192 砂ネズミと大会開始
(リーフ)
各々出たい大会も決まり受付へ戻ると、先ほどのソフトクリームおじさんが俺たちを覚えてた様で、ズイッ!と前のめりで俺達へ近づく。
距離が近づいた非常に特徴的な髪型を、レオン以外の全員が思わずジッと見つめてしまったのだが、おじさんは全くその視線に気づかず気さくに話しかけて来た。
「おっ!坊っちゃん達、出たい大会決まったのかい?
クックック〜!どの大会も強者達揃いだからな〜。怪我は覚悟しておく事だ。」
不敵に笑いながら脅かしてくるおじさんだったが、意識はどうしても頭に向いてしまい、あまり恐怖を感じない。
とりあえずコクコクと(レオン以外は)頷いて返事を返した。
するとおじさんは快くエントリーの手続きを済ませてくれて、最後に参加賞……あのネズミシリーズのおもちゃがごっそり入った箱を俺たちの方へ差し出す。
その時点で、ボンヤリレオンの全意識はその箱へ。
『レオンは可愛いものが好き』
特に砂ネズミのおもちゃを、それはそれは大事にしている事を知っている。
「レオン、俺の分もあげるよ。」
そう申し出ると、レオンはパァーと嬉しそうな表情を浮かべた。
「ありがとうございます。」
レオンはご機嫌でお礼を言うと、砂ネズミのおもちゃを2つとったので、俺はそこで『あれ?』と思って口を開く。
「違う種類を取らなくていいの?」
4種類もあるのだから、ここはコンプリートを目指したほうが良いと思うのだが……。
しかしレオンはふるふると首を横に振り「これがいいです。」ときっぱり答えた。
こだわる男レオン。
これと決めたら一直線!渋い!かっこいい!
心の中でヒューヒュ〜!と囃し立てていると、モルトとニールが俺に引き続き、自分の分の砂ネズミのおもちゃをポイポイっとレオンに放り投げた。
「「俺の分もやる(っす〜)。」」
レオンはそれをキャッチすると、手にある合計4つになった砂ネズミを見てほっこりしながら、大事そうにポケットへ。
レオンはとっても嬉しそう!
自然と自分の気分も向上し鼻歌を歌いながら、俺たちは大会が開催されるステージまで向かった。
◇◇
中央広場
「さぁさぁ!!!お集まりの野郎ども────!!!飲んでるか────!!?
毎日頭がお祭りの野郎ども!喜べ!!これから〈ファイナル福人祭り〉はっじまるぜ────!!!!」
「「「「うぉぉぉぉぉぉ────!!!!!!!」」」」
何とあのソフトクリームおじさんが大会の司会者さんだったようで、ステージ上で開会の宣言をすると大勢の観客からものすごい歓声が上がった。
テンション、熱気は既にマックス。
勿論お祭り大好き男の俺もそれに混ざって「うぉぉぉぉ────!!」と全力で叫ぶ。
ここは中央広場から少し離れた開けた広場。
そこに巨大な野外ステージの様なものがデデンッ!と建っていて、そこが今回の大会メインのバトルステージの様だ。
そしてそんなバトルステージの前には、恐らく街中から集まったであろう沢山の観客たちがひしめき合っていてものすごい盛り上がりを見せている。
俺たち参加者は出番が近くなったらステージの方へいけばいいらしいので、とりあえず正面の観客席よりややそれた、ステージ上が見えるギリギリ端のほうで大会を観戦することにしたのだ。
ちなみにモルトは直ぐに始まる<おもてなし大会>に出場するため、既に舞台の方へ移動済みで既にこの場にいない。
俺はソワソワとしながらレオンとニールに言った。
「モルト緊張してるかな〜?俺、ワクワクして来た!こりゃ〜胸が高鳴るね。」
「あいつは見られて興奮するタイプなので大丈夫っすよ。スケコマシ王なので。」
「高鳴り……??」
ニールは、へっと鼻で笑い、レオンは不思議そうな様子で首を傾げる。
そんな二人をよそに、俺はいそいそとバックの中を探って、先ほど広場の入り口にあった<応援旗を自由にお作り下さい>というフリースペースにて作った旗を広げた。
「俺、モルトの応援旗作ったよ!どう?どう?」
レオンとニールに向けて『モルト頑張れ』と書かれたそれを見せると、レオンはあからさまにムッとした顔に、ニールはまるで菩薩のような穏やかな笑みを浮かべる。
「リーフ様、なぜ文字を赤に……?」
「モルトはバラが好きだから〜!」
急いで書いたものだから『モルト頑張れ』という字がちょっと滲んで赤い染料がダラダラと下に垂れてしまっているが、文字はきちんと読めるレベル。
ニールは、笑顔でうんうんと頷く。
「……文字の横に沢山書いてある赤い塊はなんですか?」
「あっ、これバラ!バラって書くの難しいよね〜。ごちゃっとしてて。
俺、チューリップなら自信あるんだけど……。」
せっかくだしモルトの好きなものを描こうと書いたバラだが……これが何とも難しい!
そのためだいぶごちゃっとした塊になってしまい、色もあってかちょっと血豆の様にみえなくもないが、その分数を書いたので華やかさなら負けない自信はある。
ふんふんっ!と自信満々に鼻息荒くしていると、レオンが複雑そうな顔で「素敵です……。」と言ってくれたため気分は急上昇した。
そうだろうそうだろう!
大会が始まったら、コレをレオンに振ってもらおう。
レオンは大きいから、俺が振るより目立ってくれるはず!
ニッコニコしながらレオンに旗の振り方を指導していると、ニールが優しく俺の手から旗を取り、そのまま自身の持つバックの中に仕舞ってしまった。
「これは素晴らしすぎて、神経質で恥ずかしがり屋のモルトはきっと緊張してしまいます。
ですので宿に着いたら渡しましょう。俺が預かります。」
恥ずかしがり屋……?
普段あまりそうは見えないモルトにそんな意外な一面があったとは……。
配慮が足りなかった自分を嘆き、悲しみに打ちひしがれた。
確かに恥ずかしがり屋さんにとってこの応援旗は良くない。
プレッシャーになって逆に力を発揮出来ない可能性も……。
俺は残念だがモルトの旗を振ることは諦め、代わりにといそいそとニールの分の旗を広げて見せた。
「よし!分かった────!!じゃあ、モルトの声援は控えめに!
代わりにニールの時にはコレを振るからね!レオンが。
応援は俺たちに任せるんだ!」
レオンの方にグルンと顔を向ければ、レオンは力強くコクリと大きく頷き、先ほど教えた旗を振る動きを完璧に再現してくれる。
ニールの旗にはモルトのモノと同様に『二ール頑張れ』という文字が緑色の染料でデカデカと書かれていて、やはり急いでいたせいかダラダラと文字が下へと滲んでしまった。
しかし俺が注目してほしいのは、サイドに書かれた大きな牛の顔。
ちょっと大きく書きすぎたせいで文字と一体化してしまったが、まぁそれは許容範囲内。
問題は染料が滲み、牛の目からダラダラと大量の黒い涙が流れている様に見えてしまう点だが、これもそこまで重視すべき点ではないだろう。
ニールはそんな旗を見て一度大きく息を吸うと「わあぁぁ〜!」と、かなりのオーバーリアクションで喜びを表現し、その旗をまた優しく俺の手から取り上げる。
「なんて素晴らしい旗なんでしょうか〜!俺、感激しました!ありがとうございます!
だからコレはあとで一人でじっくり見ますね!実は俺ってばモルト以上に神経質で恥ずかしがり屋なんで!
もう道端の蟻の視線すら気になっちゃうんで!」
サササッ!と旗を急いでバックにしまうニールに、彼にもそんな意外な一面が!?と驚いたが……割と早熟気味だと思っていた2人の子供らしい一面にニッコリ笑みが溢れた。
今直ぐ全裸になって歩いても羞恥心は一切ない俺には理解できないが……とりあえず派手な応援は諦める事にする。
しかし困ったぞ……。
これでは残すは、レオンの応援旗のみとなってしまった。
困ってしまった俺、痛みだした頭を労わるように擦る。
何と言ってもレオンは極度の恥ずかしがり屋。
俺たち幼馴染の中ではナンバーワンのシャイボーイだ。
残念だけど、レオンの旗もこりゃお蔵入りだな、こりゃ。
そう思いガッカリしていると、レオンがソワソワと細かく動く姿が目に入る。
「レオン、オシッコ?じゃあチッチのところに一緒に行こうか。」
「いえ、その……俺の旗は……ないのでしょうか……?」
しょんぼりしているレオンの表情に────俺はカッ!と目を見開く。
レオンが応援されることを楽しみにしている!
心の中でガッツポーズをすると、今までのレオンの事を思い出した。
自主性なし!
積極性なし!
隅っこ大好き!
基本俺という隠れ蓑から全く離れようとしない!
最近ではもう影と間違えてしまうほどその気配にも慣れ、周りの人間達もそれに慣れ……で、本人も人に多少は慣れてきたかな〜?という今日この頃。
そんなレオンを今度はどうやって前に押し出してやろうかと思っていた頃に、まさに好機と呼べる出来事が降って湧いてきた!
密かにほくそ笑むと、不安そうにしているレオンに、チッチッチッ〜と指を振る。
「何をバカな事を言っているんだい?あるに決まってるじゃないか! レオン!俺お手製の応援旗を振るからには全力で優勝をもぎ取ってくるんだ!そしたらあとで遊べるよ〜。」
ヒーローごっこで!
ビシッ!とレオンを指さし悪役に相応しい偉そうな物言いをすれば、レオンは凄い気迫で大きく頷いた。
おおおお??レオンはやる気満々だ!
「程々にしないと出ますよ?……死人が。」
そんなニールの言葉も何のその!
レオンは心優しき少年だから大丈夫!多分!
「その意気だ!レオン!頑張れ〜!ファイッオー!ファイッオー!」
声を張り上げ、旗を振る練習をしていたその時────……。
────ボオォォ〜ン!!
会場内に大きな鐘の音がなった。




