133 モンスターについてと反省と……
(リーフ)
キノコ型のおとなしいモンスター<キラリマッシュ>だ。
その子はつぶらな瞳をこちらに向け、小さな手足で敬礼をしカルパスの指示を待つ。
<影従士の資質>(先天スキル)
< 影家 >
自身の影の中に『 忠誠 』を誓ったモンスターや生物を住まわせる事ができる。
『忠誠』を誓わせるには、相手に勝つ事が条件。
その方法は相手が負けを認めた場合、何でも可。
< キラリマッシュ >
体長50cmほどのキノコ型Gランクモンスター。
赤色の大きな笠はピカピカと光り、それに群がってきた虫を食べる。
夜行性で夜は道を照らしてくれる為、商人などのテイムモンスターとして人気は高い。
この世界では、生物は大きく分けて<動物>と<モンスター>の二つに分けられる。
<動物>は、『人』を初めとした牛や豚、犬やネコなど前世でも馴染みの高い生物の事。
そして<モンスター>は、そんな動物を好んで襲ってくるそれ以外の生命体を総称してそう呼ぶのだが、その二つの大きな違いは生きるために必要なある物質にある。
そもそも動物は『酸素』を吸って〜吐いて〜をしなければ生きてはいけないのだが、モンスターはそれを必要としない。
ではモンスターには何が必要か?
それは、酸素とは違う物質である【魔素】と呼ばれる物質が必要なのである。
これを 酸素 同様、吸って〜吐いて〜してモンスター達は生を繋いでいるわけなのだが、この【魔素】にはそれだけではない恐ろしい特性がいくつかある。
その一つとして有名なのは【魔素】はモンスターを生み出し、更に強化までしてしまうというものだ。
それは【 魔素】の濃度が高いところほど強力なモンスターが生息している事や、濃くなった場所から突如大量のモンスターが湧き出ることから間違いはないと言われている。
さらにもう一つ別の特性として【魔素】は、地下から噴き出してくるものである事。
そのことから【魔素】を『大地のオナラ』なんて下品な呼び名で呼ぶ人もいるらしい。
そんな大地のオナラ……じゃなくて 、【 魔素】は、当然地上よりも地中のほうが濃度は濃く、それを好むモンスター達は地下へ向かって拠点を築いていく。
その拠点を人は【ダンジョン】と呼ぶ。
ようはダンジョンはモンスターの集合住宅のようなもので、彼らは【魔素】のせいで無限に増殖しては地上へ姿を現す。
そして種によっては見境なく人を襲うので、定期的な討伐が必要となってくるのだ。
その際、その脅威度によってモンスター達はランク分けをされていて、強いものから【SS、S、A、B、C、D、E、F、G】と決められている。
ちなみに、今カルパスがスキルで出したキラリマッシュは最も脅威度の低いGランクだ。
このくらいのランクだと上手く共存関係を築き、人里で暮らしているモンスター達も多くいる。
目の前のキラリマッシュも、カルパスから大好物のトロロン・ピックの干し肉を貰って上機嫌で道を照らしながら歩いている事から、上手く共存して暮らしている事が分かる。
そんな共存モンスターのキラリマッシュの光に照らされて、やがて目的の小屋まで辿り着くと、俺は電灯用魔道具に魔力を流し外と中の灯りを一気につけた。
「さぁ、新たにこのリーフ様の奴隷になったレオンよ!ここが今日から君のお家だ。
ちょっと趣味で作った家を特別に使わせてあげよう。俺と皆に感謝するといい!」
わーっはっはっ!と悪役らしい高笑いをしながら告げると、レオンはボーッと小屋を見上げた後、やはり嬉しそうに「ありがとうございます。」と言った。
以前住んでた家とは比べ物にならないくらい良い家だとは思う。
でもそこは、やっぱり気持ちの問題なわけだよ。
『多分前の家を思い出してるんだろうな〜。』『物思いに耽ってるんだろうな〜。』
そう考えたらなんだか俺の心も沈むが、その家はもう無くなってしまった……。
しかし─────!
「ふっふっふ〜!レオンは今日から俺のモノ!俺の奴隷なんだから俺が来いっていったら来る!やれっていったらどんなに理不尽だろうと、な〜んでもするんだよ〜。分かったかな〜?」
ここで出してく悪役感!
奴隷になった悲しみは、俺への憎しみ、反発心で埋めた方が、今は多分楽だろうと目一杯酷い暴言を投げつけた。
レオンもさぞや俺を恨み、ギロリと憎しみに満ちた目を俺に向けて─────…………くる事はなく、レオンは俺の目の前で跪く。
そして、まるで尊いモノを見るかの様な目で、俺を見上げてきた。
「このような素晴らしいお部屋を与えて下さりありがとうございます。
リーフ様が望むなら俺は何でもしますし、何処へだろうと必ず駆けつけます。
俺はあなただけの存在にして頂きました。どうかこれから一生お側に置いて下さい。」
その言葉を聞いた瞬間、俺の肌色は、ザッ!!と進めの信号色へ変わる。
な、なんかレオンが、奴隷の鏡みたいな事を言い始めたぞ!
ブルブルと震えそうになる体を強い精神力で押さえつけてはいるものの、あまりの衝撃に俺は白目を剥いて倒れそうになった。
母親から離され無理やり奴隷にされ、更には暴言の嵐を浴びてるのにこんなに素直に従う子供なんて……い、いるのかな……?
元々の非常に大人しく素直で純粋な性格や、決められた役割はキッチリこなす真面目さ……そして辛い事イコール幸せであるという思い込み……。
多分その辺りがいい感じに混ざってこんな思考に辿り着いてしまった?……のかもしれないが、こんな精神状態で、これから大丈夫……?
不安しかない今の状況が怖すぎて、俺はキラキラした目で見上げてくるレオンに─────……。
「う、うん。いいよ。」─────とだけ返し、ぎごちなく首を縦に振るしかできなかった。
そのままおやすみを告げて、俺はカルパスと共に屋敷へ引き返したが、俺の姿が見えなくなるまでレオンはずっとあの小屋の前で立ってコチラをみていた。
◇◇
「カルパス……俺、レオンを奴隷にしちゃったんだ。」
レオンの姿が見えなくなるとやっと緊張が解け、まるで懺悔する様にそう言った。
すると、それを聞いたカルパスは、何故か不思議そうな様子を見せながらあっさりと答える。
「はい。そうですね。それがどうかされしました?」
「えっ!?……あ、あのね、俺レオンの同意なく無理やりしちゃったんだ。
だからレオンの心は、今深く傷ついてると思うんだよ。」
「はぁ……。」
カルパスは少し考える様に目を瞑ったが、直ぐに開いて俺に視線を合わせる。
「【奴隷陣】は、相手のレベルにあまりにも差があると刻み込むことはできません。
それにも関わらず本人が奴隷になっているのなら……問題ないという事です。」
なんと!あのお兄さん……じゃなくておじさんは、かなりレベルが高い契約術者であったらしい。
俺はほほ〜ぅ?と驚き、僅かに目を見開く。
もう記憶が薄れて、何かムッキリして怖そうな顔の人!というイメージしか残っていないが、彼は確かにあのアホみたいに強いレオンに奴隷陣を刻み込んだ。
よくよく考えてみれば【英雄】様と契約できるなど、かなりの実力者じゃないと無理だろう。
「へぇ、そうなんだ!確かにちょっと悪い顔してたね〜。格好も悪役っぽかったし……そりゃー凄い人がきたんだねぇ。」
「???悪い顔……ですか??」
「そうそう。その時は地べたにペッタリ座ってるもんだから、俺、てっきりお祭りでも楽しんできちゃったのかと思ってたよ。
あれは余裕ある挑発行為だったのか……。」
悪役は総じて強いと決まっている。
どうやら中々の強者が、レオンを奴隷にしにきたらしい。
なるほどね〜と納得して頷くと、カルパスは一瞬押し黙り、「そうですね……。」と賛同してくれたので、調子に乗って自分の中の憂いを吐き出す。
「正直いうと、同じ人間を所有物にってちょっと受け入れがたいというか……しかも相手はまだ幼い子供だろう?本当に嘆かわしい事だよ。」
嫌な気持ちを外に出す様に大きく息を吐きだすと、カルパスは、フッと何かを悟った様な表情を浮かべた。
「ふむ……では、リーフ様はこれからレオン君に新しく何かお仕事をさせるおつもりで?」
「えっ?!─────いや、今までと同じだけど……。」
奴隷デビューを飾る何か新しい事……正直何も考えていなかった!
考え込んでいる俺を見て、カルパスはニッコリと笑う。
「左様でございますか。では、今までと何も変わらないのでは?
私にはレオン君が格別傷ついているようには見えませんし、ようは首に奴隷陣かがあるかないかの違いだけだと思ってよいかと……。」
その時俺は、はっ!と気づいた。
そうか!俺、今までずっとレオンを奴隷扱いしてきたんだ!
大きなショックを受けながら、カルパスが言いたいことをしっかりと理解する。
『いや、今まで奴隷扱いしてきたのだから、今更奴隷になったとしても待遇は変わりないよね?』
その通り!
その事実は俺の心にクリティカルヒットし、グワングワン痛む頭を抱えながら─────そのままおぼつかない足取りで部屋に帰ったのだった。




