(クラン)159 VSクラン
(クラン)
僕、ことクランは小さな花屋を営む平民の家で生まれ、ごく一般的な家庭の中で、すくすくと育っていった。
しかし、両親は常に僕を心配していたらしい。
────というのも……僕は物心付く前から花にしか興味を示さず、勉強も植物に関してのみしかしなかったからだ。
友達と遊びにもいかず、暇さえあれば常に土いじり……そんな僕を見て、両親はあれやこれやと他に興味を向けようとしたが、最後はとうとう諦めたらしい。
『それがお前の個性なんだろう。好きにやってみろ。』
苦笑いしながらも、母も父も応援してくれる様になった。
その後は両親の手伝いもしながら、『将来は自分だけの庭園を作ってみたい。』、そんな夢を抱く様になり、毎日毎日必死に自分の知識と技術を学び続ける。
するとその甲斐あってか、なんと、小学院の卒業後はある子爵の家の庭師として雇って貰えることになったのだ。
もうすぐ夢が叶うんだ!
そんな希望に満ち溢れていた中、最後に受けた資質鑑定で────……僕は絶望する事になった。
告げられた資質は<毒花人 >
それは植物の成長促進や性質変化を得意とし、それに関した特化能力をもつ生産型下級資質だが、普通の花を一瞬で毒花に変えることもできるため一般的には忌み嫌われる資質だ。
勿論その時点で就職先はパァ!
せっかく叶いそうだった夢は、全て消え去ってしまったのだ。
しかし────僕は自分の夢を諦めきれなかった。
『どうか僕を雇って下さい!』
『毒花など、育てる事は絶対にしませんから!』
そう必死に訴えながら、何軒も何軒も貴族や富裕層の自宅を周り、庭師として雇って欲しいと頼み込む。
しかし、結果どこも雇ってくれず、時には水を掛けられたり守衛に殴られて追い払われる事もあった。
両親はそれを痛々しそうに見つめながら、僕が諦めるのを待っているようだった。
『花とは関係のない仕事も楽しいぞ。』
『趣味で花を育てるというのも良いと思うわ。』
両親なりに僕の行く末を心配し、気遣いながら別の道を勧めてきたが、僕はその全てを断り、街を出て探すことを選んだ。
庭師として雇ってくれるところを探す。
もちろんその目的が主だったが、もう一つの理由としては、僕がいることで実家の花屋に悪い評判が立ち始めている事が申し訳なかったからだ。
『花屋の息子が毒持ち』などと、裏で言われ始めている事に気づいたのは偶然だったが、確かにそのとおり。
今まで気付けなかった事で、両親にも弟にも迷惑をかけてしまったと悲しい気持ちになった。
きっと一番良いのは、僕がどこか花に関係しない仕事につけばいい事だろうな……。
それは分かっていたがどうしても諦められなくて……僕は家を出る選択肢を選び、今まで見守ってくれていた家族に別れを告げる。
両親の店は、資質鑑定でふさわしい資質を告げられた弟が継ぐ。
だから、自由に探しに行ける事が本当に嬉しくて、家族にはとても感謝した。
『もう何も言わん。好きにやってみろ。』
『元気でね。』
『店は心配しないでくれよ。』
両親も弟も泣きながらも最後は応援してくれて、僕は街を出たのだった。
それから街々を転々と歩き周り、貴族や富裕層の屋敷を尋ねては追い返され、尋ねては追い返され……。
その連続でとうとう所持金も尽き、僕は流れる川の側で絶望していた。
「……もう無理なんだろうな……全部……。」
ボソッと呟き、僕は全てを理解する。
そんな事は分かっていた。
この資質を告げられた日から、僕の夢は全て終わってしまった事、忌み嫌われる資質を与えられた僕の存在は、この世界に必要ないものである事。
そして、僕は世界に拒絶され、今後決して受け入れられることはないだろうという事を……。
「……分かってる……分かっているけど、どうしても諦めることができない……っ。」
夢も叶わず、このまま生きる屍として生きるくらいなら、いっそっ……っ!
絶望に染まった目で川を覗き込んだ、その時────……。
「川綺麗だね〜。お魚いる?」
そんなのんびりとした声と共に、川に写る自分の顔の後ろからひょっこりと一人のおじいさんが顔を覗かせる。
茶色い髪に緑の目の平凡な顔立ち。
唯一印象に残るのは鼻周りのそばかすだけ……。
そんなどこにでもいそうな60代くらいのおじいさんが、ニコニコしながら僕に話しかけてきた。
「た、確かに綺麗ですね。お魚も……いるみたいですよ……。」
そう普通に答えると、おじいさんは「そっか〜!」と言いながら、僕の隣に座ってペラペラと話しかけてくる。
「レガーノには初めてきたのかい?観光なら東に綺麗な花畑があるし、西にはチーズがお勧めの牧場があるよ。」
「あ……いえ……僕は、観光ではないので大丈夫です。」
なんだかマイペースなおじいさんだな……。
そう思いながらその人の方へ恐る恐る視線を向けると、なんとおじいさんはそのままゴロンと転がってしまった。
「いい天気だし、このまま寝ちゃおうかな〜!」
そして盛大な独り言を呟いた後、目を閉じてしまう。
「…………。」
そんな緩やかな雰囲気に、気がつけば僕は自身の胸の内をこの会って間もないおじいさんに打ち明けていた。
話しながらも、『こんな事言っても何も解決しないし、それどころか引かれてしまうかも』そんな不安があったが、一度口から飛び出た言葉は止まってくれない。
結局そのまま全てを話し終わり、一体何をしているんだと頭を抱えたその時、突然おじいさんが目を閉じたまま口を開いた。
「毒があると駄目なの?」
「そ……それは……。」
駄目に決まっている。
そう思った僕は即座に「勿論駄目に決まってます。」と答えた。
毒があるから、誰も僕を受け入れてくれない。
毒花など忌み嫌われる存在を抱えて生まれた僕は、世界に拒絶される人間だ!
また徐々に暗くなっていく思考の中、おじいさんは目を閉じたまま、う〜ん?不思議そうな顔をする。
「……例えばさ、人間って生まれたての赤ちゃんからスタートだろう?
赤ちゃんは、まだ何にも持ってないんだ。」
急に何の話だろう?
そう思ったが────とりあえず僕は頷いた。
すると、おじいさんは口端を少しだけ上げて、そのまままた話し始める。
「────で、そこから色々経験して色々な『個性』が生まれていくだろう?
俺はね、それが凄く好きなんだ。
『個性』って、その人それぞれが持っているワクワクの固まりだと思うんだよ。
いわば、その人の人生そのものと言えるし、そんな色々な『個性』を持っている人間と関わるのって、俺は凄く楽しいよ。」
「そ……そうですか……。」
なぜ今その話をするのかは分からなかったが、何故か、その話は心にズシリと来た様な気がして……。
だからそのまま続きを聞きたくて真剣に耳を傾けていると、おじいさんは更に口端を上に上げて笑みを浮かべた様に見えた。
「あんまり人から受け入れてもらえにくい『個性』も沢山あると思うけど、それはそれでいいんだ。
それがその人の魅力なんだから。だからさ────……。」
────パチッ!
おじいさんは勢いよく目を開けて、僕の目を真っ直ぐに見つめてくる。
その瞳はキラキラと輝いていて、しょぼくれた自分が写っている事がとても不釣り合いに感じた。
「毒もその花の大事な『個性』だ。
俺は毒花も、とても魅力的だと思うよ。」
それを聞いた瞬間────……僕の目から涙が零れた。
だって……その通りだと思ったから!
「〜〜……っ……ぼ、僕は……っ……。」
ポロポロと止まらない涙を流しながら、今までの自分の人生を振り返る。
僕は花を育てることが好きで、毒があろうと無かろうととても綺麗だと思う。
でも毒を持つことがあまりにも受け入れて貰えないから……いつの間にかその『個性』を僕は否定してしまっていたのだ。
それは僕の資質を散々否定してきた人達と同じ。
こんな絶望するくらい悲しい想いを────僕はずっと大好きな花達にさせていたという事だ。
「……っ……ごめんなさい……ごめん……。」
否定される度に悲しかった気持ちが次から次へと頭に浮かび、同時に罪悪と後悔、懺悔の気持ちが湧き上がる。
そしてそんな忌み嫌われる僕の『個性』を、ずっと応援してくれた家族を思うと、とうとうワンワンと大声を上げて泣いてしまった。
「ハハッ!これからも頑張れ。」
おじいさんは嬉しそうに笑った後、また目を閉じてしまったので、もしかして眠ってしまったのかもしれない。
そのためその場には、随分と長い間自分の鳴き声のみが響いていたと思う。
そうして気が済むまで泣いて泣いて……フッと気がつけば、そのおじいさんは最初からいなかったかのように消えていた。
「……?あ、あれ……??」
まるで狐につままれたような気分になったが……確かに変わった心がそのおじいさんが存在していた何よりの証拠だと思った。
僕は涙を拭き、なんとなくその場で頭を深々と下げると、この街で最後の貴族邸であるメルンブルク家の門を叩く。
そして、その屋敷の責任者だというカルパス様に堂々と言った。
「どうか庭師として雇って下さい。資質は────<毒花人>です!」
もう僕は、この『個性』を否定しない。
たとえ誰一人として認めてくれない、世界が拒絶する『個性』だとしても、僕はそれを誇って生きていこうと心に誓った。
しかし、最初からこんな言い方では、きっと今回も駄目だろうな……。そう思ったが、それを今後曲げる事はしない。
そのままバッと頭を下げて、カルパスさんの答えを待っていると、彼の口から飛び出したのは────「是非雇いたい。」という言葉だった。
「〜〜っありがとうございます!」
この瞬間が僕の…………クランの長年の夢が叶った瞬間であった。
そうして庭師として正式に雇われ、夢を叶えた僕。
当然、その後直ぐに屋敷の当主であるリーフ様に初めて会ったのだが────僕は非常に驚かされる事になる。
当時三才だったリーフ様が、あまりにもあのおじいさんと似ていたからだ。
祖父……?親戚……?
その可能性を考えてカルパス様にその存在を尋ねたが、そんな特徴をもつ者はいないときっぱりと否定され、更には現在置かれているリーフ様の現状を知った。
それを聞いた後、辞退してもいいというカルパス様に、僕は直ぐに首を横に振る。
生まれた瞬間からその『個性』を否定されたリーフ様。
なら、僕はその拒絶されてしまった『個性』を代りに愛そう。
僕はリーフ様の兄の様に、時には友の様に、その魅力をリーフ様に伝えたい。
自分があのおじいさんに救われた時と同じ様に……そう願った。
今、僕にできるのは、綺麗な花を咲かしてリーフ様を笑顔にすること。
そして────……。
リーフ様と仲間たちを害そうとする者達を全てを排除すること。
それがこのクランの恩返し、そして新たな人生だ。




