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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第二章(リーフ邸の皆とレオン、ドノバンとの出会い、モルトとニールの想い)

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(モルト)96 モルトから見た化け物

(モルト)


その後教会を出た俺たちは、先ほど突然現れたイザベルさんを一番後ろに、我が家が所有しているバラ庭園に向かって歩く。


イザベルさんとは教会の行事でよく顔を合わせるので顔見知り程度には知っていたが、まさかあんなにも本格的な護衛をされているとは思っておらず、ニール共々本当に驚いてしまった。

どうも彼女はあの鐘の音を敵襲だと勘違いしたようで周囲を酷く警戒していたが、やがて何も心配な存在はいないと分かると、今度は「なぜ鐘が……?」と訝しげに鐘の方を睨みつける。

多分イザベルさんの考えている事は俺と同じだと思う。

『何か天変地異や厄災の前触れか……?』とでも考え緊張していたと思われるが、やはりリーフ様の「いや〜、今日は得しちゃったね〜。」という一言で、肩の力はすっかり抜けてしまった様子であった。


「そうかもしれませんね。きっとこの街の人々が日々を清く生きているから、神が祝福してくれたのでしょう。」


ふぅ……と息を吐いたイザベルさんは、最終的にはそう言って話を締めた。


この街の人達は本当に穏やかで心優しい人達が多く、誰もが自然の恵みを大事に慎ましやかに日々を生きている。

だから娯楽施設の類はないが、それについて不満もなく犯罪行為に走る者もいない。

俺はそんな生まれ故郷であるこの街が大好きで、将来は自身の家業を発展させこの街を守っていきたいと考えているのだが…………たった一つだけ、どうしても受け入れることが出来ない悍ましいものが存在していた。


その恐ろしい存在が頭をふっとよぎった時、ニールが「そういえば……。』と、ピッタリなタイミングでそれついての話を始める。


「少し小耳に挟んだんすけど……。

 リーフ様って『名無しの化け物』の噂は、ご存知っすか?

少し前から、どこからともなく現れては、街のゴミ箱を漁りに来るそうっす。

背丈は子供程しかないそうなんですが、なんでもその姿はまるで呪われたかの様な恐ろしい姿をしているそうです。」


『名無しの化け物』


まことしやかに囁かれる、この街に住んでいるといわれている呪いを宿した化け物の話だ。

そいつは2年くらい前に、初めてこのレガーノに姿を見せたらしい。

その時はそのあまりの恐ろしい姿に、街の人々は必死になって大きな音をたてたり、声を荒らげたり、石を足元に投げつけたりしてなんとかその化け物を山に追い返したそうだ。

        

しかし、どうやら()()は、教会により数年前から立ち入り禁止にされていた南側の山に住み着いているらしく、その方向へ走っていったのを沢山の人達が目撃し恐怖に震えたらしい。


そんな噂の化け物に、俺は一度だけ出くわした事がある。

その姿は────……ただ恐ろしかった。


噂に聞く以上の醜く悍ましい姿に、情けなくもガタガタ震えて動けなくなってしまったのだ。

俺は元々潔癖症とまではいなかないが、自身の想像を超える恐ろしいもの、醜いもの、汚いと感じるものなどが突如現れると思考が停止してしまう。

その時もまさにその状態に陥り、震えるしかできなかった俺を守ろうと、両親や街の人達が必死にそれを追い払おうと行動をおこしてくれて、なんとか事なきを得たのだ。

父が街の人達にお礼を言うと、その中の一人が「実は……。」と言いづらそうに話し始めた。


「あの恐ろしい化け物は、結構な頻度で姿を現してはゴミを荒らして帰っていくのです……。」


「もう我々は恐ろしくて恐ろしくて……!」


「どうにかできませんか?あんなモノが近くにいるなんて……。」


一人恐怖を口にすれば、あれよあれよと沢山の声が同じ恐怖を語る。

街の人々は毎日戦々恐々しながら過ごしているのだと、それを知った両親はそれに心を痛めたが、何かアクションを起こせば呪いが暴発する恐れがあると説明し、なにか良い解決法が見つかり次第必ずそれを実行するとだけ約束してその場を去った。


その時のあの化け物の姿は俺の中でトラウマとして残り、今思い出しても怖くて怖くてたまらない。


そんな想いを込めて言葉を吐き出すと、ニールもイザベルさんもそれに同意し身を震わせたが、リーフ様だけはどこか遠いところを見つめる様にぼんやりとしていた。


一体どうしたんだろうと三人で顔を見合わせた後、イザベルさんが様子がおかしいリーフ様に声をかけようとした瞬間────……。


────ガシャンっ!!



カラカラカラ…………。


何かが落下する音が日の当たらぬ薄暗い脇道から聞こえ、なんと俺たちは出会ってしまったのだ。


見たことのない真っ黒な髪と瞳、半身は隠されているが、ところどころ見える赤黒く爛れた皮膚に見たこと無い文字が刻まれている姿を持つ────『名無しの化け物』に!!


以前見かけたままの恐ろしい姿に俺は固まり、その後起こったことはよく覚えていない。

リーフ様が去った後、俺とニールはとてもではないがランチに行くことは出来ず、フラフラと家に帰ることとなってしまった。


そしてやっと到着した家には両親が既に待ち構えていて、早く帰ってきた俺を見た途端に青ざめ「何があった?!」と叫びながら、両親は両側から交互にユサユサと俺の体を揺する。


『あー……これ、俺がリーフ様の機嫌を損ねてしまい早くに帰宅したと思われているのか……。』


ぼんやりしている頭でそれを理解した俺は、それについてはきちんと否定し「少々変わった人だがとても穏やかな人物だった。」と答えた。


「そ、そうか……。」


両親は揃ってほーっと大きく息をついたが、次に続く言葉に顔色は青を通り越して、真っ白へと変わっていく。


「『名無しの化け物』に途中で会った。」


「リーフ様が話しかけてた。」


「そして……なんか……おんぶされてた……??」


そうたどたどしく説明すると、最初に母がバターンと倒れ、続いて父はガタガタと崩れ落ちた。

その音を聞きつけた姉が驚いて部屋に飛び込んできて、俺に「何を言った?!」と詰め寄ってきたので、両親同様パンク寸前の頭で説明をすると、姉も白目を向いて倒れてしまう。

そんな三人を見下ろし、俺もスッ〜……と意識を失い、気がつけばベットの中だった。


その後ニールの両親と共に大騒ぎとなり、俺とニールはまず教会で一日中神官長のお祈りをしてもらい、その後は自宅謹慎。

そして毎日の神官見習いの方の訪問を変わる変わる受け、やっと外出許可が降りたのは小学院入学の直前であった。


入学院式前日の夜、我が家では家族会議が開かれ、明らかに疲弊した様子の両親が現在のリーフ様の状況を説明した。


あの日以降、あの化け物はリーフ様のお屋敷を訪れては遊び相手になっていて、朝早くから夜遅くまでずっとそこに入り浸っているそうだ。

更に俺が説明した通り、化け物に背負われているリーフ様の姿も度々見かけるそうで、『あの呪いは伝染るタイプのものでは無い』という事は既に証明されているとのこと。


両親は、「何をお考えか……。」「なんて恐ろしい!」「絶対に関わりたくない。」「……でも……。」とぶつぶつと呟いた後、沈黙する。


それからどれくらいの時間がたったか……家族内で一番せっかちな姉が、「いや、『でも……』の続きは? 」とツッコミをいれたその瞬間────父は、ふっと憂える笑顔を浮かべて一言。


「リーフ様のお心のままに……。」


要は、呪いという目に見えぬ脅威や自身の恐怖する心より、優先すべきは目先の権力と……そういうことである。


ここで権力を優先しなかった場合、確実に全員の首が飛ぶ。

それを理解出来ぬものは、この場にいなかった。


姉は、一瞬の沈黙の後、フフンッ!と精一杯余裕そうな様子で笑って見せた。


「ど、どうせあの化け物を物珍しいおもちゃとでも思って遊んでいるだけよ!高位貴族様の流行は早いからきっとすぐに飽きるわ。」


ガタガタと震える体を押さえながら言ったが、俺は『本当にそうなのだろうか?』と疑問を持つ。


あの高位貴族らしからぬ言動と行動を思い出すと、そんな『貴族らしい』方には見えなかったし、そもそも遊びに自らの命を張るような事をするだろうか?と思ったからだ。

それに……もし遊びだと仮定すれば、護衛のイザベルさんや身分が低い俺やニールに触れさせ、様子を見るのではないか?とも思ったのだが、目の前で俺に無理をさせて済まないと謝る両親、恐怖に震える姉を前に言う気にはなれず口を閉じる。

そして現状を理解し、やはり高位貴族は俺にとって理不尽で横暴で家族を悲しませる存在なのだとそう思い直した。


次の日、小学院に向かう前に早めにニールと合流し今後の事を話し合う。

やはりニールも同様の事を両親に頼まれたそうで、その際彼の母親は号泣しながら「ごめん……ごめんね。」と謝ってきたそうだ。

いつも飄々としているニールが、今日は見たことも無いほど落ち込んでいるように見え、俺の気分も同じく落ち込んでいった。


「……仕方ない。」


「……言われなくてもわかってるっすよー。」


ニールのため……というより自分に言い聞かせるため言った言葉、ニールも同じ様に見えた。


この国は王族が頂点、その下に貴族、平民と続き、更に下は下民、奴隷と続いていく。

その中でイシュル教会のみがその身分制度から独立しているが、我が家は男爵家でそれは関係なく、その身分制度から逃れることは決して出来ない。 


仮にそれに異議を唱えたところで家が取り潰されるだけ。

だから大人しくその地位に収まっているが、そこでは俺もニールもあの化け物同様高位貴族のおもちゃの一つに過ぎないのだ。


暇を潰すおもちゃ、便利に使える道具。

そんなものごときが何か気に障ることをすればあっという間に壊される。

俺達の様な低い身分の者たちは、彼らが飽きて捨ててくれるその日まで目立たず大人しく従い彼らの欲求を満たし続けるしかないのだ。

その中で多少使えると思ってもらえれば────平穏に暮らすことも出来るだろう。


俺はふぅ……と大きく息を吐き出し、これから俺が仕えなければいけない高位貴族のリーフ様について考えた。


やはりリーフ様も他の高位貴族同様、我々下位の者達をこの様に振り回し慌てふためく姿を見て笑うおつもりでこの様な暴挙にでたに違いない。

現に俺の家族も、ニールの家族もそして街の人々も恐怖に怯える日々を過ごす羽目になったのだから、その企みは大成功したと言えるだろう。


────穏やかそうな外見はリーフ様の仮の姿だから、それに騙されてはいけない。


隣のニールはとっくに覚悟を決めているようで、ニッコリと笑いを張り付け、感情を完璧に心の奥に隠していた。

どんなに理不尽な眼にあっても、俺達は笑っていなければ家族を守ることが出来ないのだ。


だから俺は完璧に笑って見せよう。

どんな目にあおうとも……。


────────などと決意していた時期が、俺にもありました。


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