185 貴族の常識??
(リーフ)
◇◇
「いや〜、俺たちまで頂いちゃってもいいんですか?本当にありがとうございます。」
凶暴なポッポ鳥に蹴られて顔を大きく腫らしたジンさんが、ニコニコしながらお礼を言えば、他の冒険者3人もボロボロな状態で一斉に頭を下げる。
結局、レオンとジンさん達が同種の凶暴なポッポ鳥を虐めたせいで、残りのポッポ鳥達もパニックを起こしてしまい、収拾がつかなくなってしまった。
大騒ぎのみんなを見ながら一人でオロオロしていると、どこらしょ!と立ち上がったモルトとニールが馬車についているクラン特製匂い袋をもぎ取る。
そして、二人はそのままポスポスとそれを叩き始め、そのせいで周囲はお花のいい香りに包まれた。
あ、いい匂〜い!
そんなグッドスメルの中、ジンさん達はトロンとした目をして大人しくなり、ポッポ鳥は全員気絶した。
あと、動けるのは────レオンのみ!
それを確認した俺は、キラリッと目を光らせ、直ぐにレオンの耳元に口を寄せる。
「お腹すいた〜♫お腹すいたーご飯た〜べよ♬」
そのままお歌混じりに何度も必死にお誘いをし、そこでやっとレオンが落ち着いてくれた様だ。
何と言っても、今はちょうどお昼時……お腹が減ると良いことはない!────ということで、こうしてランチをしてから出発することになったのだ。
皆、鳥さん相手に何をしているんだ……。
呆れながら少し離れた場所を見れば、舌を出しグテ〜としている先ほど暴れていた凶暴なポッポ鳥と、寄せ集まってビクビクしている残りのポッポ鳥達がいる。
鳥さんも少し休憩したら落ち着くだろうと、皆の分の昼食を取りに、馬車の後方へと移動する事にした。
大体の馬車は、本来後ろに小さな収納庫があるそうだが、この高級馬車はひと味違う。
その名もズバリ<多次元収納庫>!
特殊な空間系魔法で作られた魔法の収納庫がついているのだ。
つまり見た目以上に収納庫が大きく広げられていて、その容量はものによって違うがこの馬車の容量はなんと5LDKほど!これは驚異的な広さらしい。
勿論俺たちの荷物は全てこの中に入れ放題、何時でも出し入れ可能なわけで、前世で短期の引っ越しアルバイトを経験した事ある俺としては、是が非でも欲しかったと思う凄い魔道具の一つだ。
ちなみにこの<多次元>シリーズは、格納庫だけではなくバックなどの持ち運びができるタイプのものもあり、そちらは冒険者や傭兵に大人気。
しかしこれだけの性能、やはりというかものすご〜く高い!
畳一畳分の広さを持つ多次元バックですら、ちょっとした家が建てられるくらいの値段がするため、それ以上の広さを持つこの馬車のレンタル代ははたしておいくらか……それを考えるだけで、元庶民の俺はガクブルと震えてしまう。
そんなアホみたいにお高い多次元シリーズ。
魔道具だけではなく商人系の資質持ちの人がこの能力をスキルとして発現することが稀にあるらしい。
しかし、その能力は稀少な上、たとえ発現したとしても小指ほどの大きさだった────なんてことがざらにあるほど、この空間系スキルは一筋縄ではいかないのだとか……。
何となく青い未来ロボットを思い出しながら、俺は格納庫を開く。
そして次々とアントン特性のお弁当ランチを取り出しレオンの手の上に乗せていくと、それに気づいたモルトとニールがささっと手伝ってくれて、レジャーシートの上にお弁当を並べた。
すると、アントンの作った彩り鮮やかな素晴らしい料理の数々に、一同ワッと歓声をあげる。
「ほっ、ホントにコレ食べてもいいんですか!?」
ダラダラとよだれを垂らしながらレイラさんが言う。
「勿論だよ!アントンの料理は最高なんだ。皆で食べよう!」
俺の言葉を聞いて、わぁ────!と喜ぶレイラさん達をニコニコと見ながら、俺も座った。
胡座をかいて先に座ったレオンの上に。
「「「「…………。」」」」
一瞬で凍りついたその場の空気などなんのその。
アントンの素晴らしい料理の数々にどれから食べようかな〜と迷いつつ、とりあえず甘じょっぱいタレが最高のアントン特性ミートボールに手をつける。
「これ、俺大好き!」
ハフハフと一心不乱に食べながら、途中途中で後ろに座るレオンの口にも放り込んであげると、レオンはその度にホワッとした空気を醸し出し『俺もこれが好き〜!』という事を目で伝えてくる。
いいよいいよ〜!たんと食べて大きくなるんだよ〜!
ニコニコしながら、そうやって交互にご飯を食べていると、ジンさん達が一切料理に手をつけていない事に気づいた。
──あれ??
不思議に思い、モルトとニールの方を見れば、普通にニコニコと機嫌良さそうに食べている事から、別に料理に問題はなさそう。
しかし4人は物凄く不自然に俺から視線をそらし、しかもフォークを持つ手がわずかに震えているようだ。
「あ、もしかして食べられないものでもあった?他にも沢山種類があるからとってくるよ。」
「────えっ!!……いえいえ!!違うんです!
あの……俺たち全員生粋の平民出でして……貴族様のマナーや常識を知らないものですから……。その……。」
ゴニョゴニョと言いにくそうに話すジンさんの顔を押しのけ、シュリさんが慌てた様に横から口を挟んでくる。
「本当に無知で申し訳ありません!────でも、そ、そうですよね!お貴族様はお食事も、その……そ、そうやって従者に与えるのが『常識』なのですね!
なんとお優しい習慣なのでしょう!良い勉強になりました。」
シュリさんの言葉にレイラさんとヘリオさんは、錆びついたブリキ人形の様に頷いたが、モルトとニールが間髪入れずに「「そんな常識はない(っす〜)。」」ときっぱり告げた。
すると4人は、動きを止めて固まる。
……そうだった。
自分の状況を冷静に確認し、ニッコリと笑顔を浮かべたまま俺も固まった。
なんてったって俺の今の状況は、客観的な目線で考えると……。
会社での食事会の時、運ばれてきた料理にワッ!と盛り上がってワイワイしている最中、いきなり日頃から意地悪してくる上司が入ってくる。
そしてなんのためらいも断りもなく、既に座っている部下の上にドスーンと座り込みこみ、自分の食べかけの料理を、その部下に無理やり食べさせるのだ。
これはこれは……周りも俺もドン引きだ!
その場にいたら、「何々〜?俺の隣、空いてるからこっちにお座りよ。」って言うね、確実に。
「さぁ冗談は置いておいて、これがレオンの分だよ〜。」
俺は慌てて新しいお弁当を掴むと、レオンにそれを渡した。
するとレオンはニコッと口元を緩ませ、お弁当の中に入っているミートボールをフォークで突き刺すと、自然な流れで俺の口元へ。
それを思わず反射的に口に入れ、おいし〜!とその美味しさに舌鼓をうっていると、一瞬で我に返り、違う違うと首を振った。
これでは自分の分だけでは足らずにレオンの分のミートボールまでよこせと、無理やり催促した様ではないか!
そう思いながらチラリとジンさん達に視線を向ければ、あからさまに視線をそらしたままお弁当をもっそもっそと食べていた。
「…………うん。」
人間関係は初手で間違えると、修復は難しい。
完全に選択肢を間違えた事、そしてこれ以上の改善は望めないことを悟り、俺は皆の食事が終わるのをそのまま黙って見守るしかなかった。




