139 ドノバンの卒業テスト
(リーフ)
長剣より短く短剣より長い中剣。
それを右手と左手それぞれに持ち構えた。
中剣の二刀流。
それが今まで必死に試行錯誤して考え抜いた、自分の一番使いやすい武器の型だ。
現在、それを構えた視線の先には大剣を持ったドノバンがいる。
この四年間、家庭教師をしてくれた座学のマリアンヌさんと実技全般を受け持ってくれたドノバンは、中学院入学までの契約であったため今日が最後の授業だ。
先程、マリアンヌさんには授業後に今までのお礼を言いお別れしてきたのだが、彼女は最後の最後までレオンに対し、あまり良くない視線を向けていた。
物語の中に登場するリーフに対し、崇拝に近い気持ちを抱いていたマリアンヌさん。
その念が一際強かったのは、彼女自身が身分を重んじる価値観を持っていたからだ。
その傾向は、そのまま現在のマリアンヌさんにも当てはまっていたので、そんな彼女にとってレオンという存在は耐え難いものだったのだろう。
ちなみにそれは彼女のお眼鏡に敵わなかった、平凡リーフの俺も同様であった。
マリアンヌさんとの日々を思い出すと、思わず遠い目になってしまい、口には苦笑いが漏れる。
レオンと共にチックンチックン剣山のような目線と、嫌味のお祭りわっしょいをされ続けた日々……。
しかし残念ながら、俺はそんな繊細な意地悪が気になっちゃう年頃の少年ではなく、マリアンヌさんより遥か年上のおじさんだ。
あんなもの犬の尻尾でふさふさ叩かれたくらいのダメージしかない!
モッフモフと顔を叩く尻尾は最高。
だからこんにゃろうな気持ちは特にないし……それに、意地悪しても仕事はきっちりこなしてくれたマリアンヌさんには、とても感謝もしている。
だから、心の中でありがとうとお礼を言い、とりあえず今後の彼女の人生に幸あれと最後は願っておいた。
その後はドノバンとの最後の授業なので、俺とレオンは足早にいつもの広場へ向かう。
するとそこには、珍しく今日は先にドノバンが大剣を持った状態で立っていた。
『今日の卒業試験は、俺と一対一の対戦な。全力で戦え!以上!』
俺たちの姿が見えるや否や、イヤリング型の仮想幻石レベル1を渡され、物凄〜く分かりやすい説明をされる。
そして今、こうしてお互い武器を構えて対峙しているというわけだ。
ドノバンとの一本勝負。
ドノバンは、ゆる〜く大剣を担ぎ、まるで挑発する様に隙をコレでもかと見せてくる。
いける!と思って、ただ闇雲に突っ込めば……一瞬で地面にチュッチュをする羽目になるのは、今までの経験上よく知っている。
「…………。」
警戒してジリジリと距離をとる俺を見て、ドノバンは揶揄う様に笑った。
「お、警戒してんな〜?結構結構。
相手が油断していると思って自分が油断すれば、それが『隙』になる。
常に警戒は怠るな。ちゃんと覚えててえらい────……ぞっ!」
あんなに重い大剣なのに、ドノバンは物凄い速さで俺の前に移動し、軽々と剣を横に振る。
ドノバンの資質は【魔法剣士】
俺同様、剣と魔法を駆使して戦うが、どちらかといえばパワータイプで、圧倒的な火力でぐいぐい攻撃してくるタイプ。
力比べではまず勝てない。
対して俺の【魔術騎士】は、どちらかと言えばテクニックタイプ。
回避や特殊な攻撃方法で敵を倒すトリッキーな攻撃が武器だ。
「────よっと!」
まともに食らえば大ダメージなドノバンの攻撃。
それを、両手の中剣でパワーを逸らしながら弾くと、ドノバンは嬉しそうな顔をした。
そのままの勢いで相手の懐へと飛び込むと、ドノバンは直ぐに大剣を引いて俺の攻撃を防ぎ、剣のラッシュが始まる。
「動きは良し!────じゃあ、次いくぜ〜!」
ゾワッとした感覚を覚え直ぐに後方へ大きく下がると、大剣にボッ!!と赤い炎が宿る。
ドノバンのスキルが発動したのだ。
<魔法剣士の資質>(先天スキル)
< 魔法剣 >
自身の持つ武器に魔法を付与し属性を付けることが出来る。
攻撃力、魔力が高いほど強力な魔法を付与できる。
どうやら自身の持つ大剣に火の属性を付与したようだ。
更にドノバンは身体強化の魔法を掛けて、ギュンッ!!と、全く見えないほどのスピードで俺の目の前まで来ると、そのまま炎の剣を振り下ろした。
あわやというところで俺の身体強化が間一髪間に合い、それを正面から両手で受け止めるも、このままでは押し切られる!
「く、くっそ〜……っ!」
剣を必死に受け止め続ける間も、ドノバンは涼しい顔。
それが悔しくて悔しくて心の中で地団駄を踏んだ。
「ほ〜らよっと!」
ドノバンの大剣を横に振る攻撃を、大きくしゃがみ込んで避けた後直後、更に続けてやってくるのは、上から下へ振り下ろされる攻撃だった。
大剣はリーチが長いため、後ろではなく横に避ける一択!
だが────……。
────タッ!
俺は横に避けつつ前へ向かって飛び、自分の中剣でドノバンの大剣を横に弾く。
「────おっ?」
すると、下へ向かっていた大きな力のベクトルは俺が弾いた方向へ逸れて、ドノバンが驚いた顔を見せた。
よしっ!チャ〜ンス!
ガラ空きになったドノバンの胴体めがけてキックを繰り出したが────……?
────スカッ。
それは読まれていたようで、ドノバンはあっさり後ろに体を引くことで回避してしまう。
更にはすかさず足払いを繰り出して来たため、軽くジャンプし攻撃を回避したが、そのままドノバンの猛攻撃が始まった。
「ほらほら、受けてるだけじゃ〜永遠に勝負つかないぜ〜?どうすんだ〜?」
「うぐぐぐ〜……!!」
怒涛の連続攻撃を全ていなして、なんとか弾いていると、ドノバンはニヤッと笑う。
「これでラストだ。────はい、『頑張ったで賞』!」
そのまま、トドメだと言わんばかりに、大剣はひときわ大きく炎を燃え上がったが────……。
────フッ。
突如、炎が完全に消えた。
「────へっ……?」
その不可解な現象に、ドノバンが呆けた声を上げたので、チャンス!とばかりに、その顎を狙って蹴り上げた。
しかし流石はドノバン、軽く片手でガードし、しかもすぐに反撃しようと剣を振ろうとしてくる。
────だが……視覚が一瞬遮られた今が最大のチャンス!
俺は両手に持つ中剣をドノバンの目の前に放り投げ、一瞬でその股の下をくぐり抜ける。
「おおおぉっ!?」
ドノバンが慌てて振り向こうとしたその瞬間、俺はドノバンの大剣を持つ方の手を掴んだ。
「うおおおお────!!!」
そして渾身の力を入れての一本背負い!!
────っ勝った!!
そう確信した、その時────……。
「う〜む……ちょ〜っとばかし甘いぞ〜?」
ドノバンはニヤリと笑いながら自ら前に飛び、その反動で逆に俺の方がポーンと宙に投げ飛ばされてしまった。




