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天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します  作者: バナナ男さん
第二章(リーフ邸の皆とレオン、ドノバンとの出会い、モルトとニールの想い)

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(ニール)98 ニールの気鬱

(ニール)


俺にとってレオンは世で言う『恐怖』のすべてつぎ込んだ様な存在で、正直同じ空間内にいるだけでも怖くて怖くてたまらない存在であった。


それはモルトも他の同級生も教師達も全員同じ気持ちを持っていて、呪いが伝染らないとしても、直視すれば生理的な恐怖が湧き出る。

そして、何よりもあの感情が一切感じ取れない目がゾッとするほど恐怖を与えてきた。

あんな真っ黒で底なし沼のような目でじっと見つめられ続けたら、確実に漏らしてしまうと思う。


しかし、それほど恐ろしい目をしているレオンに見つめられても、リーフ様は普通。

俺はとてもじゃないが、リーフ様の様と同じ様にレオンに接することなど出来はしない。


多分これは本能的な恐怖だ。

更にレオンはおよそ人間とは思えぬほどの頭脳と強さをもっていた。


何をやってもレオンの足元……いや足の裏すら遥か遠くと言えるほど及ばず、常に断トツのトップに君臨し続けるレオン。

それからかなりの差をつけて次席がリーフ様、そしてそのはるか下に3位以下が続く。

それが常識として定着する頃、俺もモルトも他の同級生たちも内心悔しくて仕方がなかった。


全員リーフ様に関しては負けを素直に認めていて、その理由も────……。


『公爵様だし。』


『自分たちとは既に生まれからして違うから仕方がない。』


────と、どこか最初から諦めていたため、さほど心に響く事はなかったがレオンは別であった。


レオンは『醜い化け物』で平民よりも格下。

最下層にいる人間であると、そんな思いが全員の心のなかにあったからだ。


自分の出来は良くなくとも『レオンはその遥か下』。

そう馬鹿にすることで安心していたのに、蓋を開ければ誰もを遥か下に置いてのぶっちぎりのトップ。

努力しても何一つ勝てない事実に嫉妬し、なんとか引きずり落としてやりたいとその事ばかりが頭の中を駆け巡る。


リーフ様に対しても、『なぜ生意気にも主人より目立つ下位のものを諌めないのか?』と見当違いな思いを抱くまで、俺の真っ黒な心は膨れ上がっていった。


そして、そんなもやもやした心で受けていた剣の授業中でのこと。

リーフ様とレオンが模擬戦方式で打ち合いをしていたのをぼんやりと見ていると、他の同級生達の視線も自然と2人に集まってきた。


2人の戦いはすごい。

こうしてみるとレベルが違うとまざまざと見せつけられる。


しかし、そんな戦いの中でもやはりレオンは圧倒的で、打ち込まれる攻撃はことごとく軽く回避され続け、とうとう体力の限界を迎えたリーフ様が立てなくなって打ち合いが終了した。

息も絶え絶えで横たわるリーフ様とそれをソワソワしながら見下ろすレオン。


『身分が遥か下の平民の分際で。』


『下僕のくせに生意気。』


『レオンは高位の存在であるリーフ様に負けるべきだ。』


そう思ったのは俺だけではなく、その場の全員が同じ気持ちを持ったようで、ヒソヒソと周りでその類の話が聞こえてくる。

勿論俺よりも貴族のなんたるかに小五月蝿いモルトなどは、あからさまに不快な顔を見せていた。


『レオンという平民よりも下、誰からも疎まれる必要とされない存在は、身分がはるか上のリーフ様よりも常に下にいなければならない。』


それこそが正しい世の姿だ!


そう頭の中で声高々に叫ぶ自分が見えて、それを叫ぶ自分が誇らしく感じた。


正しきを叫び、それを誰もが肯定してくれる。


自分は何一つ間違っていない、正しき世界の一部になれたのだと高揚した気持ちを抱くと、その場の全員が一つの集合体になれた様な感覚になって……それがとても心地よいと感じた。


リーフ様だってそう思いますよね?

だってそれが正しい世界の姿なんですから!


そう語りかけるようにリーフ様に目線を向けたが……リーフ様は、それに賛同する事なくそのままゴロゴロと右へ左へ転がり回り回る。


『くやし────!!』


『くそ〜!!次は俺が勝つぞ────!!』


そして心底悔しそうに吐き出した後は、地面に転がったまま動きを止めて、ブツブツと独り言を始めてしまった。


『あそこで足払いすればもう少しいけたかも〜。』


『今度はこの動きを取り入れてみようかな〜。』


更にキョトンとしている俺たちの前で、地面にガリガリと何かを書きながら、一人反省会を始めてしまう。

そうしてその後、誰も言葉を発せずシーン……としている中、リーフ様は一言ポツリと呟いた。 


『レオンは強いね。』


それを聞いた瞬間────……声高々にこの世界の正しきを叫んでいる自分の姿が、俺を下位貴族と散々馬鹿にし罵る嫌な高位貴族達の姿と重なった。


『身分が遥か下の男爵の分際で。』


『男爵ごときのくせに生意気。』


『ニールは高位の存在である私達に負けるべきだ。』


それは自分があんなに嫌だと、傷つけられてきた言葉そのものではないか!


その事実に気がつくと、自身の心に衝撃が走り抜け、思わずヘタリと地面に座り込んでしまう。


自分は大した人間ではない。


突出した実力も、才能もなく人を惹きつける何かなど何一つ持っていない。


努力するのはとても大変で、したところで才能があるやつには到底敵わないし────だったら頑張っても無駄じゃんとそれを怠る。


目先の娯楽に飛びつき実力はいつまでもつかぬまま、その先にある未来からずっと逃げ続けていた。


言い訳とごまかしでこれでもかと武装して。


そんな俺にとって、レオンの存在は都合が良かった。

自分がどんなにたいした人間でなくとも、そのはるか下に常にいてくれる存在。

努力という苦労をせずとも自分が下にならなくていい存在は、自分を安心させてくれた。


俺は……いつの間にか自分を馬鹿にしてくる嫌な高位貴族達と同じ存在になっていたらしい。


目の前では一人反省会を終えたリーフ様が、もう一回とレオンにまたもや挑んでいく姿がある。

そしてまた完膚なきまでに負け、反省会、負けて反省会、負けて────……俺よりはるか上にいるリーフ様は、常に努力をし続けていた。


『レオン』を言い訳に使いながら立ち止まる俺をはるか下に残して、このまますぐに見えなくなってしまうだろう。


そう思った瞬間、今まで見えていた世界は粉々に砕け散り、心をベッタリ覆っていた黒いものも同時にサラサラと砂の様に消えていった。

そして中から真っ白な心が姿を現すと、自分に対しての恥ずかしさ、情けなさ、不甲斐なさが沸き起こり、それに対しての怒りへと変わる。


どうしようもないその感情は、おおきな『原動力』となり俺の全身に広がっていった。

居ても経ってもいられなくて、同じ様に隣でへたり込んでいたモルトに声をかけると、いつになくその目はランランと輝いていたので、その日はヘトヘトになるまで一緒に打ち合いをしたのだった。


『努力したって何も変わらない。』


『頑張ったって勝てないなら意味がない。』


そんなすぐそこにある未来しかみえてなかった俺に、それを続けた事でいつか訪れる遠い未来を見せてくれたのは、リーフ様と……あれだけ馬鹿にしていたレオンだった。


ずっと見慣れた景色のまま、ただいたずらに歳を重ねただけの遠い未来で、きっと言い訳とごまかしは無敵の城塞のように自身を囲い、本来の自分の姿はもはや見つけることは出来なくなっていることだろう。


それに気づいてから、俺はレオンに対し友達……とまでは行かないし、恐怖感がなくなることはなかったが、すぐ側にいても気にならなくなるまでには関係が改善した。

ただ、距離が近くなったことで、今度は別の恐怖に似た感情を感じる羽目になる。


感情を全く感じないレオンの目────それがリーフ様に対してのみ、その目に光が灯る事に気づいてしまった。


レオンは絶対的にリーフ様に忠実だし危害を加える心配はしていない。

しかし、それは日増しにドロドロと粘着性の高いものに変化していく様に思えて、オレは不安を感じた。


具体的に何が不安なのかと問われても説明することができないのだが……リーフ様が言う些細な言葉一つ一つをレオンがあのドロドロした目で完璧にやり遂げ、それをリーフ様に捧げる時に震えるほどの恐怖と不安が湧き出す。


レオンの視線は常にリーフ様にあり、離れることなく常に付き従うその姿は、下僕のものではなく明らかに行き過ぎた行為であることは間違いない。


俺同様、目が覚めた様に変わったモルトや他の同級生達も、以前とは違った恐怖によりレオンを遠巻きにしているわけだが────当の被害者とも言えるリーフ様は「いっそ呪われてない右半身を山ベリーで染めてみるか……。」と真面目な顔でトンチンカンな提案をしていた。



<山ベリー>


山に生息している植物の一種で、黒に近い豆粒ほどの実を沢山実らせる。

食べても美味しいが、熟した実はすりつぶして染料にすることも出来るため食用と分けて栽培される。

染色出来る色は、赤や黒に近い紫色。



『少し距離を置くべきではないでしょうか?』


モルトと2人でリーフ様に遠回しに伝えてみたが、返ってくる答えはやっぱりちんぷんかんぷんだ。


『その通りだ!虐めはいけない行為だからね。』


『いいかい?世の中には反面教師という言葉があってね?

この人は最低だと思ったら絶対真似をしては駄目だ。』


『は、はぁ……。』


とりあえず、言っている事は間違ってはないためモルトと共にコクリと頷いておいたが……なんか違うと思った。


そんなこんなで時がたつにつれ、俺もニールも他の同級生もさらには教員達でさえも、毎日毎日そんな光景を見せられ続けたことで、段々とそれが日常化していく。


レオンがゾッとするような目でリーフ様を見ていても。

至るところでおんぶしていても。

常に付き従い終いにはリーフ様のトイレにすら一緒に入ろうとするようになっても。

それは当たり前の日常となっていった。


少なくとも俺にとって、レオンは『人』という認識ではなく、リーフ様が所有する高性能の魔道具の類だと、今はそう思っている。

そして俺はそんな『変わり者のリーフ様』とそれにくっつく『高性能魔道具の下僕のレオン』と共に、今日も明日もその次の日も『普通の日常』を過ごすのだ。



明日から新章スタート、三年後です〜

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― 新着の感想 ―
な~んか、よく分からないことになってますねぇ。預言されたものよりはよくなりましたが…まぁ、本人達がいいなら別によいのですが。
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