(レオン)114 ”母親”
(レオン)
女は元々、ここいらでは敵なしと言えるほどの美しさを持って産まれてきた。
そして両親にも周囲の人間にも恵まれ、何不自由なく幸せに育つ。
それに加えて女の側には常に沢山の男性からの好意の眼があり、それが普通の世界なのだと幼心に悟ると……それに胡座をかくようになっていった。
『何もしなくても自分を好ましいと思う者がどうにかしてくれる』
それに慣れれば慣れるほど努力をしなくなり、次第に『辛い努力をする者は、恵まれずに生まれた者達で、とんだ愚か者である』とまで思うようになっていく。
そんな女に対し、最初は両親も他の周囲の者達も心配して沢山の忠告をしたが、自分の考えが正しいと思っていた女の耳には入らなかった。
そんな彼女が最初に言った言い訳は【資質】についてだ。
それが私にふさわしい華やかな資質だったら、それに向かって努力する。
その言い訳を盾に<資質鑑定>の時まで怠惰に過ごし、その結果は────惨敗。
女は自身が夢見た華やかな資質には、恵まれなかった。
すると今度は、言い訳をあっさりと変える。
『資質に恵まれていなかったから、仕方がない。』
『そういう風に産んだ両親が悪い。』
『資質というものを重視する、この世界が悪い。』
そう言い張り、そのまま怠惰な生活を送り続けた。
とうとう見かねた両親や友と呼べる者達がその状態に対しどんなに注意をしても、『若さと美しさ』という最強の盾がある女の耳には入らない。
寧ろ、そんな言葉や掛けられる想い達は、負け惜しみや嫉妬からくるものとしか思えなかったからだ。
『老いたじじぃとばばぁの言葉を、なんで聞かなきゃいけないの?』
『ブスが私に嫉妬しているのね?可哀想。』
『ちやほやされた事がないからってひがまないでよ。あなたは不幸せね。』
それを言葉で、時には態度に出すことで、周りからは人は消えていった。
その言葉を肯定し味方するのは、女が正しいと豪語しちやほやする男達だけ。
彼らが最強の盾になって群がり、更に強固に女を守る。
そんな中、とうとう両親さえも何も言わずに消えてしまったのを見ても、女はその最強の盾の向こうで女王様の様にふんぞり返りながら、思った事はたった一つ。
『うるさい負け犬共がいなくなって清々したわ。』それだけだった。
理想の資質に恵まれずとりあえずと選んだ仕事は、怠惰に慣れきった性格のせいで全く長続きせず、職を転々としていた女だったが────勿論働かなければ生きていけない。
しかし働きたくない、そう考えた女は必死に知恵を働かせ……そして閃いた。
────そうだ、他の人にやらせればいい。
よってくる男たちに嫌なことは全てやらせよう。そして欲しいものも全て買ってもらえば良いだと、まるで天啓のように閃いた女は、その日から仕事を辞め、男の間を蝶のように飛び回る日々を送り始めた。
そうして何不自由無い生活をおくっていたのだが、次第に欲が出てくる。
不自由ない生活はあくまで平民として。
でもこの世界にはもっともっと上の生活がある。
女の頭には、以前街の中で見かけたお貴族様の姿が思い浮かんだ。
ある日街へショッピングに出かけた日の事。
そこで見かけたお姫様の様な格好をしたお貴族様を見て、身体に衝撃が走る。
その身に纏うのは、宝石をこれでもかと散りばめた美しいドレス。
そして身につけているアクセサリーには全て大振りの宝石がついていて、その一つとて平民の男ごときでは一生掛かっても買えない代物であった。
それが分かった瞬間、自分の身につけている男達に買って貰ったお気に入りのアクセサリーや服は、全てゴミと同価値なモノへと変わる。
私の方が美しいのに……?
この国の法律では、平民の身分では貴族と結婚することは出来ず、正妻になることなど出来ない。
それについて女は文句などない。
貴族には面倒な規則やマナー、礼儀作法、社交界などがあり、正妻になればこれを完璧にこなさなければならなくなる。
面倒を嫌う女にとって、正妻という地位は魅力的ではなかったのだ。
しかしお金に関しては堪らない魅力を感じた女は、その面倒は避けお金のみを自由に使う事を望んだ。
私は美しい。
綺麗なドレスもアクセサリーも私が着けた方が似合う。
ならそれらを手にするべきは私、なら、次に狙うは貴族だ。
結婚は法律的に無理でも、自分ほどの美しさがあれば実質上正妻の様な扱いで愛人にしてもらえるだろう。
勿論面倒な事は適当に2番目の女……正妻を選んでもらってその女にやらせればいい。
そう思った女は出会いを求めて貴族専用の娼婦に自らなった。
そして貴族の男たちの間を渡り歩き、夢の様なきらびやかな世界を見せてもらう生活を送っていたが、ある日子供を身ごもってしまう。
誰の子かは分からなかったが、その時すでに若さと美しさに陰りが見えてきた女は考えた。
────そうだ。今度は子供を使ってお金を稼ごう。
誰の子か分かれば父親からお金を引き出すことができるし、だめなら子供を売ればお金が手に入る。
どちらにせよ産んでおいて損はない。
そう思ってせっかく子供を産んだのに────結果、出てきたモノは『化け物』だった。
女は今も男たちの間を渡り歩いている。
以前よりもだいぶランクが下がった男達の間を。
そしてその中でも一番マシな男と結婚を……と目論んだが、捨てられてしまったのだと、呪詛を吐くように語った。
『もっと良い資質に恵まれていたら……。』
『もっと金持ちの家に生まれていたら……。』
『もっと役にたってくれる両親や友がいたら……。』
『もっといい男に出会えていたら……。』
『普通の子供が産まれていたら……っ!!』
全ての原因はお前だと言わんばかりの言い方と、憎しみで溢れた眼を向けられたが……俺の心はピクリとも動くことはない。
リーフ様にこの状況を説明せよと命じられても、『女がいますね。』くらいの感想しかなかった。
リーフ様ならこんな時、なんて答えるのだろう?
そう考え、再度リーフ様との思い出に浸ろうとしたが────女が机の上に並べられていた酒の瓶を全て薙ぎ払った事で、それはまた邪魔されてしまう。




