(ランド)167 VSカルパス(前半)
(ランド)
「私ほど、この<結界人>の能力を使いこなせる者などいやしない……私は天才だ……っ……! 」
怒りで体を震わせながら、ブツブツと『真実』を叫ぶ。
私の存在する幸せで『正しい世界』を、この執事は認めようとせず、私を弾いた『偽物の世界』こそが幸せな世界であると、そう言い切ったのだ。
こんな不届きな輩、楽になど殺してなるものか
最大限に苦痛を与えてから殺してやる!!
私は、残りの仲間達に目で合図を送る。
すると仲間達はお互いに距離をとりながら、私の前に横並びになり、戦闘配置についた。
私のスキル<完全監獄>は、内側からは絶対に解くことは出来ない最上級の結界スキル。
しかしそのかわりに、自身の両手で作った円の中に対象の姿を一瞬捉える事と、その後の持続的な魔力供給が必要となる。
そのため魔力を温存しつつ、前衛に戦わせながら隙をみてその姿を捉える────それを達成すれば私の勝ち。
何をしたのかは不明だが……デバフ封じに加え、流石に本気モードになったこの人数相手では逃げ切る事はできまい。
「残念なのはそちらの方ですよ。弱者の義務というものを、私が教えて差し上げましょう。耳も頭もイカれたクソ野郎が!!」
余裕そうに笑うカルパスの顔に、心底イラッとさせられ怒鳴りつけると、私は前に並ぶ仲間達に攻撃の合図を出した。
すると、その場の全員が身体強化を唱え、これから一気に攻撃をする────はずが……何故か一番右端の仲間の男だけ身体強化を唱える気配を見せない。
「…………?」
私と他の仲間達がそれに気づくと、その右端の仲間から『ポタ……。』という控えめな水音が聞こえたため、全員で盛大に呆れてしまった。
「……まじかよ。お前漏らしたのかよ。」
「うわ……情けね────……。」
漏らしたであろう男のすぐ近くにいる仲間達が、不快な顔を隠さずソイツの方へ視線を向けると────何故か言葉が不自然に途切れる。
「一体どうし────……。」
怪訝な顔で同じ方向へ視線を向けた私の言葉も、不自然に途切れてしまった。
なぜなら────見上げるくらいの巨大な二足歩行の黒い犬の化け物が、右端の仲間の頭を咥えていたからだ。
「────ヒッ!!!」
「……なっ……あ……あ……。」
「ば、化け物……っ。」
体長は4〜5mはありそうな毛むくじゃらな巨体で、咥えられた仲間の体は高く宙に浮いている。
そして仲間の体を伝っていく真っ赤な血が、足先から滴り落ちては、ポタポタと音を立てて地面に落ちていた様だ。
「「「「う……うわぁぁぁぁ────!!!!!!」」」」
全員が悲鳴を上げて、それから距離をとる。
いつの間に……いつの間にこんな化け物現れた!!??
気配すら感じず現れた化け物。
恐怖に震えながら、全員がその存在に目を釘付けにしていると、なんと頭を咥えられている仲間は生きている様で……こちらに向かって懸命に手を伸ばしてくる。
「た……助け────っ。」
────ゴキンッ!!!
化け物は、その言葉を最後まで待たずに仲間の頭を噛み砕いた。
「────っ……っ!!!」
息を飲んだまま動けない私たちの前で、バキバキ!という骨が噛み砕かれる音だけが静まり返ったその場で響く。
「そ……そんな……。」
「う、嘘だろう……?」
頭を失い地面に落下した仲間だったモノを見て、自然と足は後ろに下がっていった。
そんな中、突如仲間の一人が何かを思い出したかの様にボソッと呟く。
「お、おい……。あ、あれってもしかして……<アサシン・ワーウルフ>じゃねえか……?」
< アサシン・ワーウルフ >
体長3〜4mの半狼半人型Bランクモンスター。
鋭い爪と牙を持ち、高い物理攻撃力とスピードを駆使し人を襲ってくる。
その際全く気配を感じず気がつけばやられていたという事が多いためアサシンの名がつけられた。
また群れで暮らす際、人の住むような集落を作り王政を築いている事から知能もトップレベルで高い。
「ばッ馬鹿な!!Bランクモンスターですよ!?そんなモンスターがな、なぜこんなところにいるんですかっ……!!」
あり得ない話に、私は大声で叫んだ。
Bランクモンスターは、並の傭兵が束になってかかっても一瞬で殺されるほどの実力をもつ。
そんなBランクモンスターアサシン・ワーウルフの恐ろしさは、単純な個体自体の強さと、集団で襲いかかってくるところで、集団相手なら討伐難易度はSランク。
更に王政を築いているこのモンスターは、やっと集団を蹴散らしても、その中で最も強い個体である王が控えている厄介なモンスターだ。
逃げなくては!!
焦りと不安でいっぱいになりながら、直ぐに逃げることを考えたが……逆にこの状況はチャンスでもある。
私は、チラッと涼しい顔をしている憎たらしいカルパスへ視線を向けた。
なんとかしてあいつを囮にできれば……っ!
全員がそう思ったその時、ワーウルフはダッ!と執事めがけて飛んでいく。
────しめたっ!!!!
奴が囮になっている隙に離脱できる!と、その場から逃げようとしたが、目の前に写った光景に目を見開いた。
なんとアサシン・ワーウルフが、執事の前でゴロンと転がり腹を見せていたからだ。
更にはまるで普通の犬のように尻尾をブンブンと振り、撫でてくれと必死にアピールまでしている。
「は……はぁ??」
ポカンとしながらその様を見ていると、執事は屈み込み豪快にワーウルフの腹部を撫でた。
「この子は私の従魔ですので、ここにいるのは当然でしょう?」
「う……うそです!そんな高ランクモンスター、どうやってっ……!!」
そんな高ランクモンスターを従えた【影従士】など聞いたことがない。
何か特別な方法を使ったに違いないと、確信を持ってそう言ったが……執事から帰ってきたのは不思議そうに首をかしげる仕草だった。
「そんなの簡単ですよ。完膚なきまでに叩き潰す、殴る、服従させる、ただそれだけです。
まぁ、流石にこの子を従えるのは骨が折れましたがね。なにせ集団で襲ってくるもんですから。」
「────っ!!?」
こいつは集団で襲ってくるワーウルフの群れを倒したと、本気でそう言っているのか?




