(ザィール)153 暗殺者到来
(ザイール)
光の入らぬ暗い森の中、俺達は手筈通りそれぞれ配置についた。
今夜、依頼があった『化け物退治』と、その『ついで』を始末するために。
「くくっ……。随分と楽な仕事だな。」
ここから屋敷へは、もう目と鼻の先。
ニヤつきながら、俺は大きく聳え立つ屋敷を見上げた。
これから同時に突入し、相手が反撃する暇を与えることなく一方的な蹂躙を開始する。
「さぁ、楽しい楽しい時間の始まりだ。」
逸る気持ちを抑え、手にした情報を頭の中で一つ一つ確認していった。
諜報担当の奴らに詳しい内情を調べさせた結果、概ね依頼者の言った通り、ここは公爵家とは名乗れないレベルの脆弱な守りしかない様だ。
使用人は全部で数人。
目立ったトラップなどの情報はなし。
これでは、襲われるのを大歓迎しているようにしか見えない酷いものだった。
そして、これこそこの家のご子息が、捨て置かれている確かな証拠でもある。
「可哀想になぁ?だが、恨むなら運がなかったテメェを恨んでくれよな。」
思わずプッ!と吹き出してしまったが、そんな捨て置かれた子息の家でも、金はたんまりとある様だ。
それは、よくここの従者と侍女が、そのご子息のものと思われる高価な品物を購入している姿から間違いない。
「報告があった持ち物は、全て極上品……。盗んで売れば一財産築く事ができそうだ。」
ついハハッ!と大声で笑ってしまって、慌てて口元を押さえて止める。
まぁ、大声を出して気付かれた所で問題ないが、一応……な?
楽勝すぎる仕事に若干物足りなさを感じながら、同時に唯一の気がかりだった人物を思い浮かべる。
この家の家庭教師を務めていた<ドノバン>。
奴は元第二騎士団団長で、その強さから【赤き鬼神】と呼ばれていた男だ。
ただ、騎士団を辞めるきっかけになったのが、自身の息子に負けてその座を奪われたらしいので……実際の実力は分からない。
とりあえず一応用心にこしたことはないと、奴が屋敷を去ったのを見計らってから、作戦を開始することにしたのだ。
《────こちらは配置につきましたよリーダー。そっちの守備はどうですか?》
物思いに耽っていたその時、耳にさした通信用魔道具から、上機嫌なボブの声が聞こえた。
その声に我に返り、俺は直ぐに返事を返す。
「あぁ、こっちも問題ない。このまま森を突っ切れば『化け物』のいる小屋を襲撃できる。ランドの方はどうだ?」
《はい。こちらも準備オーケーですよ。他の皆さんも大丈夫のようですね。》
ボブとランドから、問題ないという報告を受け、俺は満足気に頷いた。
正門はボブと仲間の傭兵数十名。
公爵子息がいるであろう本邸の部屋、その直線上の森の中にランドと残りの仲間数十名。
そして化け物が住んでいる小屋の直線上の森の中に、俺と残りの仲間数十名が、それぞれ配置についている。
諜報からの情報によると、この本邸にいる執事が小動物を操り屋敷周辺を見張っているらしいので、まずはボブが正面から堂々と侵入し、そちらに気を取られている隙に、俺とランドが気配を殺してそれぞれのターゲットに近づく。
そして…………あとは、簡単だろ?
「非力な執事如きじゃあ防げねぇよな〜。残念ながら人生終了!俺たちの勝ち確定で〜す。」
パチパチと軽く拍手をしてやると、周りの仲間達からは吹き出す音が聞こえた。
執事の男の資質は<影従士>。
一応は中級資質ではあるが、主に諜報に長けているとされるため、直接戦闘になればそのプロである俺たちには絶対に勝てない。
動物やモンスターを従わせるにしても自身の力で屈服させなければならないらしく、その使役できるモンスターは本人の強さ以下、つまりできてFランクがいいところだろう。
ご子息様の部屋の近くにいるため戦闘になれば出てくるだろうが……ランドと傭兵数十人相手では1分も持たないと思われる。
フッ……と鼻で笑った後、続いてボブがぶつかるであろう相手について考えた。
正面門を守るのは、唯一の戦闘系中級資質<守衛師>をもつ女守衛だ。
その資質は守りに特化し、特に自分のテリトリーと決めた家には簡単に侵入を許さない。
そのため、それを突破していくのは至難の業だが……その反面、攻撃力は凡庸でパワー系で押せば押し切れると、高火力アタッカーであるボブが担当することになったのだ。
結果、俺の担当は『呪いの化け物』に……。
大いに不服だが、その分残った屋敷の女と庭師の男は俺が頂く事になったから良しとする。
「正直、死んだ瞬間発動する呪いがあるかもしれねぇし、面倒だが……そん時は瀕死の状態で放置すれば大丈夫だろう。
ククッ、死なない程度に楽しませてもらおうか。」
呪われているとはいえ中々容姿が整っている『化け物』が、死の恐怖に慄きながらゆっくりと刻まれていく姿。
そして、その後は泣いて逃げ回る女や男の姿を想像すると、興奮を抑えきれず勃起しそうになったところで、ボブから突撃したとの連絡が入った。
もう少しの我慢……我慢……♬
そうして鼻歌を歌いながら気配を消し、一歩前に進み出ると────突然ゾッとするほどの気配を感じた。
「────っ!!??」
傭兵としての勘が働き、慌てて後ろに飛ぶと────……。
────ドンッ!!
大きな音と共に、今までいた自分がいた場所の地面が飴細工のように溶けてしまった。
「────なっ……!!」
直ぐに腰ベルトから二本のダガーを引き抜き両手に構えると、闇夜に紛れて一人の人物がのっそりのっそりと姿を現す。
「ほほ〜。結構勘がするどいじゃ〜ね〜か。三下傭兵としては上々じゃね?」
肩に大剣を背負い、2mはあろうかという恵まれた体格に、気の抜けた顔がミスマッチな男……この場にいるはずのない男の姿に、周りの仲間たちはざわついた。
勿論俺も動揺していたが、それを必死に隠しながら、その人物を睨みつける。
「……なんでてめぇがここにいやがるんだ。元第二騎士団団長のドノバン様よー。」
冷や汗を掻きながらそう吐き捨てると、ドノバンは人を茶化すような腹が立つ顔でニタアァァと笑った。




