118 キラキラ輝く世界
( リーフ )
街の中心街は、大きな円形の広場のような場所で、中心にはイシュル像を型どった巨大な噴水がある。
そして、そこから四方八方に噴水から流れ出る水が用水路の様に流れていて、それに合わせて道が続いている造りになっていた。
レガーノが、王都からだいぶ離れた田舎町にあるにも関わらず豊かであるのは、この水が豊富であることも原因の一つなのだ。
自然豊かな森と山々が近くに沢山あるこの街には、綺麗な川もそれに比例して沢山流れている。
そんな自然の恵みを一身に受けたレガーノの中心地、それがこの中央広場だ。
そのため、お祭りの際一番人や出店が揃っているのはココで、かなりの賑わいを見せていた。
「 ……うわぁ〜。 」
そこら中で歌っている人さんや大道芸人、吟遊詩人などなど……。
普段お目にかかれないような人達が沢山いて、感動してつい声が出てしまった。
他にも見たことのない商品が並んでいる出店や、ゲームのようなイベントをしている出店も所狭しと出店している。
こ、これはワクワクするヤツ!
期待に胸を躍らせながら、噴水付近へ視線を移すと、そこには沢山のロウソクや花達が飾られていて、その周りを沢山の人達が踊っていた。
「 ────ん?なんだ?あれ……。 」
踊る人達に混じって見えるのは、沢山の花で飾られたお神輿みたいなものを担いでいる集団だ。
「 おめでと〜! 」
「 おめでとう! 」
それを担いでいる集団は、しきりに祝いの言葉を吐きながら、そこら中を周る。
わっしょい!の掛け声が、" おめでとう " になったお神輿かみたいなモノらしい。
「 うひょ〜! 」
想像以上に楽しそうな雰囲気に、ワクワクドキドキが止まらない!
コレはめちゃくちゃ楽しいヤツだ!!
「 レオン!アレなんだろね!
あっちにも変なのやってるし……あっ!!あっちでも面白そうな事やってるよ! 」
目のつく変わったものを指差し、レオンの袖を引っ張ると────レオンは嬉しそうに「 そうですね。 」と言った。
こ、これは、もしかして……?
いつもよりだいぶ機嫌が良さそうなレオンをジロジロと見つめて、ニヤリと笑う。
レオンにとっては、これが生まれて初めて参加したお祭りなため、実はウキウキしているのかも!
確信を得た俺は、キラっ!と目を輝かせた。
ならば、このお祭り大好きおじさんが全力でご一緒しよう。
レオンの初めてのお祭り……最高に楽しい思い出にしてあげようではないか!
「 よ〜し!では、この俺について来い!
下僕のレオンよ! 」
「 ────!は、はい! 」
シュワっ!と風の様な速さで走り出すと、レオンも走り出し、まずは近くのいい匂いが漂う出店に顔を出してみる。
「 へいっ!らっしゃっ……ってリーフ様じゃないですか!
今年はお祭りに参加されるんですね。 」
その出店を出していたのは、40代前半くらいの顔見知りの男性で、俺を見た途端少々驚いた様子で気さくに話しかけてきた。
「 うん!初めて来たけど凄いね!
毎年こんなに盛況なのかい? 」
「 そりゃーもう!しかしこんなのまだ序の口ですよ!
これから夜にかけてもっともっともりあがります。
……といっても、成人前の子供は帰されてしまいますがね。 」
はははっと笑うお店の男に、そうなのか〜と頷きながらお店の商品を見る。
ゴロッとしたお肉が5つ串に刺さった焼き鳥の様な商品。
それが焼かれることでジュウジュウと音を立て、美味しそうな匂いが辺りを漂った。
「 凄く美味しそうだね!
お兄さん、これ3本頂戴ちょうだい。 」
「 お兄さんって!リーフ様はお上手ですなぁ〜。
仕方ねえ一本おまけしときますよ!
では、お祭り楽しんでくださいね。」
40代の男性はお兄さんじゃないのか……。
少し悲しい思いをしながら、俺は、お財布から銅色の硬貨を3枚取り出しお兄さん……いやおじさんに渡す。
ちなみにこの国の通貨は、高い順に、< 純金貨、金貨、銀貨、銅貨、小銅貨、鉄貨 >で日本円で例えるなら────。
純金貨・・・100万円
金貨・・・一万円
銀貨・・・千円
銅貨・・・100円
小銅貨・・・10円
鉄・・・1円
ちなみに物価自体は日本より安い。
現に今買った串焼きも、お肉の大きさから考えて大体一本500円以上は確実にするのに、なんと1本銅貨一枚……つまり100円で買えてしまうのだ。
串焼きを受け取りお礼を告げると、ドドンと野球ボールよりやや小さいくらいのお肉達を見てゴクリっと喉を鳴らした。
これはレガーノの森でよく狩られる< トロロン・ピッグ >というモンスターのお肉。
トロトロと溶けるような柔らかさを持ち、モンスターのお肉にしては臭みも無いので食用としてよく食べられている。
< トロロン・ピック >
体長5mほどの豚型モンスター。
脂身が外側に露出している為、ヌルヌルと体表がベタつき物理攻撃耐性(小)を持つ。
性格は温厚だが、自身の餌を取られそうに なると粘液を吐きかけ攻撃してくるため注意。
ちなみに地球でよく食べられていた牛肉や豚肉、鶏肉も普通にあるが、モンスターのお肉よりやや割り高であるため、平民にとってはモンスター肉のほうが馴染み深い。
トロッと垂れそうになる肉汁を見て、慌ててパクリとかぶりつくと、お肉は口の中でホロホロと崩れた。
そして肉本来の旨みと塩の味に、思わず、う〜っ────!!と唸り声をあげる。
納得の一本!
至ってシンプルな料理だが、それがまた美味しい。
夢中になってパクパクと食べていると、肉汁でベチョベチョになった口元をレオンがすかさず拭いてくれた。
────ちょっと夢中になり過ぎた……。
70歳を越えた大人がこんな口元を汚し、更に若者に拭いてもらうのは恥ずかしい!
恥ずかしさから、思わずギュッと目を瞑る。
せめてあと20年後くらいにお願いします!
そんな事を心の中で叫びながらキレイキレイになったお口に対し、レオンに「 ありがとう。 」と言うと、レオンはニコッと笑った。
その後、俺が残り4つが付いた串焼きを差し出すと、レオンはパクパクと体格に比例した素晴らしい食べっぷりでそれを平らげていく。
レオンと一緒の食事だと行儀は悪いが、俺は沢山の種類の料理をつまみ食いし放題出来るのだ。
まさかこんな贅沢ができる日がくるとは……。
前世で得意料理だったモヤシや豆腐の充実したレパートリーを思い出し、思わずしみじみとしてしまう。
そしてそのまま2本目3本目……と串焼きを二人で軽々と完食し、沢山の出店に目移りしながら、俺はレオンとあちこち歩き回った。




