147 大樹の記憶
誤字のご指摘ありがとうございます〜⸜( ˃̣̣̥᷄ᯅ˂̣̣̥᷅ )⸝
☆リーフさんと女性のちょっとした絡みがありますので少し注意ですm(_ _)m
(リーフ)
結局それから色々なお店を見て回ったが、残念ながらレオンが興味を持つものは1つも見つからず……。
仕方がないので、俺達は街で人気の〈肉パン焼き〉を買って教会近くの広場へ向かう。
そこは教会がすぐそこにある広い広場で、休みの日にはそれなりに人が集まるが、平日の日中である今は、ポツポツと人がまばらにいるくらい。
近くの木の根本にレオンと並んで座り、何となく人の流れを見ていると、レオンは買った服を隣に置き、買った肉パン焼きを手渡してくれた。
肉パン焼きはカレーパンに近い感じで、外はカリカリ、中身は大振りのお肉がゴロゴロ入ったシチューがパンパンに詰まっている人気のパンだ。
「ありがとう。うわぁ〜……美味しそうな匂い!」
レオンに御礼を告げそれを受け取ると、早速パクリと一口齧る。
すると、じゅわっと広がるシチューの優しいミルクとバターの味と塩コショウの刺激的な味に、続いてやってくるのはホロホロ溶ける柔らかい肉の味だ。
「〜っ……うぅ〜……っ!」
思わず唸ってしまうほどの美味しさ!
口の中は、美味しいのお祭りだ。
そのまま熱々、旨々なパンを堪能しながら、レオンにも与えつつ、自分も一心不乱に食べていると────……。
────リンゴ〜ン、リンゴ〜ン!
大きな鐘の音が、教会から聞こえてきた。
「……?」
思わず音がした方をみれば、近くに建っている教会から白いタキシードを着た男性と純白の可愛らしいドレスを着た女性が出てきたのが目に入る。
どうやら今日は、教会で結婚式が行われていた様だ。
「綺麗だな〜。」
視線の先には、幸せそうに寄り添い笑い合う、花婿と花嫁。
そんな主役達の後に続いて出てきたのは『おめでとう〜。』と口々にお祝いの言葉を投げながら花をばら撒く人々だった。
それは、とても綺麗で……幸せに溢れた光景だ。
「…………。」
そんな幸せの象徴のような景色を見て、俺は自分が〈森田 大樹〉だった頃を思い出す。
そして続けて、幼馴染の〈まき〉の事も、親友であった〈陽太〉の事も……。
◇◇◇◇
俺と<まき>は、同じ孤児院【りんごの家】で育った同じ年の……所謂幼馴染という関係だ。
出会いは小学校も半分が過ぎた頃。
まきは、突然りんごの家へ保護され、先生たちが騒いでいたのを覚えている。
ビクビク、オドオド……。
まきは、随分と周りの目を常に気にしている女の子で、平均よりだいぶ小さい体つきをしていた。
そんなまきは、先生が話しかけると引きつった顔をして笑い、他の子供たちが話しかけても、同じ様に無理した笑顔を浮かべて首を横に振る。
そうして気がつけば、部屋の隅に座って黙っている事が多い女の子だった。
その姿がなんとなく目につくようになって、様子を伺いながら見守っていたのだがだ、怖がりで気が弱いが自分なりになんでも頑張ろうとしているのに気づく。
そして、少しでもできると控えめな笑顔を見せてくれて……俺はある日、突然そんなまきが好きになっている事に気付いた。
俺は、まきが好き。じゃあ、早速告白しよう!────というわけにはいかず……。
もだもだと見つめるだけの長い長い片思いの期間が続き、とうとう高校を卒業する日まで来てしまった。
これからはバラバラ。下手をしたら、もう二度と会えないかもしれない……。
このままお別れになるなんて嫌だ!
唐突に湧き上がったその気持ちに従い、俺はここでやっとまきに、自分の気持ちを伝える決意をしたのだ。
顔は真っ赤だし呂律も回っておらず、渡した花もセンスがいいとは決して言えない酷いものだったと思うが……まきは泣きながら「嬉しい……っ!」と言って、その花を受け取ってくれた。
その時ほど、俺は自分が幸せ者だと思った瞬間はない。
「う、 受けいれてくれてあ”り”がどう”ぉ”ぉ”ぉ”〜! 」
俺は情けなくもびゃーびゃー泣きながら、これから一生まきと生きていこうと誓った。
それから俺とまきはお互い初のお付き合いというものを始めたが、それははたから見れば非常にマイペースなものだったと思う。
沢山お話をして、たどたどしく手を繋ぎ、休日は二人でお出かけ……そしてそれからだいぶ経ってから初めてのキス。
でもすごく幸せだった。
『愛』はこんなにも自分を幸せにしてくれるものだと初めて知り、それを与えてくれるまきを心から大事にしたいと思った。
だから俺は、『結婚するまでこれ以上、自分の気持ちだけで関係を進めない』と誓い、まだ結婚していないまきとはこれ以上関係を進めようとしなかった。
大事に……大事に……。
そうして何の問題もなく俺達の関係は続き、このままずっとずっと一緒にいれると思っていた。
────いや、思い込んでいたのだ。バカな俺は。
『そろそろ結婚を……。』
お互い意識した頃、俺は親友の陽太に「会って欲しい女性がいる。」と伝え、何だかんだで忙しかった陽太に、やっとまきを紹介する日がやってきた。
少し小洒落たレストランで、いつもよりちょっとだけ背伸びした格好をして、先にまきと約束していた店に着く。
なんだか親友に────じゃなくて、両親に紹介するようだ……。
ドキドキと緊張しながら、俺は陽太の到着を待った。
親友の陽太との出会いは高校生の時。
その時は同じクラスのクラスメイトであったが、そこまで親しく話した事が無い間柄であった。
芸能人でもおかしくないほどの高い顔面偏差値!
クールで当たり障りもなく何でも出来る、まるで王子様!────が周りから見た陽太という人間で、そんな陽太は当然入学直後から人気者。
常に沢山の人達に囲まれていたため、単純に接する機会が皆無だったからだ。
クラスに馴染むどころか溶け込み消えそうな程平凡な俺と、その正反対の陽太とは、『きっとこのまま接点はないだろう』 と思ったが、ある一つの事件がそんな俺達を結びつけることとなった。
それはたしか入学して二〜三ヶ月くらいが経った頃だったと思う。
俺はその頃からあまり周りが見えるタイプではなく、最初は全く気づいていなかったのだが、あからさまな態度と言動によりある一人のクラスメイトが虐められている事に唐突に気がついた。
虐められていたのは、クラスの中でも大人しい男の子で、そして虐めていたのはクラスの中で問題ばかり起こす男の同級生だ。
その時も、あーだこーだと聞こえる様な悪口を浴びせては大笑いする姿を見て、俺は不快である事を簡潔に分かりやすくスッパリキッパリと伝えた。
「────はっ?なにお前、ウザ〜……。」
するとそいつは、平凡顔で特にこれといった特徴のない俺に口を出されたのが気に入らなかったらしく、文句を言いながら自分のお弁当の中身を、俺の机の上にぶちまけたのだ。
俺の人生のモットーは<食べ物を無駄にはしない事>。
無惨にもぶちまけられたお弁当の中身を見下ろした後、俺は全く迷うことなく即座にそいつをぶっ飛ばす。
突然の俺の行動にクラスメイト達全員が唖然とする中、そいつは壁に激突しそのまま床に倒れた。
「…………っ〜??っ……??」
まさか殴られるとは思っていなかったのか、そいつは最初、ポタポタと床に落ちていく自身の鼻血を放心状態で眺めていたが、直ぐに正気に戻り俺に向かって怒鳴り始める。
「ふっ、不当な暴力を振るわれた!!これだから親なしはっ!!
母さんに言って退学にしてやるからな!!」
まさに怒り心頭といった様子で怒鳴っていたが、俺は完全に無視。
そして机の上にぶち撒けられたお弁当の中身を前に手を合わせる。
「いただきます!!」
そう言ってパクパクと食べ始めたのだが、それを見て、そいつはぶっ!!と吹き出し、バカにする様に俺を指差し大声で笑いだした。
「うわ〜マジかよ!────おいっ!皆見ろよ!こいつゴミを食ってるぜ〜?
うわっ!きっも〜。親なしだから飯もまともに食わせて貰えないんじゃね?乞食っwww」
そいつの笑い声が響く中……誰も笑ってはいなかったが、動く事もしない。
そんな遠巻きで固まっていたクラスメイト達をかき分けて、突然クラスメイトの陽太が前に進み出た。
そして俺をチラッと見た後、その男のクラスメイトに視線を合わせ笑いかける。
「確かに暴力はいけないよな〜。お前殴ったら退学だもんな?」
そいつがクラスで勝手な行動を取るのは家がお金持ち、かつ母親がこいつを溺愛していて直ぐに学校に怒鳴り込んでくるからだ。
そのせいで誰もそいつに逆らわない。
そいつは、クラスで人気者の陽太を味方につけた!と思ったのか、嬉しそうに「そうだ!」と答えた、その瞬間────空を飛んだ。
いや……正確に言えば、陽太に蹴り上げられて上に打ち上げられたのだ。
「「「…………っ!!!??」」」
中々の威力があったらしい陽太のキックで、既に半分意識が吹っ飛んでいたそいつは、そのまま地面に体を叩きつけられ気絶した。
「おぉ〜……。」
むしゃむしゃと形が崩れたおにぎりを食べながら、流石に驚いて陽太を見る。
しかし陽太は何でも無いような顔で、コキコキと首を鳴らしながら言った。
「あ〜……すっきりした。俺そいつすげー嫌いだったからさ。」
そう言い捨てた後、陽太は床に落ちていた唐揚げをひょいっと摘んでそのまま食べる。
俺は思わず吹き出した後、同じくスッキリした気持ちで言った。
「俺は食べ物を無駄にするやつは嫌いだな。」
そう言い切ると、陽太は唐揚げをゴクンッと飲み込み、「俺たち気が合うな。」と言って────ニヤッと悪どい顔で笑った。
結局その後二人揃って一週間の停学になった俺と陽太。
しかし、その事件のお陰で俺達は唯一無二の親友となり、卒業してからもずっとこうして付き合いを続けてきたというわけだ。
そんな大親友の陽太に、最愛の人を紹介する。
その後は皆で仲良く出来ると良いな〜などと考えながら、俺は今か今かと陽太を待っていると、それからすぐに入り口のほうから入ってきた陽太が見え、直ぐに手を振った。
「お〜い!陽太、こっちこっち〜!!」
大声で名前を呼ぶと、陽太の目は直ぐに俺を捉え、それからゆっくりと視線は向かい側にいるまきへ。
そして二人の視線が交わった、その瞬間────……。
『やっと会えた。』
そんな説明しがたい不思議な空気が一瞬だけ場に漂った。
「…………?」
何というか、俺はこの場に存在していないような……まるで世界が2人だけの世界になってしまったような……?
初めて感じた雰囲気に、首を傾げたが、注文を取りに来た店員さんによってその時間は唐突に終わる。
そしてその後は、予想していた普通の恋人と親友との和やかな雰囲気へと戻っていった。
────表面上は……。
それからいつもと変わらぬ日常が戻ってきたが、1つ変わった事といえばまきがたまにぼんやりと空を見上げるようになったことだ。
その瞳に映っているのは空ではない事は……分かっていた。




