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悪い魔法使いを捕まえるお仕事  作者: 中谷誠
三章 去りし君との約束

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命に、報いるために②*

「駄目だ。部屋にも居ない」


 騎士団の一室、エドガーは扉を閉めながら言う。その口調には苛立ちと焦りが込められていた。

 それもそのはず。彼が探しているのはこの班の班長であるアイク。昨日、休むといってこの部屋を出てから連絡が途切れている。通信用魔具へ幾度も連絡を試みているが反応は一度もない。

 部屋にはアイクを除いた四人が待機している。エドガーもため息をつきながら席に座った。表情は強張り緊張が張り付いている。エドガーだけではない。他の皆も神妙な面持ちで席についている。


「困りましたね。どこに行ったのでしょうか」


 そう言ってマリーは窓に目を向けた。窓の外は粉塵が渦巻き、視界は完全に遮られている。断続的に続く銃声と爆発音が硝子を抜け耳を叩く。ついに、内乱が始まっていた。


「流石にアイクを置いて帰るわけにはいかないしね」


 低い声でマルティナが呟く。窓に向けられた視線は鋭く、眉間には深い皺が刻まれていた。

 内乱が始まった今、彼らには帰還命令が通達されていた。国民と騎士が衝突し、町の至る所で黒煙が上がっている。まだこの内乱は王都に留まっているがいずれ国内全域へ広がっていくだろう。帰還が困難となる前に行動しなければならない。

 エドガーは腕を組み首を捻る。


「まさか、内乱を止めに行ってるとかじゃないよな……?」

「そんな無計画な事する人じゃないでしょ」


 マルティナの指摘に対して顔を沈めた。「そうだよな」と同意するも、それ以降の言葉は出ない。漠然とした不安がエドガーの頭を支配していた。

 昨日、いや、フォリシアに来る前からずっと彼の様子は不安定だった。ノエから彼がフォリシアから離れた理由を聞いた事で、故郷を拒む心情も理解できる。しかし、それでもこの音信不通の原因だけは分からなかった。班員として共に命がけの戦場を歩み、信頼を置いているからこそ今回のこの出来事は胸騒ぎがする。


 激しい爆発音が近くで響き渡った。爆風が窓硝子を激しく叩きつけ、建物全体が地響きと共に揺さぶられる。これも、何度目か分からない。


「ここも、安全とは言えなくなりそうね」


 ヴィオラが小さく呟く。息と共に吐き出されたその言葉に誰も、何も言う事が出ない。外に轟く術式の音がさらに不安を煽っていた。


「あたし、探してくる」


 決心したようにマルティナが立ち上がる。エドガーはそれに対して顔を顰めた。


「どこを? 当てなんてないだろ」

「それでも何もしないよりマシでしょ」


 棘を含む低い声。琥珀色の瞳は冷たくエドガーを一瞥する。ただ座って待つのを咎める視線だった。


「虱潰しに探したって意味ないだろ。余計な怪我するだけだ」


 反論を述べる彼女に対してエドガーも立ち上がった。


「この状況で待機って言いたいわけ?」

「最初からそう言ってんだよ」


 エドガーも負けじとマルティナを見た。睨み合いどちらも引こうとしない。二人とも、心配しているからこそ行動に移そうとし、そして安全策を取ろうとしているのだ。

 手を叩く乾いた音が張り詰めた空気を破る。音の発生源であるマリーは伏せていた顔を上げ、両者を交互に見た。


「落ち着いてください。仲間同士で争うのが一番無駄です」


 マリーの言葉にエドガーは着席し、マルティナも顔を逸らす。それでも、二人の間、いや部屋全体に重苦しい雰囲気が漂っていた。班長不在という不安が焦燥感を駆り立てている。マリーの瞳も小さく揺れ動き、動揺の色を浮かべていた。


「エドガーさんのいう事も正しいのですが、ここも安全とは言えません。場所を移す必要はあるでしょう」

「でもどこに?」


 提案したのは良いが、マルティナの問いに答えられない。分かってはいるが身動きが取れない状況が続いていた。アイクの行方に当てはなく、戦火を避ける場所も知らない。最悪、彼を置いて撤退しなければならないのだがそれはどうしても避けたいと思っていた。組織としてこの判断はありえないと思いながらも、これまでの信頼がその考えに至らせる。


 エドガーはフォリシアに来てから今日までに思いを馳せる。町の散策から竜の発生、ほぼアイクと行動を共にしていた。そこで浮かべる彼の表情は、まぁ仕方ないと思う。おかしいのは昨日から。そう、ユーフェミアと出かけた後から彼の変化は顕著になった。それと今回の事態が関係しているのか、エドガーは思考を進めていく。


 アイクは無責任に仕事を放棄するような人物ではない。ならば、想定外の事に巻き込まれたのか。それとも、意図して自分達に何も伝えず行動に移ったのか。

 ふと任務説明時のかれの言葉を思い出す。『知り合いが犯人である可能性は十分ある。俺が加担する事だって……』確か、そのような事を言っていた。当時の光景を思い出しエドガーは首を振る。そんな正義に背く行為、そのような事は決してないと信じたい。信じたかった。


 突然、甲高い破砕音が部屋に響き渡る。部屋後方の窓硝子が割られ、部屋に何かが転がり込んだ。

 各々が即座に立ち上がり武器を構える。転がっていく侵入物に対してヴィオラとマリーはそれぞれ障壁魔法の術式を展開し、いつでも発動できるように待機していた。

 それは徐々に動きを緩め、反対側の壁に当たるとゆっくりと動きを止める。それ以降微動だにしない。爆発物ではないと判断しマルティナが近付いて行った。拳程度の球体を手に取り首を傾げる。


「何これ」


 球体は中央に線が走り左右別れるようになっていた。耳に近付け中の音を確認。重さも特に感じず、火薬等の匂いもしない。警戒しつつ力を込めるとそれは簡単に開いた。中には折りたたまれた紙が三枚入っていた。


「手紙、ですか?」


 マリーが問うと「そうみたい」と答えながら一枚一枚紙を広げていく。一枚目の紙を見た後、マルティナの目が驚愕に見開かれた。即座に紙を入れ替え、次の文章に目を通す。表情を変えないまま瞳は左右忙しなく動き、そして最後の紙へ。三枚目を見た後、彼女は目を伏せ深い溜息をついた。顔にはなぜか疲労の様なものが浮かぶ。


「何が書いてあるんだ?」

「皆も見た方が良いよ」


 マルティナはそう言って机に置いた。皆が武器を収納すると近付き並べられた紙を囲う。三枚の内二枚は文字が書かれている。


「なんでこんなものが?」


 もう一枚の紙をみてエドガーが顔を顰めた。それは、王城の精密な見取り図だった。任務説明時に使ったようなものではなく、通気口から隠し通路、全て書き示されている。こんな物が外部の、しかも術師協会に渡るのは重大な漏洩ではないのか。しかし今それを追求する時間はない。不審に思いながらも次の紙に目を向けた。そこには長々と紙一枚に渡って文章が書かれている。


「『まず、このような形で連絡を取る事を深くお詫び申し上げます。私は第四王女ユーフェミアです』……!?」


 文章を読み上げたエドガーが驚愕に顔を上げる。予想外の人物からの手紙に一同は顔を見合わせた。マリーが静かに頷くと、その先を読み進める。


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