(レオン)122 ずっと一緒に……??
(レオン)
大人しくリーフ様の後に続くと、どうやら街の中心部へ向かっているようで、ガヤガヤと煩い道をひたすら真っ直ぐ歩いていく。
行く先々で目に入る人の多さは、街の中心に近づくごとに多くなったが、それを見て感じる想いがさっきと違う事に気づいた。
煩わしい音楽や人の姿を、あれだけうっとおしいと思っていたのに……不思議と今は感じない。
隣にリーフ様がいるだけなのに……?
俺は、やや前を歩くリーフ様へチラッと視線を向けた。
キョロキョロとせわしなく動き回る視線と、喜びを隠しきれない様子で小刻みに動いている体。
そして『楽しい』で溢れた瞳と、輝く様な笑顔を見ると、自然に口元から笑みが溢れる。
────そうか。俺は、リーフ様と一緒なら、何でも『嬉しい』のか……。
また一つ新たな発見を『嬉しい』と思いながら歩いていると、更にぶつかる肘や触れる手にドキドキした。
きっとこれも『嬉しい』から、自分の体に変化が起きる。
本当に不思議だなと思うと同時に……この変化をもっともっと味わいたいという欲も出てくる。
でも具体的にどうすればいいのだろう?今の関係のままでは……。
少しだけ薄暗くなっていく考えを振り払う様に首を振り、そのままリーフ様の歩数に合わせて歩いていると、その後直ぐに一軒の出店に入った。
「へいっ!らっしゃっ……ってリーフ様じゃないですか!
今年はお祭りに参加されるんですね。」
その店の男は、リーフ様に気さくに声をかけると、次に後ろにいる俺の方へとチラッと視線を向ける。
『化け物だ!』
『邪神の類かもしれん!早く追い払え!』
頭の中には、今までの『普通』が過ったが────それを全く裏切る形で、男は無反応な態度を見せ、なんでもない様にそのままリーフ様との会話を続けた。
『リーフ様の側にいるものは無害』そう物語る対応だ。
恐らく街の人間なら、大抵の者達はこの対応をしてくるだろうが……油断はできない。
今日は街の外から来ている人間も、多くいるようだから。
チラッと周りを見回すと、街で見たことがな人間も多く見られた。
騒ぎになればリーフ様が嫌な思いをしてしまう。十分気をつけなければ……。
頭にかぶるフードを軽く下に引っ張り、深く被り直したその時、リーフ様が購入した肉串を、パクリと一つ頬張った。
「う〜っ────!!」
恐らくそれが相当口に合った様だ。
目をキュッと閉じて、幸せそうな顔を見せてくれる。
『可愛い』な。
その顔を見て、フッと浮かんだのは、その言葉で、これはリーフ様を見ると頻繁に浮かんでくる言葉だった。
一生懸命にご飯を食べる彼はとても『可愛い』
油で汚れた口も『可愛い』
リーフ様は全てが『可愛い』
そして『可愛い』から、何かをしてあげたくて仕方がない。
だから俺は、どんな事でも何かをしてあげたくて仕方がなくなるのだ。
『可愛い』リーフ様がそれで『ありがとう。』と言ってくれた時、俺はまた幸せになることができるから。
油で汚れたリーフ様の口をハンカチで拭い、幸せだなと思った。
でも、やっぱりこれも不思議な事だ。
自分の労力を他者に提供する事は不利益でしか無いのに、それが幸せに感じるなんて……。
口を拭い終わると「ありがとう。」と言われて、幸せを感じつつも、もしかするとリーフ様に何かをすることは、俺の幸せのためなのかもしれない……そう思うと、少しだけチクリと心に刺さるモノがある。
つくづく俺は、自分の欲しか優先できぬ醜い化け物だ……。
それが分かっているのに、離れるつもりは毛頭ない自分に苦笑した。
「はい、レオンもお食べ。」
残りの肉がついている串を差し出され、俺はいつも通りそれをパクパクと食べる。
リーフ様は食べることが好きな様で、だから俺と一緒にいると沢山の種類が食べれて嬉しいのだそう。
だから、多分俺にも沢山の食べ物を食べさせようとしてくるのだと思う。
しかし────……そもそも俺は『空腹』自体を感じない。
あんなに俺を苦しめていた飢餓感は、ある日を境になくなってしまったのだ。
食べなくても死なない事も知っているが……リーフ様が喜ぶから食べる。
生きるためではなく、俺は『幸せ』を感じる為に食べる事を今日も選択するというわけだ。
幸せを沢山貪るために、すっかり渡された串を平らげてしまうと、そのままリーフ様はラフラと他の店も見て回る。
俺はそれを見ているだけでも幸せ。
しかし、リーフ様は少し疲れたのか「少し休憩しようか。」と言って、開けた場所へ座り込んだ。
俺はいつも通り『椅子』になろうと先に座って待機しようとするも「子供が真似するから今日はナシ〜!」と言われてしまう。
そして隣にサッサと座ってしまった事にショックを受けたが、転がったリーフ様を見つめるとそれも直ぐに吹き飛んだ。
転がる姿も『可愛い』な。
リーフ様は修行中もよくこうして転がってしまうためよく見る光景ではあるが、いつもと違う場所に転がっているとまた違う新鮮さを感じる。
そう感じた瞬間、そういえば……?と、俺は紫のもじゃもじゃがある日言っていた言葉を気まぐれに思い出した。
『男は普段と違うシチュエーションでグッとくるんだよな〜 。』
────今の俺は、もしかしてグッときているのだろうか……?
そういえば紫のヤツが言っていた言葉は、今の俺の状況と似ている気がしないでもない。
しかも、他にもちょこちょこと当てはまる言葉もあるようにも思えた。
「なるほど……?俺の状況は、ごくごく一般的な事な事らしい。」
一応納得すれば、他にもごちゃごちゃ言っていた言葉達もついでに思い出した。
《まずは 『可愛い』 からスタートだな!それからは勝手にステップアップしていくから大丈夫だ。》
『可愛い』から進化していく感覚があるのか……??
悶々としながらそれについて考えていると、リーフ様は独り言の様に先ほど食べた物や出来事について話し、最後はぷっと小さく笑った。
俺はそれを見て、眩しく感じて目を細める。
リーフ様が語る過去の中に、俺がいる。
今この瞬間、ここにいる自分ではない自分が。
そして……今この瞬間の俺も、リーフ様の中で一生存在し続ける。
思い出という彼を構成する一部分として……。
それってなんて幸せな事なんだろう。
じんわりとした幸せの気持ちが体に染み渡る。
俺はずっとリーフ様の思い出の中に居続け、彼の一部分で在りたい。
────でも……。
そこでフッと嫌な妄想が顔を出し、じんわりとした『 幸せ』は、『恐怖』 へと変わった。
嫌だと言われたら?
もう下僕はいらない、消えろと言われたら……?
それを考えた瞬間────恐ろしいほどの恐怖が、俺の全てを覆い尽くした。
不快、不安、焦り……。
その全ての負の感情が混ざり合い身体に染み込むと、寒さなど感じないはずのこの身体は震え、乱れることの無いはずの呼吸は乱れる。
『恐怖』とはなんて耐え難い感覚なのだろう……!
これこそが無理矢理植え付けられたものではない本物の『恐怖』だ。
真っ暗になりそうな視界の中、必死にリーフ様を見失わないようひたすらその姿を見つめていると……リーフ様はフッと消えてしまう様な笑みを俺に見せた。
たまに目にするリーフ様のこの笑顔が、俺は不安で不安で仕方がない。
なぜかと言われても理由は分からないが……。
戸惑う俺を無視するように突如小さな爆発音がして、何かがパラパラと空から降ってくる。
魔力で出来た花……?
黒ずみ始めた視界の中、かろうじて確認できたそれを見て、リーフ様は歓声を上げながら飛び起き、空から落ちてくる物を掴もうと手を伸ばした。
すると……黒ずんでいた視界は、リーフ様が手を伸ばす先だけキラキラ眩いほどに美しい世界へと変わる。
反対に────……俺のいる場所は、ドロドロと黒ずみ溶けていった。




