第65話:未練たらしい男だ~ブラッド視点~
「ラドル殿が犯した罪は、これで全てです。皆様、今日は私、ブラッドの為のお別れ会に来てくださったのに、この様な展開になってしまい、申し訳ございませんでした。ですが私は、どうしても彼の事を許すことが出来なかったのです。
このままアントアーネの評価を下げたまま、国には帰れない。それならこの場をお借りして、皆様に真実を知ってもらいたかったのです。王太子殿下、王太子妃殿下、それに本日参加してくださった貴族の皆様を巻き込む形になってしまったこと、心よりお詫び申し上げます」
深々と皆に頭を下げた。隣ではアントアーネも一緒に、頭を下げてくれている。彼女にまで頭を下げさせてしまったのは、よくなかったな…
「ブラッド殿、それにアントアーネ嬢も頭を上げてくれ。実は今回の件、事前にブラッド殿から相談を受けていてね。私が今回の件を、提案したのだよ」
「ラドル様の行い、断じて許されるものではありませんからね。それに貴族学院の隠ぺい体質も、今後見直さないといけない様ですね」
「王太子妃殿下のおっしゃる通りです。まさかこの様な事が、学院内で行われていただなんて。学院の秩序を乱す重大な事件ですぞ」
「それにブラッド殿のお陰で、闇の組織の調査も随分と進みましたしね。それにしても、リューズ王国のスパイたちは、本当に優秀ですな。あんなにあっさりと、闇の組織のアジトに潜入できるだなんて」
「今頃、闇の組織は騎士団たちによって、一網打尽になっている事でしょう」
王太子殿下や王太子妃殿下、さらに公爵・侯爵など、高貴な身分の人たちが次々と声を上げてくれる。俺は事前に、彼らに今回の件を話しておいたのだ。そして今回の件、一番ノリノリだったのが、王太子妃殿下だ。どうやら王太子妃殿下の姉君も、昔酷い男につかまり、傷ついたことがあるらしい。
「ラドル殿、ブラッディ伯爵、夫人。君たちには厳しい処分が出る事を、覚悟しておいておくように」
王太子殿下が、彼らにはっきりと告げたのだ。
ショックから夫人はその場で意識を失い、ブラッディ伯爵も真っ青な顔をしてうなだれていた。
ただ、なぜかスッと立ち上がったのは、ラドル殿だ。フラフラとこちらにやって来た。目はうつろで真っすぐアントアーネを見つめている姿は、俺ですら恐怖を抱くくらい異様な光景だ。
アントアーネも恐怖からか、俺の後ろに隠れている。この男、何をするつもりだ?
「アントアーネ…本当にすまなかった…僕が全て悪かったよ。君の言う通り、僕は君を独り占めしたかっただけだったのかもしれない。自分の事しか考えていない、愚か者だ。
君がいないと生きていけない情けない僕を、どうか見捨てないでくれ。君がいない世界だなんて、生きる意味がない…どうしても僕を受け入れられないなら、いっその事、このナイフで」
ポロポロと涙を流しながら、アントアーネに近づいてくる。そしてナイフを差し出したのだ。
「私に人を殺せというのですか?その様な事は、できません。私の事をそこまで思って下さるのは有難いのですが、もう二度とあなたの傍にいる事はないでしょう。ですからどうか、しっかりと罪を償って下さい。
それがあなたが今できる、唯一の事です。どうかこれ以上、あなたへの憎しみを私に植え付けないで下さい。もう私の中では、あなたは過去の人なのですから」
「過去の人?そんな…嫌だよ…僕は…」
「君たち、すぐにラドル殿を連れて行ってくれ!」
これ以上この男を、野放しにしておくのは危険だ。そう思い、すぐに控えていた護衛たちに、ラドル殿を連れていくように指示を出す。
「待ってくれ…ブラッド殿、頼む。アントアーネを連れて行かないでくれ。僕にはアントアーネが全てなんだ。彼女のいない世界でなんて、生きていけないよ。お願いだ、何でもするから」
そう泣き叫びながら退場していくラドル殿。最後まで往生際の悪い男だ。
彼には今後、いばらの道が待っているだろう。だが、それも自分でまいた種、自業自得だ。
やっと全てが終わった。アントアーネの無念も、これで晴らせたかな。ラドル殿の後ろ姿を見つめながら、胸をなでおろしたのだった。
※次回、アントアーネ視点に戻ります。
よろしくお願いします。




