(傭兵たち)158 迷子の迷子の……
(傭兵達)
「へへっ、なんだよ。<守衛師>なんざ、全然大したことねぇじゃねえか!あっさり中に入れたぜ。」
傭兵達は正門を抜け、広い迷路の様になっている庭園を走りながら一斉に笑い出す。
数は数十名。
かなりのスピードで進んでいるため、随分と広い庭園だが5分もしない内に屋敷に到着するだろう。
そう傭兵達は、確信を持っていた。
「いくら中級資質ってもピンきりだからな。
希少価値が高いっつーだけで全然大したことない資質もゴロゴロあるし、<守衛師>もその類だったんだろう。
まぁ、そもそも消す予定のボクちゃんに、そんな優秀な兵士なんて雇わねんじゃね?」
「ちがいねぇ!」
「ギャハハっ!」
的を得た意見に、またドッと笑い声が響く。
傭兵たちは、もうすぐ金、名誉、名声、その全てが手に入ると考えご機嫌だ。
そんな中、一人の傭兵が口端を大きく歪めながら口を開いた。
「このまま屋敷に侵入して、金目のものは根こそぎ奪うぞ。
屋敷にいる奴らはザイール達がやるって話だが……要は殺さなきゃいいんだよな?」
その意味を理解した面々は、同じく口元を歪めて、ニタ〜と笑う。
「おいおい、お前直前まで娼館で遊んでたんだろう?」
「へへっ、いいじゃねぇか。どうせ殺すんだったらその前に使ったってよ。
女が大当たりだな。後は優男が一人と……まあ、華奢ならいけるかな〜?
もうひとりの男は……あ〜、ごつすぎて無理。
あとリーフ様も手指が動かねぇ顔だよな、ただのガキだしションベン臭くて。」
「俺、男だったらパス〜、とりあえずボコって楽しもうかな〜!」
足を動かしながらワイワイと楽しくおしゃべりしていたが、次第に口数は減っていき、全員の顔に焦りが出てきた。
もう既に15分は経っている。
なのに、庭園の景色はなにも変わらず美しい色とりどりの花が咲き乱れ、目を楽しませるだけだった。
まぁ、もっとも、花を見て美しいと想うような上品な感性を持っている者は一人もいないが……。
「……おいっ、なんか変じゃねえか?こんなに走ってるのにまだ屋敷の前に辿りつかねえぞ?」
一人の男がそう声を上げると、全員が足を止め、改めて周囲を見渡した。
周りはまるで壁のように並び立つ緑に覆われた景色と、それを飾る色とりどりの花々が咲き乱れ……まるで花で作られた監獄のようだ。
────ゾッ……。
美しい光景の中、全員の背筋には悪寒が走る。
「……い、一度戻るか。」
「あ、あぁ……。」
「そうだな。」
嫌な予感に震えながら、全員元来た道を引き返し始めた。
しかし────……行けども行けども景色は同じ。
まるで同じ道を無限にループしている様で……その状況に痺れを切らした一人の男が、足を止めて怒鳴り散らす。
「ちきしょう!!どうなってやがる!!なんでついさっき入ってきた入り口すら見つからねえんだよ!!!
それどころか景色1つ変わらねえじゃねえかっ!!!」
恐怖を祓う様に苛立たしげに足を踏み鳴らした男によって、全員が足を止めてざわつき出した。
「先が全然見えねぇ……。そんなに広いわけが……。」
「そもそも全力疾走している傭兵の足だぞ?それでこんな……。」
動揺を隠せなくなった傭兵達は、イライラをぶつけるように壁のように立つ緑の葉や花を蹴り飛ばす。
その瞬間────……。
────ゴゴゴゴ!!!
大きな音を立てて、蹴飛ばし茎を折った葉や花達が凄まじいスピードで再生していった。
それにギョッ!と目を剥く傭兵達を他所に、周りの景色はあっという間に元の状態へと戻ってしまう。
「な、な、な……!!」
「ば……バカな……!!」
信じられない光景を目にした傭兵達は、呆然としたまま立ち尽くしていると────その様子をあざ笑うかの様に、空一杯に女の無邪気な笑い声が鳴り響いた。
《キャハハハハ〜!!!》
「ま……まさか……。」
ここで傭兵達は一斉に青ざめ……やっと自分達が敵の術中に嵌っている事に気がついた様だ。
< 迷い人の資質 >(ユニーク固有スキル)
無限迷子
自身がテリトリーと決めた場所に巨大迷路を出現させ、敵をその中に閉じ込める空間系スキル。
迷路は無限に増やす事ができ、またその構造も好きに構成できるため一度入ってしまえば出る事は非常に困難。
また任意ではなく自動発動も可。
(発現条件)
心に巣食う感情の迷路を解き、その答えに3回以上たどり着くこと。
ある一定以上の魔力、魔力操作を持つこと
一定以上のポジティブ、聡明、決断力を持つこと
リーフ邸の専属侍女、ジェーンの資質は<迷い人>。
特に突出した能力も無いとされる下級資質であったが、ある時を境にその才能は開花し始める。
その中でももっとも強力、かつ稀有なスキル<無限迷子>は、常にリーフ邸を覆っており、彼女が承認しなければ屋敷にたどり着くことすらできない。
「────!!くそがっ!!空間系のスキル持ちがいるなんて聞いてねえぞ!!
これじゃあ誰一人外に出れねえじゃねえか!!」
再生すると分かっているが、男は苛立ちを抑えきれず剣で周りの花をぶった斬る。
全員が忌々しそうに顔を歪め、なんとか脱出を……!と策を練っていたその時────突然花を斬った男が、バターンと倒れた。
「────はっ??」
「こんな時に悪ふざけは止めろよ、クソが。」
まるで糸が切れたかの様な倒れ方に、ふざけていると思った全員が呆れながら、倒れた男を責めたが────男は起き上がろうとしない。
「────おいっ!!止めろって言って────……。」
もっとも近くにいた別の男が、怒鳴りつけながら屈んでその顔を覗き込んだが、その言葉は中途半端に途切れた。
何故なら倒れている男の顔は、恐怖に大きく歪んでおり、汗を大量に掻きながら目で必死に何かを訴えようとしていたからだ。
「────ひっ!!」
顔を覗き込んだ男が、悲鳴をあげて後退りしようとしたのだが、その男も糸が切れた人形の様にバタンと倒れ込んだ。
「「「────っ!!??」」」
その様子を見た仲間達は、ただごとではない事を察知し慌てて武器を構えたが、一人、また一人と次々に傭兵たちは倒れていく。
そして、ほぼ全員が倒れてしまった中、立っていたのは一人だけだった。
「一体どうなっていやがる……?」
唯一立っている男は、倒れてしまった仲間たちを呆然と見下ろし呟いた、その時────……。
「おや?一人、毒の耐性持ちがいましたか。」
穏やかな若い男の声がして、直ぐにそちらに視線を向けると、視線の先には一人のニコニコと笑う優男の姿があった。
「お、お前は……っ!!」
警戒を強めて睨みつける傭兵の男に向かい、優男は落ち着いた様子で、胸に手を当て一礼する。
「こんばんは。ボクはリーフ様の専属庭師のクランと申します。
ボクの庭園へようこそ、侵入者の皆さん。」




