……。 」
その魅力を存分に伝え、最後に────……。
「 それを害する者はどうなるべきか……分かるな? 」
しっかりとこの世界の守るべきルールを伝えると、そのヒヨコもどきはキラキラ目を輝かせ、直ぐにリーフ様に背を晒す。
それで良いと小さく頷くと、リーフ様は嬉しそうにそのヒヨコもどきに跨がったので、俺もそれに続いた。
そして ” 椅子 ” になる時同様、しっかりと囲うように腕を回せば、まるでこの世界にいるのは俺たち二人だけという高揚した気分を俺に抱かせてくれた。
ずっと俺の腕の中にいてくれたら……。
そんな妄想は、俺の心をポカポカと暖かいものでいっぱいにしてくれるのと同時に────……黒い黒いドロドロした気味の悪いものを、静かに心の中に広げていった。




