第58話:無事卒業式を終えました
馬車に乗り込むと、お兄様とイリーネお姉様に向かって手を振った。こんな風に2人に見送ってもらえるだなんて、なんだか幸せだ。
「随分嬉しそうだね。そんなにイリーネ嬢が好きなのかい?そういえば昔もイリーネ嬢にベッタリだったものね…」
ポツリと呟いたブラッド様。なんだか不機嫌な様な気がしていたが、もしかしてイリーネお姉様に嫉妬?さすがにないわよね。あのブラッド様が、それに相手は女性だ。でも、発言的にみても、そうよね。
「イリーネお姉様は、姉の様に慕っているだけですわ。私が好きなのは、ただ一人、ブラッド様だけですので」
そう伝え、頬に口づけをした。こんな風に嫉妬してくれるだなんて、ブラッド様も可愛いところがあるのね。
「アントアーネ、俺をからかっているのかい?口づけをするなら、こっちの方がいいな」
一気にブラッド様に唇を塞がれたしまった。その上、どんどん深くなっていく。ちょっと、ここは馬車のなかよ。一体何を考えているのよ。それに、こんなにも深い口づけをしたのは、初めてだ。
一気に恥ずかしくなり、体中が熱くなる。
「アントアーネ、顔が真っ赤だね。可愛い」
「わ…私をからかってのですね。酷いですわ」
「先に俺をからかったのは、君の方だろう。それにしても、本当にアントアーネは可愛いね。こっちにおいで」
次は私を抱きかかえると、そのまま膝に座らされたのだ。今日のブラッド様は、いつも以上にベッタリだ。
「ブラッド様、そろそろお膝から降ろしてください。貴族学院が見えてきましたよ。万が一誰かに見られたら、恥ずかしいですわ」
「俺たちはいずれ婚約をするのだから、別にいいだろう。それに、誰も馬車の中なんて、見ないよ。もう少しだけ、こうさせていて」
こんな風に甘えられたら、これ以上何も言えない。仕方ない、馬車に乗っている間は、このままにしておこう。
「ブラッド様、学院に着きましたよ。馬車から降りましょう」
「もう着いてしまったのか。仕方ないな…それじゃあ、会場に行こうか」
ブラッド様と馬車を降り、会場へと向かう。途中、ラドル様の姿を見かけたが、何かを言ってくることはなかった。あら?珍しいわね、いつも無駄に絡んでくるのに。もう諦めてくれたのかしら?
それとも、今日のお別れパーティが終わったら、ブラッド様はリューズ王国に帰る。そうすれば、ゆっくり私との距離をつめればいいとでも、考えているのかしら?どっちにしろ、面倒な人が絡んでこなくてよかったわ。
その後式は滞りなく進んでいき、無事卒業証書を手にした。これで私は、貴族学院を無事卒業したことになる。大きな顔をして、リューズ王国に行けるわ。
周りでは卒業式を終えたクラスメートたちが、楽しそうに会話をしたり、記念の写真を撮ったりして過ごしている。中には涙を流して、別れを惜しんでいる人たちもいる。
決して羨ましい訳ではない、羨ましい訳ではないが…もしラドル様があんな酷い噂を流さなければ、もしかしたら私もあの輪の中にいたのかしら?
なんて、野暮な事を考えてしまった。
「アントアーネ、俺たちも写真を撮ろう。制服姿のアントアーネを、残しておきたいしね」
「ええ、そうしましょう」
ブラッド様と並んで写真を撮った。そうよ、私にはブラッド様がいる。彼がいれば、何もいらない。
そんな思いで写真を撮った。
そして帰りの馬車に乗り込む。これでもう、本当にこの学院に来る事もないのね。そう思うと、なんだか悲しい気もする。
辛い事も多かった学院生活だったけれど、それでもこの学院生活があったからこそ、ブラッド様との仲も深まったのだろう。
さようなら、貴族学院。そしてありがとう。
校舎を見つめながら、心の中でそっと呟いたのだった。




