189 ウォッカ到着
(リーフ)
その後────俺たち一行は、まだちょっと夕飯には早い時間の頃にやっと目的の街、【ウォッカ】に到着し、街の入口付近で一旦全員止まる。
「ジンさん達のお陰で安全にここまで来れたよ。本当にありがとう。」
止まっている馬車から降りて真っ先にお礼を告げると、ジンさん達は慌てて両手を振る。
「とんでもない!お礼を言うのはこちらの方ですよ!
この恩は忘れません。本当にありがとうございました。
この街でなにか困った事がありましたら、冒険者ギルドで俺たちを呼んでくださいね。
俺達、【春の三毛猫】というパーティー名で活動していますので。
────あ、〈ファイナル福人祭り〉に参加するなら、街の中央広場で受付をしていると思いますので、まずはそちらへ行ってみてください。
────あと……。」
ジンさんはスッと俺達の方へ少し顔を近づけ、小声で言った。
「実は指名手配の盗賊一味が、最近この街で目撃されたそうなので、出歩く時は十分注意してくださいね。」
なるほど、だからジンさんたちにパトロールの依頼が入ったのか……。
納得しながら、大きく頷いた。
「うん。分かった!気をつけるよ」
ドンッ!と胸を叩いて答えると、ジンさん達は笑顔でポッポ鳥を引きながら、その場を後にしようとしたのだが……やはりあのジンさんを乗せているポッポ鳥だけが、ゴネついて動かない。
それに一同汗を垂らしたが、レオンの「早く行け。」の一言で、やっと諦めてそのまますごすごと去っていった。
「やれやれ……。変なポッポ鳥君だったねぇ。なんにせよ、無事に着いて良かった良かった。」
ふぅ……とため息をつきながら、改めて到着したウォッカという街並みを入口付近で見回す。
その初感想といえば────ズバリ!酔っ払い天国。
街には、それぞれのこだわりを感じる沢山の飲み屋さんが、所狭しと並んでいる。
「わぁ〜ぉ……。」
色とりどりの光を放つ魔道具の光は、まるでネオンの光。
それに感動して声を上げると、次に感じたのは、そこら中に漂うお酒と葉巻類の匂いだ。
まさに、大人のためのザ・娯楽施設。
もちろん、中身は大人な俺のテンションは一気に上がる。
「今日はお祭りだから、特に凄いんだろうけど、それにしてもずいぶん賑やかだね。」
その雰囲気に圧倒されているモルトとニールに向かって言えば、2人はコクコクと小さく頷いた。
「た、確かに、これは凄いですね。レガーノのイシュル神祭に負けず劣らずでは?」
「お酒以外の食べ物も沢山あるんすね!」
お酒の味を知らない2人だが、とりあえず楽しそうな雰囲気は伝わってきたのか楽しそうだ。
特にニールは美味しそうな料理の匂いをクンクンと忙しなく嗅いでいる。
ポンっ!という小さな爆発音と共に、そこら中で打ち上げられる花爆弾。
お酒を飲み合って、カンパーイと叫ぶ人達。
ギターなどの楽器で演奏しながら歌って踊る人々に、街の入り口からずらりと並ぶ出店では商人さん達が声を張り上げて商品を売り込んでいる姿。
どれも活気があって素晴らしい────が……。
「…………。」
後ろをチラッと見ると、ウチの子レオンは、安定の無表情、無感情だ!
まぁ、普段からあんまりはしゃぐ子じゃないし……ま、いっか。
いつも通りのレオンは置いといて、弾むような気持ちでその景色をみていると、馬車の御者さんが俺たちに話しかけてきた。
「私はこのまま泊まる予定の宿に行って部屋に荷物を下ろしておきますので、どうぞ皆様お楽しみ下さい。」
そう申し出てくれた御者さんにお礼を言い、走りゆく馬車に手を振った後、あっちにフラフラこっちにフラフラ、出店を見て回りながら、俺たちは中央広場を目指す。
「明日試験なんですが……。」
「いいんすかね……。」
モルトとニールは、ブツクサ言いながらも目はキラキラと輝いていて、モルトは様々な花の刺繍が施されたハンカチ屋さんで、ニールはチーズの燻製専門屋の前で大興奮していた。
俺はそれを微笑ましく眺めながら、道中売っている珍しい食べ物を買っては食べ、レオンに食べさせ、買っては食べ、レオンに食べさせてをしている内に、レオンの機嫌も急上昇していく。
喜ぶレオンを見ると、俺も嬉しい!
ニコニコしながら食べ続け、すっかりお腹が膨れる頃にはやっと中央広場に到着した。
その場所の広さ的には、観客席も入れた野球球場くらい。
そんな広い広場の中に、所狭しと沢山の人達がいて、かなり盛り上がっている様だ。
「受付ってどこにあるんだろうね?広くて見つかるかな?」
じっ────……。
目を細めて周りを見渡すと、広場の中央にはイシュル神像がドドーンと立った大きな噴水があるのが遠目で見えて、そこに人が集中して集まっているのが確認できた。
もしやあそこに受付が?
そう予想した俺は一番背が高いレオンに話しかけた。
「何か見える?」
そう尋ねるとレオンはニコッと爽やかに笑い、俺の脇に手を差し込みそのままグイ〜っと俺を上に持ち上げてくれる。
急に高くなった視界にこれ幸いと手をおでこにつけ、じーっとその場所を眺めると、やはりあった!大会の受付所らしきモノ!
「モルト〜ニール〜!」
俺は直ぐに、買ったハンカチと燻製チーズの塊をルーペみたいな道具で確認している2人を呼びつけ、早速4人でその場所に向かった。
人で込み込みのそこら辺一帯の中、一番混雑していたのは、噴水横にある大きなボードの前で、自然とその場所へ視線がいく。
一体何が書いてあるんだろう??
そう疑問に思った俺が、またレオンに持ち上げてもらいそのボードを見つめると、どうやらそこにはエントリーした人の名前や、優勝候補者の名前が書かれている様だ。
更にそれがランキング式に書かれているようで、そこの前に立つお兄さんに、集まった人達は次々とお金を渡してはなんかのカードを貰っているのが見える。
「あ〜……さては、賭博的なヤツかな〜?」
子供時代、駄菓子屋にあったスーパーボールのくじに奮闘した日々────それを思い出し、気分はほっこりしてしまった。
そんな浮ついた心のまま、既に空き始めている受付らしき場所に四人で揃って顔を出すと、そこに座っている人物がだいぶ印象的過ぎて、そんな思い出は一瞬で遥か彼方へ吹き飛んだ。
ザ・ピンクの派手な縁メガネ。
ちょっと見方によってはまずいものに見えてしまう、茶色のソフトクリームのような髪型。
多分歳は40代くらいのお兄さん……いやおじさんだ。
「「「…………。」」」
その髪を一斉に見つめてしまった俺、モルト、ニールに向かって、そのおじさんは「よっ!」と気さくに話しかけてきた。
「坊っちゃん達、街の外の人間だね!だったら思い出作りに、大会に出てみることをお勧めするぜ!参加賞もでるからよ!」
そういってそのお兄さんは箱にごっそりはいった、海ネズミ、森ネズミ、山ネズミ、そして砂ネズミと、シリーズ化しているらしいおもちゃの人形を見せてくれた。
ちなみにこの世界にいるネズミは、住んでいる場所により名称と身体の特徴が違い、海ネズミは青色、森ネズミは緑色、山ネズミは灰色とその体毛の色が違う。
砂ネズミは言わずもがな、茶色の毛に緑の瞳と、この国の平民にとても多い特徴をもっていて、ザ・平均男の俺にそっくりなのだ。
「勿論優勝者にはめちゃくちゃ豪華な景品がでるから、どの大会にでるか迷った時は、その景品をみて決めるのもありだ。
今あっちで展示されてっから、良かったら先に見てきなよ。」
おじさんは賭けの看板と逆方面、簡易式の大きなテントの様なものがある場所を指さした。
俺たちはお礼を言い、そこへ行ってみる事にしたのだが、入り口に立つのは屈強そうな男女の警備員みたいな人達で、意外に物々しいその雰囲気に少々気圧される。
おそらくは商品の警護をしていると思われるが、一体どんなお宝が……?
ワクワクしながら、その人達にペコリと軽く頭を下げて中に入ると、そこには種目別に貰える優勝賞品たちがガラスケースのようなものに入れられズラリと並んでいた。
さすがは豪華というだけあって、素人目にもかなりの良い賞品たちの様だ。
「凄いな〜。」
賞品を端から順番に見ながら先に進んでいると、そこまで興味なく歩いていたモルトの足が突然ピタリと止まる。
「?」
それに気づいた俺も足を止め、モルトの方を見ると────モルトはウットリした顔である一点を凝視していた。
「「???」」
ニールと顔を見合わせ首を傾げた後、その視線の先を追っていくと、そこにはバラの絵が入った白く輝くティーカップセットがある。
更にその前に置かれている白いプレートには<おもてなし大会>と文字が書かれていた。
「……モルト、これ欲しいの?」
「────っ!!!はっ!申し訳ありません!ぼんやりしてしまって……。
これ、実はですね、あの職人達の夢の街【ガンドレイド王国】産のティーカップセットなんです!
こんなところでお目にかかれるとは……。
絶対欲しいので俺はこれに出ます。そして優勝します!!」
────ゴッ!!!!と燃え上がるモルトに俺は「良かったね〜。」と告げ、ニールとレオンを連れて先に進む。
ニールは今の所めぼしいものはない様子で、後頭部で手を組みながら、はぁ〜と息を吐きだした。
「モルトは昔から、ああいった綺麗で美し〜いものが好きなんスよね〜。
全く、さっきまでこんな大会に興味なんてないだの、貴族たるものこんな俗ものは〜なんて言ってたくせに……。
ほらっ、見てくださいよ、あれ。」
そう言ってニールは、モルトのいる方向を親指でクイッと指差す。
指し示された指の向こうにいるモルトは、その場に座り込み、溶けそうな顔つきでティーカップを見つめていた。
そんなモルトをみて、ニールはヤレヤレと呆れたような顔つきで首を横に振る。
「あんな状態じゃ貴族の『き』の字もありゃーしないっすよ。
やっぱり貴族たるもの、それにふさわしい自制心というものを────。」
そう語っている途中で、とつぜんモルトの足がピタリと止まった。
その目は一点を凝視し、親の仇でも見るかの様に鬼気迫るモノまで感じさせる。
「…………?」
その視線の先をゆっくり追えば、そこにはやたらカラフルなキノコが、小さなカゴの中にこれでもかと詰められている景品が置かれていた。
ちなみに、その前に置かれた白いプレートには<食通王大会>と書かれている。
「……ニール、これ欲しいの?」
「────はっ!!も、申し訳ありません!!つい、ぼんやりしてしまって……。
実はこれ、天然素材の天国とされる、あの【ジェンス王国】産の<熟王マッシュ>っていう、凄いキノコなんすよ!!
これがあれば、チーズやヨーグルトを何倍も美味しくすることができるっす!
出ます!!俺、この大会絶対に出ますから!!」
両手で頬を押さえ、うっとり〜としてしまったニールに「良かったね〜」とだけ伝え、前に進むのはとうとう俺とレオンのみになってしまった。
俺は商品をチラチラと見ながら、レオンに話しかけてみる。




