(レオン)115 ”母親”と”化け物”
(レオン)
「無視してんじゃねーよっ!!この化け物がっ!!お前の『お母様』がわざわざ話しかけてやってんだぞ?!……あ〜もしかして今までの復讐のつもり?
最近無駄にデカくなりやがって態度が生意気なんだよ、クソガキが。────おいっ!!なんとか言えよ!化け物!!」
酒の臭気漂う息を撒き散らしながら女が言った言葉『何かを言え。』
それを言われた事で、以前リーフ様から言われた言葉を思い出した。
『レオン、とりあえずドノバンに何か嫌な事を言われて困ったら、正直な気持ちをまず何か言ってみよう。
最初に手を出してはコミュニケーションの練習にはならないんだ。』
『正直な気持ち……?』
突然そんな事を言われても、『リーフ様に近づくな。』くらいしかない。
言葉に詰まってしまった俺を見て、リーフ様も困った様子で『うーん……。』と唸り声をあげながら考え込み……やがてこう言った。
『とりあえずその人の特徴とか、自分はその人の事を見てこう思ったとか……。
────あぁ、今後どうしたらいいと思ったか、とかも言ってみたらどうかな?とにかく沢山練習してみるといいよ。』
「憐れな女だな。」
「────はっ…………???」
とりあえず相手を見てどう思ったかを正直に口に出すと、女はポカーンと間抜けな顔を晒した。
何が正解かは分からない。
だからリーフ様の『練習せよ。』に従って、客観的な意見を思いつく限り、口に出してみる。
「復讐するほど興味がない。」
「話を聞いたところで不満だらけの人生で憐れだなとしか思わない。」
「今後はそんな人生のツケを払いながら、生きて死ぬしかないんじゃないか?」
更にスキル<森羅万象>を駆使し、キチンとこれからどうするべきかも提示した。
そうして、かなり的確かつ丁寧な言葉を選んだつもりだったが……何故か、目の前の女は、昨日リーフ様が地面に落とした豆腐パンの様にぐちゃぐちゃの顔になってしまった。
その理由はさっぱり分からない。
< 豆腐パン >
豆腐の様に柔らかい白パン。
平民のオヤツとして人気があるが、落としたらぐちゃぐちゃになってしまう為、注意が必要
「なっ……はぁぁぁぁぁぁ────!!??!私はあんたの母親よっ!?」
「??はぁ……?」
突如始まった自己紹介に、理解が追いつかない。
すると、更に激昂した様子の女は大声で怒鳴りだした。
「昔はそんな態度じゃなかったじゃないっ!!!オドオドして癇に障る態度で私を見ていた癖にっ!!!
────……は〜ん?分かったわ。街で聞いたけど、あんた最近公爵令息のおもちゃになってるんですってね?
それで自分も偉くなったって勘違いしちゃってるんだ〜。さすがは化け物、図々し〜痛々し〜。」
歪んだ顔をまた別の種類の歪んだ顔に変え、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、女はその場で立ち上がる。
そして腕を組みこちらを見下すような目を向けると、弾むような声で俺に向かって話し始めた。
「何々〜?どういうふうに遊んで貰ってるわけ〜?教えてよ。
アンタみたいな化け物の使い道なんて、剣の試し切りとか〜魔法の試し打ち用とか〜そんな感じでしょ?
────あぁ、かわいそぉ〜!!人として扱われるわけないもんね〜?だってそ〜んなに醜い姿だもんね〜?」
急にアハハハ〜と楽しそうに笑い出す女をボンヤリと見ながら『使い道か……。』と、頭の中はその事で一杯になる。
そうして使ってもらえたらどんなにいいだろう……。
俺を使おうとしないリーフ様を思い浮かべて、フゥ……とため息をついた。
『使って』貰えたら、リーフ様は喜ぶ?
少しでも喜んでもらえるなら、俺はそうして貰いたいのに……。
そんな俺の望みとは裏腹に、リーフ様は決して俺をそういう目的で使ってはくれない。
避けられるものは避けろ!防御しろ反撃しろと、鍛錬の時は毎日毎日俺へ攻撃しては、当たることを許さない。
だから、体力が尽きて倒れるリーフ様を結局見下ろす羽目になるのだ。
ゼイゼイと息を乱すリーフ様は辛そうで、そんなになるなら止まって俺を打って欲しいと思う反面、対等に扱ってくれる事が嬉しい。
それに苦しそうにしながらも楽しそうにしているリーフ様を見るのも嬉しいし、その間は俺だけを見てくれるのも嬉しい……。
俺の心は毎日とても複雑で忙しくなってしまった。
忙しいのも嬉しいが……本当にこのままでいいのだろうか?
ううん?と少々考え込んでいると、それをどう思ったのかわからないが、女の機嫌はぐんぐんと良くなっていく。
「あ〜やっぱりそういう使われ方しかされてないんだ〜。ホント、可哀想ぉ〜。
でも、仕方ないもんね〜?あんた化け物なんだから。
私だったらとっくに自害してるわ〜。あ、ゴメンナサ〜イ。正直に言っちゃった♡あんた可哀想な自分の事もな〜んにもわかんないんだもんね?
いいな〜私もそうなれたらな〜ww」
女はついに腹を抱えて笑い出したが、俺は『自害』という言葉を聞き、少々思う所があったため女に言った。
「自害は森でしろ。リーフ様は無用な死に心を痛める。
そんな汚いモノを彼に見せるな。いいな?」
これくらいで『練習』はもういいだろう。
しっかり忠告をした後はそう考え、再度体を横たえようとした瞬間────……。
「ああああぁぁ────!!!!」
女が突然発狂した。
狂った様に叫び、足元の空き瓶を思い切り投げてきた女に対し、『先ほどまで楽しそうに笑っていたのに???』とその理解不能な思考に流石に嫌気がさす。
更にまだ続くのかとうんざりしながら、投げつけられた空き瓶を難なくキャッチすると────女はふーっ!ふーっ!と荒い息を吐きながら、今度は木のテーブルを薙ぎ倒した。
「ふっざけんじやねぇーぞぉぉ!!!!なんなんだよ!その態度はっ!!公爵令息様に調教されやがって!!!
────あっ!そうだぁ〜!私イイ事おもいついちゃった♡」
モンスターに近しい顔で激昂していた女の顔が、またしても突如コロッと変わり、ゆっくりと振り乱した髪を手櫛で整えはじめた。
目的を果たした以上、相手をする気は一切なかったので女から意識を外したが、話はまだ続く。
「息子を使って遊んでるんだもの〜母親として使用料貰わないと!
コレを機にご子息様ともお近づきになれるし、そのコネクションで上手くすれば……。
────ふふふっ、やだ〜私ってば最高についてるじゃない!
それに、後もう少ししたらすっごく楽しくて〜すっごく気持ちいい事も教えてあげれるしね〜?なんなら身籠っちゃえば────……。」
────女の言葉は、突然ピタリと止まった。
なぜなら女の首に俺が果物ナイフを突きつけているから。
それにだいぶ遅れて気づいた女は、青ざめドッと汗をかき、目を限界まで見開いた状態でゆっくりと俺と視線を合わす。
「『食べる目的以外の殺生はいけない。』、『自分を害そうとするやつはぶっ飛ばしていい。』
リーフ様の言葉はとても難しいが、それは世界の真実で、学ぶべきは俺。だからお前を殺さない。────分かるか?」
女は震えるだけで何も答えない。
そんなガクガクと震えるばかりの木偶の坊の女に構わず、俺は話を続けた。
「リーフ様は言う。色々な経験を経て自分なりの答えを出せと……。
俺がそれについて出した答えは────『リーフ様を害するものは消していい。』だ。
お前はそれに該当するか?」
「ひっ……ひぃっっ……!!!!」
女が悲鳴をあげると、その下半身からびちゃびちゃと汚らしい水音が聞こえるのと同時に、四つん這いになって慌てて部屋から出ていった。
やっと静かになったと、俺はすぐにリーフ様に頂いた絨毯に体を横たえ目を閉じる。
リーフ様との思い出に浸り、早く朝になりますようにと祈りながら……。




