第60話:君を逃がさないよ~ラドル視点~
「ラドル様、アントアーネ様をうまく捕まえた様です。ただ、今は人が多くアントアーネ様を動かすのは危険ですので、今、伯爵家の地下牢で休んでいただいております」
「ありがとう、助かったよ。やっぱりプロに頼むと、仕事が全然違うね。文句も言わないし、失敗もしない。僕も折を見て、アントアーネに会いに行くよ。きっと暗い地下牢で、寂しい思いをしているだろうし」
「承知いたしました。では、後でうまくアントアーネ様の元に、誘導いたします。ラドル様は、一度パーティ会場にお戻りください」
「ああ、分かったよ」
きっと今頃、アントアーネがいなくなったと、ブラッドが大騒ぎをしている頃だろう。ただ、今日はこの国の王太子殿下夫妻を始め、沢山の高貴な身分の貴族たちも来ている。
彼らの相手をしないといけないだろうし、なにより高貴な身分の貴族や王族たちの前で、伯爵令嬢がいなくなったと、騒ぎ立てる事も出来ないだろう。
まさかこのタイミングで、伯爵家でパーティを開いてくれるだなんて、本当にブラッドには感謝しかない。
僕はあの後、何としてでもアントアーネを取り戻したくて、裏の組織の人間を雇った。当初の予定では、リスクは大きいが、伯爵家を襲撃してアントアーネを誘拐しようと考えていたが…
まさか自ら僕たちを、伯爵家に迎え入れてもらえるだなんて。ブラッドのお別れ会のパーティの招待状が来た時、神様に感謝した。これで堂々と伯爵家に入れるのだから。早速奴らに伯爵家の使用人に扮して、伯爵家に潜入してもらった。
そして何度も話し合いを進め、アントアーネが1人になった瞬間に誘拐するという計画を立てたのだ。とはいえ、あのにっくきブラッドが、ずっとアントアーネの傍を離れないだろう。あいつがアントアーネの傍を離れるタイミング…それは、アントアーネがお手洗いに行く時くらいだ。
その為、アントアーネの飲み物に利尿作用のある薬を入れ、お手洗いに入ったタイミングでアントアーネを捕獲するという流れだ。どうやらうまく行った様だな。あいつらを雇うのに、随分お金がかかったが、まあ、何とかなるだろう。幸いうちの領地は、経営も順調だし。
さすがにアントアーネを、地下牢に閉じ込めるのは可哀そうかとも思ったが、この半年、ずっと僕を避け続け、ブラッドと仲良くした罰だ。これからはアントアーネが頼れるのは、僕だけ。
すっかりブラッドのせいで性格がひん曲がってしまったアントアーネを、ゆっくり教育をしないと。僕しか頼れなくなって、僕に執着していくアントアーネ、きっとものすごく可愛いのだろうな…
考えただけで、胸が高鳴る。
ああ…早くアントアーネに会いたいな。でも、その前にブラッドの様子を見に行かないと。
ホールに戻ると、貴族たちの相手をしているブラッドの姿が。あんなに涼しい顔をして、まさかまだアントアーネが行方不明なのを、知らないのか?愚かな男だな…
まあいい、ちょっとからかってやるか。
「ブラッド殿、こんばんは。君とは色々と衝突する事もあったが、それでも半年間一緒に過ごせてよかったよ。リューズ王国に帰っても、僕の事を忘れないでくれよ」
本当はこんな男、さっさと帰ってくれと思っているが、ここは社交辞令として、そう言っておいた。
「ラドル殿、今日はパーティに来てくれてありがとう。もちろん、君の事は絶対に忘れないよ。君もサルビア王国で頑張ってくれ。期待しているよ」
笑顔でブラッド殿が答えたのだ。こいつ、アントアーネが行方不明になった事を、本当に知らないのか?それとも、僕の前で強がっているだけか?せっかくだから、もう少しからかってやろう。
「そういえばアントアーネの姿が見えない様だけれど、どうしたのだい?いつもアントアーネの傍から離れない君が、珍しいね」
「アントアーネは少し体調を崩して、今休んでいるのだよ。もう少ししたら、戻って来るから」
一瞬怪訝そうな顔をしたブラッド殿を、僕は見逃さなかった。なんだ、やっぱりアントアーネが行方不明になった事に、気が付いているのだな。それなのに、僕の前では強がっちゃって。本当に愚かな男だな。
「そうなのだね。アントアーネに、お大事にと伝えてくれ。それじゃあね」
そう言い残して、僕はその場を去る。
さて、そろそろアントアーネに会いに行くか。きっと僕に泣きついてくるはずだぞ。
次回、ブラッド視点です。
よろしくお願いします。




