２０９　繊細少年

（　リーフ　）

あ、朝ごはんって言ったから傷ついたんだ……。

レオンの悲しげな顔を見ながら、後悔に体を震わせる。

そりゃ〜そうだよ。

納豆ご飯とかゆで卵とか身体に書かれてごらんよ、酷い！って絶対思う！

「　レ、レオ……。　」

オロオロしながら、言い訳と謝罪をしようと口を開きかけたその時……レオンは、はっと我に返り、困った様な顔で笑う。

「　すみません、直ぐに洗いますね。」

そう言って俺をクルリと回転させ、背中を酷く丁寧な手つきで体を洗い始めてくれた。

それにビクビクしながら大人しく身を委ねていると、レオンが突如話し始める。

「　リーフ様はまるでお日様の様ですね。

暖かくて……とても幸せな気持ちになります。　」

「　────へっ？そ、そうかい？ありがとう……。　」

てっきり　" 朝ごはんは酷いです！ " 的な恨み節を言われると身構えていたのだが、どうやら俺の基礎体温のお話だった様だ。

俺は小さい頃から基礎体温が高く、普段は加齢臭お化けと言って逃げてく子供達にも、冬は大人気。

あれよあれよと、皆が俺を求めてやってくる。

夏は嫌われ者、冬だけ人気者、それが俺。

少しだけ平凡から逸脱している個性にニヤリと笑うと、レオンは突然手を止め小さな声で呟く。

「　……本当は分かっているんです。

俺みたいなのがリーフ様に触れたら……汚してしまうって……。　」

レオンの悲痛な心の叫びを聞いて、俺は、あちゃちゃ〜！と頭を抱えた。

やっぱり洗浄魔法と水浴びだけでは、汚れがとれていないんじゃないかって気になっていたのか……。

自分の嫌な予感が的中してしまったことを嘆く。

そして耐えるようなレオンの声に、今まで悩んでいたが聞けなかったという大きな苦しみが伝わってきた。

魔法うんぬんが存在していなかった元日本人の俺としては、洗浄魔法とやらの性能がいまいちピンとこない。

そのため、" 石鹸で洗ったり湯船に入らないで体臭大丈夫かな？ " と気になってはいた。

レオンは現在全く匂いがないが、人には恐ろしい加齢臭なるものがあるため、歳をとればとるほどそれが自分に牙を向く。

せっかく五右衛門風呂も作ったんだし……今日湯船に入る魅力を存分にアピールして、今後は多少強引に勧めてもいいんじゃないかな？と考えた。

「　あのねレオン、俺そんなんで汚れないよ。

レオンは綺麗だし、いい匂いだから大丈夫さ。

そんな事より早くお風呂入ってみようよ！

”　酒の匂い風呂　”　は最後にとっておいて端から一緒に回ろう！　」

楽しみ〜！

ニコニコする俺に、レオンは本当に嬉しそうな顔をして────「　はい。　」と返事を返してくれた。

気になっていた自分の体臭について、大丈夫だと太鼓判を押されたレオンは、相当嬉しかった様だ。

そういう些細でもデリケートな問題は、人に相談しにくいモノ……ここでレオンの心の悩みを解決できて、本当に良かった！

嬉しい！

お風呂の湯気と共に良い雰囲気が漂う中、動きを再開したレオンによる俺の背中洗いが終わると、俺はやる気満々で立ち上がった。

”　さぁ、いざゆかん！湯船へ！　”　

また肩にパパーンとタオルをかけ、湯船に向かおうとしたのだが、何故かレオンが自身のタオルを俺の腰にソッと巻いてくる。

「　？？？　」

えっ？何何〜？

その意図が読めずに振り向けば、更に肩にかけてたタオルも奪われ今度は胸元も隠される。

────ビキニ……？？

胸元のタオルが邪魔でずらそうとしても、怖いくらい真剣な目で　”　NO！　”　とゴネるレオン。

仕方ないと俺は諦めることにして、ビキニスタイルのまま、順々に湯船を回っていった。

とりあえず端から順番に入る事にしたのだが、とにかく沢山のお風呂があるので、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ……。

結構な数を回った所で、やっと最後の一つを残し、全風呂を制覇した俺とレオン。

湯気でボヤける視界の中、一番奥にある風呂へビシッ！と指を差した。

「　どれもこれも素晴らしいお風呂であった！

しかーし！まだメインディッシュは残っているぞ〜？

────よし！行くぞ！レオン！　」

────ダッ！！

最後は一番楽しみにしていた　”　お酒の匂い風呂　”　に、猛ダッシュ！

そして、そのまま勢いよくドボンしようとしたが────何と、その横で倒れているモルトとニールを発見し、ピタリと止まった。

「　モ、モルト！ニール！？　」

慌てて駆け寄る俺に、レオンは「　横にどかしますか？　」と、冷静な態度を崩さない。

「　いやいや、どかさないよ！二人ともどうしたんだい？！　」

大声で叫びながら、二人の様子を直ぐに確認すると────……？

「　うう〜ん……ムニャムニャニャ？　」

「　パクパク────……うへへ……。　」

グニグニと蠢く口、そしてトロ〜ンとした目つきに真っ赤なほっぺ……。

間違いない、これは────……。

酔ってるね。

テキーラを一気飲みしたかのような濃厚すぎるその場の匂いに、流石の俺も鼻を摘む。

このままではまずい！

そう判断した俺は、直ぐに二人を脱衣所まで運び、風魔法でヒューヒューと顔を冷やして介抱していたのだが、突然天井からメイド服を着たムキムキレディーがシュタッ！と落ちてきた。

「　〜…………っ……？？　」

驚き固まる俺に、彼女達はニカッと笑い、まるで赤ちゃんに服を着せるようにモルトとニールに服を着せると、そのままお姫様抱っこして脱衣所を出ていってしまったのだ。

「　…………。　」

それを大人しく見守った俺は、レオンと共に着替えを終わらせると、なんとなくソロリソロリと気配を殺しながら部屋まで戻った。