193 モルト始動
(リーフ)
「おお?」
その音に釣られてステージの方へ視線を向けると、いつの間にかステージの中央に一人用のおしゃれなテーブルと椅子が置いてあった。
そしてそのちょうどその横に、30代前半くらいだろうか?少し疲れていそうだが、可愛らしい雰囲気のお嬢さんが立っている。
果たしておもてなし大会とは如何なる大会か!?
ワクワク!ドキドキ!
胸を躍らせながらステージ上に注目していると、横の方からぞろぞろと参加者達がやって来て、お嬢さんの後方に一列に並んだ。
ちなみに、我らがモルトは一番端っこにいる。
「さぁ〜!!野郎どもぉー!!準備はいいか〜?
今大会一発目〜〈おもてなし大会〉だぁぁ────!!」
「「「「うぉぉぉぉぉぉ────!!!」」」」
一斉に盛り上がる観客達!
勿論俺も力の限り叫ぶ。
その熱い叫びを耳に手を当て聞いていたソフトクリームおじさんは、そのままこの大会のルール説明をし始めた。
「ルールは簡単!コチラにいらっしゃるお嬢さんに、どんな方法でもいい!『おもてなし』をして感動させること!
お嬢さんを一番満足させた野郎が優勝だ!!
────では〜〜〜〜スタート!!!」
ボボォ〜ン!!
また先ほど聞こえた鐘の音が聞こえ〈おもてなし大会〉がスタートした。
それから一番先頭の人から順に自身の『おもてなし』を披露していくのだが、まさに多種多様!
お嬢さんの前で歌ったり、踊ったり、手品をしたり、お酒の一気飲みを披露したりと全力で彼女を楽しませようとする。
しかし────お嬢さんは中々手厳しく、20点、5点……などなど酷評の嵐。
俺的には眼の前で豪快にウィンナーを焼くパフォーマンスが好きだったが、それも15点という低得点であった。
「あんなに面白いのに駄目なのか〜。ウィンナー美味しそうだったのにね。」
「そうっすねー……やっぱりウィンナーは、女性受けが悪かったんじゃないすか?
『女心はポッポ鳥の如し』って言いますし、サーッと変わりやすい女性の心を掴むのは、かなり難易度が高いってことっすね……。」
ゴクリっと唾を飲み込みながら汗を掻くニール。
俺もポッポ鳥のスピードを思い出し、同様にゴクリと唾を飲み込むと、ついにモルトの順番が回ってきた。
俺はレオンに持ち上げて貰い、大声で「モルト頑張れー!!」と叫ぶと、モルトはスッと片手を上げダンディーな笑みを浮かべた。
その姿は余裕に満ち溢れている!
「おぉ〜、なんかモルトすっごい落ち着いてない?」
「きもっ……。」
その堂々たる態度に俺が感心していると、ニールはグシャリと丸めたティッシュのように顔を歪めた。
モルトはお茶を運ぶ時の台車をカラカラと引いて、お嬢さんからやや離れた位置にそれを置くと、そのままお嬢さんの前に素早く移動。
そして一切の戸惑いもなくそのまま跪いた。
「美しいお嬢様、どうか貴方の美しさに囚われた憐れな私めに一時の夢を見せて頂けないでしょうか?」
歯に浮くどころか遥かお空に飛んでいきそうなモルトのセリフに観客達は固まったが、彼女は素直にコクリと頷いた。
それを確認したモルトは、直ぐに優雅な仕草で彼女の椅子までエスコート、そしてバラの刺繍が入ったハンカチを胸のポケットから取り出すとフサっと椅子に引く。
「えっ?ハンカチが……。」
戸惑う彼女に、モルトはふっと笑いながら言った。
「貴方に踏まれる為にこの世に生まれたハンカチです。」
その瞬間、観客席からは、ヒェッ……!という声が至る所で上がるも、お嬢さんはそのまま無言でモルトが引いた椅子に座り、モルトは静まりかえってしまった場などなんのその。
直ぐにお茶を入れに台車へ向かった。
そして今年も大好評発売中のバラ茶を優雅な仕草で入れ、最後にバラの花びらを一枚浮かせる。
すると────……。
────ふわっ……!
辺り一面に香るバラの匂いに、お嬢さんが、わっ!と嬉しそうな表情を浮かべると、モルトは彼女の前にそのお茶を静かに置いた。
「こんなオシャレな紅茶なんて、私が飲んでも良いのかしら……。」
戸惑う彼女にモルトはニコリと笑う。
「勿論でございます。貴方を楽しませるこの一時のため、この紅茶は生まれたのですから。」
恐ろしい程の沈黙の中、その時点でニールの限界は超えたらしく、物凄い勢いで蕁麻疹のようなものが、顔と腕にビッシリと浮かび上がった。
周りを見ればほとんどの男性の観客達がニール同様にブツブツと出てきた蕁麻疹をシャカシャカと擦っている。
そんな中、紅茶をゴクゴクと飲んだお嬢さんは無言で立ち上がり、なんと100点!と書かれたプレートを高々と上げたのだ!
満点!勿論ダントツトップの点数に────男性の観客達からは盛大なブーイング!
対して女性の観客からは、いいじゃな〜い!という肯定的な野次が飛ぶ。
そしてそんな野次の数々にドヤ顔で片手を上げるモルトに、俺が惜しみない拍手を送っていると、両腕を擦りながら司会者さんが現れ、満点を付けたお嬢さんへマイクを近づけた。
「で、で、で、でました────!!!なんと100点満点!文句なしの高・得・点んんっ!!一体何が決め手だったのでしょうか?! 」
司会者さんの言葉が言い終わるか否かの瞬間、彼女はマイクをひったくり大声で叫ぶ。
「生まれて初めてのお姫様扱いだったのよ────!!!!!
女と見れば誰でも口説こうとするアル中セクハラジジイ共にはもううんざり!!
お尻触るな!胸をジロジロ見るな!キモいんだよ!!金◯もげろ────!!!」
魂の叫びのような迫力ある怒号に、俺の慎ましいお玉ちゃんがヒュヒュンと固まると、ニールも他の男性観客達も下をさり気なく隠す。
「そうよそうよっ!!女の口説き方が目の前で歌うか踊るかって動物かっ!!
ちょっとは『可愛いね』の一言くらい言え!!愛を伝える努力をしろ!!」
「酒買って渡してくるなっ!花束でも買ってこい!!」
「毎回デートが酒場って頭湧いてんのかっコラァ!!」
すると出るわ出るわ男性達への不平不満が。
先程の熱気は何処へやら、項垂れて静かになった男性観客達を目にして不味いと思った司会者が、直ぐにモルトへ優勝トロフィーとティーカップセットを渡す。
「え、えぇ〜次の大会は〜‥‥…!」
そして次の大会の説明を始めて場を濁すと、またあっという間にワー!ワー!!と元の熱気溢れる雰囲気に戻った。
ニールと共にホッとしていると、モルトはドヤ顔のままトロフィーとティーカップを抱えて堂々の御帰還だ。
ウットリとティーカップを見つめるモルト。
そしてそんなモルトを嫌そうに見つめるニール。
我関せず、興味皆無なレオン。
そんないつもと変わらぬ三人を見てニッコリ笑った後、レオンに頼んで地上へおろして貰い、とりあえずデートが毎回酒場はよくないとしみじみ思った。




